第一章 白狼に育てられた少年(14) 剣闘士として(1)
見世物興行の親方に渡された銀八の代価としてルードは剣闘士の組織の一員となった。
ルードはまだ八歳。その歳で訓練をする少年の中に投げ込まれた。ひとくくりに少年といってもそこには十歳未満から、十五歳くらいまでの少年達がいる。
体術を教えられ、闘いの方法を学ぶ。最初は己の肉体だけを使い、徐々に武器を扱うことを教え込まれる。
その前にまず体力を造ること、ルードは周りの少年達が苦労する中、なんなくそれをこなした。それを見た剣闘士の支配者はルードをその次の段階、対人格闘の段階に引き上げた。
そこでルードはまず十二才の少年との格闘をした。
唯の殴り合い、が、相手の動きがゆっくりと見える。相手の技と技との間を突いて拳を突き出す。と、相手が壁板まで吹っ飛んで悶絶した。
支配者は短い期間でルードをまた次の段階にあげた。そこは調教人と呼ばれる者が本格的に闘う相手を潰すことを教えていく。そこでもルードはすぐに頭角を現した。
後はまず己の拳だけで闘う拳闘士として試合に出ること・・拳闘士の試合、それは場末の木塀に囲まれた粗末な闘技場で殴り合う事。観衆は勝者になるであろう者に金を賭け、自分が賭けた者が勝てば賭け率に応じた配当を貰う。下層民達の娯楽であった。
ルードが最初に投げ込まれたのが将来を嘱望された少年達の一団。十二、三歳から十六、七歳までの将来有望な少年達、それらの噛ませ犬として選ばれた。
初めての相手は十三歳の隆たる筋肉の少年。筋肉質ではあったが細い身体のルードはそれ
に比し遥かに見劣りがした。観衆の囃し声の中ルードは叩き潰されるはずだった。だが、ルードの拳は速く硬かった。最初の一撃が相手の横腹にめり込み相手の身体が不自然なくの字に折れゲーッと声を上げた。
胃の内容物が口まで上がってくる。それを何とか飲み込もうとする所にルードの次の一撃がその少年の胃を抉った。
もう我慢ならなかった、少年は胃の内容物を撒き散らしながらのたうった。
「そこまで。」
調教人が止めなければルードの足は少年の頭に踏み降ろされ、少年は確実に死を迎えるはずだった。
何回目かの相手は自分より遥かに年上、十七歳の少年。ルードはこの一戦も優位に闘いを進めていた。
この野郎。と言いながらその少年は観客席に手を差し延べた。彼の仲間なのか、その手に鋼鉄の爪が着いた手甲が渡された。それを右手に嵌めると、その爪に長い舌を伸ばしニヤリと笑った。
殺してやる・・そう口にして少年はルードに殴りかかってくる。危うい所でそれを避けたルードの胸の皮膚がパックリと割れた。
チッとルードは地面に唾を吐き、貴賓席の支配者を見た。
その眼は殺れと読み取れた。
相手から遠く離れたルードは大きく息を吸い込んだ。
「刃物が怖いか。」
少年は尚もニヤニヤと笑った。
その姿に向け息を吸い終わったルードが瞬時に駆けた。
少年が鋼の爪を突き出した時にはもう既にそこにはルードの姿はなかった。
少年はルードの影を追いかけた。
その影は少年の右横の壁を蹴っていた。そこに拳を延ばす。だがその時には既にルードは少年の左側の壁を蹴っていた。それを目で追う。だが追いつかない。ハッと気付いた時にはもうルードの踵が自分の額の間近まで迫っていた。
少年を斃したルードは彼の手から鋼鉄の爪を取り上げて、それを支配者に見せた。
「お前のものにするが良かろう。」
支配者は興奮のあまり大声を上げた。




