第一章 白狼に育てられた少年(19) 光の使い(4)
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大人達の会議の翌日もセイラは街に出た。行き先はいつもと同じ貧民街。隣をラルゴが歩き、美麗な衣装の教会騎士達は手押し車を押し、牽いていた。その姿が人々の嘲笑を誘った。
やってられるか。と一人の教会騎士がその場を離れた。そしてもう一人・・・と。
警護のものが少なくなるのを狙ったか、ならず者達が手押し車の積み荷を狙って集まってくる。ラルゴがセイラを庇おうとする。
「積み荷を守って。」
セイラの凛とした声が飛ぶ。
「それはここの困っている人達に欠かせない物です。」
五月蠅いんだよ・・とラルゴ達の手を逃れたならず者の一人がセイラの頬を張った。
目に涙をにじませながらも幼いセイラはキッとならず者を睨み付けた。
幼いセイラの眼の光りに何を感じたのか、そのならず者は後ずさった。それをラルゴが後から殴りつけた。
「帰りましょう、今日は。」
ラルゴはセイラを抱き上げた。
「降ろして、困った人達が待っています。」
セイラは小さくはあるが良く通る声でそう言った。
「本物か・・・」
教会騎士の報告を受けたホンボイが尖塔の最上階で唸った。
ボルスとヨゼフを除く枢機卿達は自身の身の栄達だけを考え、一族の繁栄を望んだ。その為にはセイラにはおとなしくお飾りとして座って貰うのが一番。それにラルゴの行動・・・
思い悩むホンボイの肩がポンと叩かれた。
振り向くとそこにはヨゼフが立っていた。
「ここは七賢者様の部屋、そこで何を。」
「ヨゼフ・・・」
ホンボイは言葉に詰まったが、ここなら人に邪魔されずに考え事が出来るから。と言葉を言い繋いだ。
「何かお困りですか。」
何かを言いかけたホンボイは口を閉ざした
「隠さずとも大丈夫です。あなたの心は解ります。」
ヨゼフはホンボイの肩を抱いて尖塔の螺旋階段を降りながら何か耳打ちした。
その夜会議が開かれた。
「ラルゴ将軍の提案を呑もう。」
ホンボイはそう切り出した。
「暫く様子を見ると言ったが、今日のことを同行した教会騎士から聞いた。」
ホンボイは議場を見渡した。
「あれは子供の我が儘で出来るものではない。まさに“光の使い”。
今後はここルーメンスブルグだけではなく廻りの集落にもその“光”を拡げて貰う。
その為にはセイラ様をお守りする組織が必要・・その名を・・・」
「名前なんてどうでもいい。」
ラルゴはホンボイの話を途中で切った。
「俺が抜けて遠征軍はどうする気だ。」
「あなたに抜けて貰っては困る。
あなたは遠征軍の総監として・・・」
「それではセイラの元についていれない。」
「あなたの代わりに将軍をおきます。今はそれ程大きな戦いもない。あなたにはアウクスラムを率いて貰い、大きな闘いの時には遠征軍の総監として全体を見て貰う。闘いが大きければセイラ様は安全の為、後宮にいて頂かなければなりませんから。」
ラルゴはヨゼフが言うアウクスラムの意味を尋ねた。
「大昔の言葉で救護という意味です。」
枢機卿の一人がそう答えた。
良かろう。とラルゴは首を縦に振り、
「俺の後は誰がなる。」
と尋ねた。
「カナルではどうかな・・と思っている。」
ホンボイの声にラルゴは今度も肯定の意を表した。
「で、救護兵とやらの人員はどうやって選ぶ。」
「志願者を募ります。が、何人くらい必要ですか。」
「十四、五人で結構。が、俺が面接する。」
「予備員もいれて三十人でいかがでしょう。その者達はセイラ様の希望に応える為教会の近くに住ませる。」
話は決まりそれから組織作りが始まった。
「大丈夫か、ラルゴ。」
ラルゴの家でボルスが心配そうな顔を見せる。
「また・・・」
「利用されるってか・・確かに利用しようとするだろうな。お前はそれに眼を光らせ俺に教えてくれ。
俺はセイラを人々の中に入れ、私利私欲が強くなった枢機卿達から人心を外す努力をする。」
ルーメンスブルグには二つの勢力が出来上がろうとしていた。




