第一章 白狼に育てられた少年(13) 継承(6)
翌朝早く、カイ達はハライカルを後にした。目指す岩山まで一日は優に掛かるという。その為早めに出て、岩山に掛かる前に夜を過ごす準備をするという計画だった。
山を目の前にする間にも取るに足りない魔物が現れた。がそれらはウィーゴと初めて魔物と戦うサンダールが斃していった。
夕暮れには火を熾し、テントを張り、その周りにカイが結界を張った。
翌朝目覚めると、結界の周りはもの凄い数の大百足に被われていた。
「すごい数だぞ・・どうするんだ。」
そう言うウィーゴの声に、
「私がやります。」
とカイが印を結んだ。
ドンと凄まじい音と共に衝撃波が結界の内から外へと走った。
それだけで大百足は全て消滅した。
「凄いんだな・・お前・・・」
ウィーゴがあきれ顔でカイを見た。
「さあ行きましょう、かたをつけに。」
ウィーゴの驚愕の言葉を意にも介せずカイは先だって歩き出した。
岩山に入ると次々と魔物が現れた。
それは苔生した岩かと思えば六枚の花弁のような口を開いて襲いかかるアクリスやら、鞣し革のような膚で尻尾のない蜥蜴が直立したチャパカブラやら、四つ足の虎の身体に竜の首から上と尾を持ったアツユやら獣族が多かった。
それらには主にウィーゴとサンダールが当たり、カチュとシルマがその手助けをした。
それらを斃していると岩山の石だらけの土が突然盛り上がった。
それは五カ所・・
「大石百足です。硬い身体に通常の武器は効きません。
私が・・・」
そんなカイの言葉が終わらぬうちにウィーゴが三メートルほどもあろうかという灰色の百足に飛びかかった。
梵字の斧が百足の身体を潰し、叩き割る。
さすがにドラゴの・・・
カイとカチュはそう思った。
だが相手は五匹・・
「黙って見ているんじゃないわよ。」
シルマがカチュの横から一直線に大石百足に斬り降りていった。その手にあるのはキャリバーン、起ち上がろうとする大石百足の身体を一気に斬り裂いた。
私も、と言わんばかりにカチュもそれに続いた。
その向こうから三頭の猛牛が突進してくる。
ボナコン・・熱いフンをまき散らし全てを燃やし尽くすと言われる。サイを思わせる身体がウィーゴに迫る。ウィーゴはそれをヒラリと躱し梵字の斧を振り下ろした。カキンと乾いた音がしてボナコンの太い角が折れ、行き過ぎ振り向くボナコンの額をウィーゴの斧が叩き割った。残る二頭のうちの一頭はヴァルナがずたずたに斬り裂き、ハベトの魔術で動きを止められた最後の一頭はカイが手にする杖の光の中で消え去った。
岩山には洞窟があった。そこに巣くっているのがキリム、角を生やした蜥蜴の頭を六つ背中から生やし、人の躰の全身は鱗に被われているという。
洞窟に入ると闇、そこにカイの杖の先から光が届く。その光に照らされ奥の壁にもたれた黄色い大犬が見えた。
「グーロだ。」
カイが言う側から唸り声が聞こえてくる。
「何にでも喰い付く。」
シルマとカチュが二体のグーロを相手にする為に前に出る。
「油断してはいけません。土の中にも何かいます。」
カイは動こうとする二人に注意を与えた。
紫色の大蜥蜴が土を振り払って次々と現れる。
「コカドリーユです。背中の棘には毒があり、その上毒の唾を吐きます。」
「ゴチャゴチャと五月蠅い。」
カイの声を遮って吠えるような声がした。人の腰の高さしかないウィーゴの二倍半はあろうかという怪物、キリムが手に槍を持って現れた。
「こいつは俺が斃す。」
ウィーゴが斧を片手に身構えた。
「ヴァルナはコカドリーユを・・ウィーゴの援護は私がします。」
カイはその場で印を結んだ。
「手助けなんか要らないよ。」
ウィーゴは他の者達が闘う合間をキリムの姿に向け駆けた。
「ガキが・・・」
キリムはそれを煩わしそうに撥ね除けようとした。それをウィーゴは素早く躱し、最初の一撃をキリムの左腕に与えた。
腕を切り落とされそこから妖気がボトボトと零れる。その痛みに吠えるのかキリムの口から凄まじい声が出る。その声と一緒に槍を突き出すが、その穂先はウィーゴに掠りもしない。
「嘗めてかかるからだよ。」
ウィーゴは必殺の一撃をキリムの唯一つの人の頭にたたき込んだ。
ハライカルの魔物が斃されたとの噂は瞬く間に拡がり、カーター・ホフの村に帰ったカイ達は妖精の国に入ることを許された。
一方、ニュールベルグに帰ったウィーゴは母が与えたサスカッチを持ってみた・・まだ重い。が使えないことはない。
ウィーゴはドラゴの姿を母に尋ねた。その聞いた話通り、サスカッチを背負い、腰には梵字の斧を差し、強化銀の籠手を腕に撒き、同じ材質の盾をサスカッチの上から背負ってみた。
これで訓練するしかないかな・・ウィーゴはその重さに決意を固めた。




