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第一章 白狼に育てられた少年(12) 継承(5)

×  ×  ×  ×


 ティルトがノヴァルミアスに帰るには多大な努力を要した。

 フィルリアで千人の兵士を自身が預かった。が、それでも月の谷の北に位置する台地に蔓延るバルバロッサの数は手に余るほど多かった。

 ティルトはヴィフィールに鳩による連絡を送り、前後からバルバロッサを挟み撃ちにした。

 彼等は領土というものに頓着を持たない。破れるとあっと言う間に離散し、オービタス山地に帰っていった。

 ティルトは台地に陣を張りダクーナという新しい国の建国を宣言し、全ての人種を受け入れると宣告した。国政は共和制、人も亜人も同等に政治に参加できた。それに誘われ雑多な者達が集まってきた。人は勿論、ドワーフ、アンドヴァリ、コボルト・・等々、色んな人族が集まった。その繁栄を掠め取る為、しばしばバルバロッサの襲来があった。

 ティルトはフィルリアの兵士とは別にダクーナの人民による軍を整備しそれに対抗した。

 そしてダクーナは正式にダクーナ人民共和国として成立した。

 その建国の宣言にすぐにハーディのランドアナ王国とフィルリア王国が反応し、一つの国として承認した。それに追随するものレジュアス王国、それに連なるネオロニアス、それにロンダニア国もその国を承認した。

 ここにダクーナ人民共和国は誕生し、それを以てティルトはノヴァルミアスへと帰った。


 一方ハーディが進めたもう一つの共和国。この国はバルバロッサの脅威をフィルリアとダクーナ人民共和国が引き受けてくれることで安定していた。ルキアスによる大陸との貿易で多大な発展を遂げ、そこへの出資国にも大きな利益をもたらしていた。

 以前ロニアスの村があった所にモングレトロスという城塞都市を造り、ルキアスを含めた辺りを平定しトポリカ共和国として成立していた。

 トポリカへの出資国フィルリアはその資金を元手に軍を増強しバルバロッサに対抗していた。

 もう一つの出資国、レジュアス。歳と共にアーサーの体力は落ちたものの頭脳はまだ健在、ホリン共和国の商都タキオスの運河を再整備し、以前にも増す繁栄を現出させていた。

 だが、タキオスが繁栄すればするほどそこを狙う者も動く。ストランドス侯国との小競り合いは終始続いていた。

 が、パリスの兵がタキオスを狙えばダルタンが率いるネオロニアスの兵がその横合いを突いた。

 こうやって危うい小康を保っていた。


×  ×  ×  ×


 カーター・ホフの村に入ったカイ達はそこを見回る騎士達を見た。

 「ディーナ・シーだよ。

 オベロンの意を受けてこの村と森を警護している。

 この村が妖精の森への唯一の通路だ。それ以外の所から入ろうとすると彼奴等に捕まる。」

 「誰でも入れるの。」

 「とはいかない。ディーナ・シーの検問がある。」

 「ドラゴの子、ウィーゴ。」

 カチュとウィーゴの会話の間を割ってディーナ・シーの男の声が馬上から降ってきた。

 「あなたはここで何か悪いことでも。」

 シルマがウィーゴを睨む。

 「そんな事はない。」

 乾いた笑い声と共に鎧兜に身を包んだ若い男が馬上から降りてきた。

 「サウスさん、久しぶりです。」

 ウィーゴは軽く頭を下げた。

 「この村を救った英雄の子。我々ディーナ・シーは皆それを知っている。」

 サウスはドラゴが村を救った経緯(いきさつ)をカイ達四人に話してきかせた。

 「だから俺は自由に妖精の国に入れる。」

 ウィーゴは自慢げに鼻の下を擦った。

 「では彼と一緒なら・・・」

 「そうはいかん。」

 カイの声にサウスが即座に答えた。

 「聞けばウィーゴとは出会ったばかりとか、そんな者を軽々しく森に入れる訳にはいかん。」

 「よそ者は何か手柄を立てればいいんだよ。」

 ウィーゴがその横で茶目っ気たっぷりに笑った。

 「手柄・・・」

 「そう・・例えば魔物をやっつけるとか。」

 怪訝な顔のシルマにウィーゴが笑いかける。

 「魔物と言えば・・」

 その横からサウスが喋る。

 「ハライカルの南の岩山にキリムが棲み着いたそうだ。」

 「退治にはいかないのか。」

 ウィーゴがその言葉に色めき立つ。

 「我々はカーター・ホフの護り人、他にはいけぬ。」

 「私達が行きましょうか。」

 「そう簡単ではないぞ。」

 軽く言うカイをサウスが睨む。が、カイはその目に笑いかけ、続ける。

 「魔物を倒せばオベロンにあわせて頂けますか。」

 取り次ごうとだけサウスはその声に頷いた。


 その夜はカーター・ホフの村に泊まり翌朝にはハライカルを目指した。

 ハライカルまでは歩いて三日、ウィーゴがその道案内をした。

 ハライカルはたびたび魔物に襲われ荒廃していた。村人は逼塞し、作物は採れなくなっていた。

 「酷いな。」

 思わずウィーゴが漏らす。

 「仲間を一人紹介するよ。」

 突然カイはウィーゴにそう言い、その前の土が盛り上がった。現れたのは魚の貌をしたヴァルナ。

 魔物・・ウィーゴが身構える。

 「魔物ではあるが僕たちの仲間だよ。」

 カイの声にヴァルナはウィーゴに手を差し出し、ウィーゴは恐る恐るその手を握った。

 その様子を家の屋根から見ている多数のものがあった。尖った爪をつけた八本の足をカサコソと動かし獲物に迫る。上空からそれを見るシルフとサンダールがそれぞれカイとウィーゴに危機を知らせた。

 家々の屋根を見上げるとそこここに白塗りの扁平な女の顔を持った蜘蛛達が蠢いている。

 「女郎蜘蛛・・・」

 カイが唸り、その数の多さにカチュはジンをシルマはピュトンを呼び出した。

 魔物が魔物を呼ぶのか、荒れた畑が盛り上がりそこからは人よりも大きな百足までが現れた。

 その大百足の数も多い。

 「ヴァルナ、イクティニケを。」

 カイが指示しイクティニケが数体のコンスを連れて現れた。

 女郎蜘蛛は屋根の上から粘つく糸を飛ばす。

 その糸を躱して二頭の馬が翼を拡げて大空に飛び立った。

 「ペガサス・・・」

 その姿に見取れるウィーゴに糸が絡みそうになる。

 「私に任せな。」

 ハベトはその糸を器用に絡め取っていく。

 「粘ろうがどうしようが糸は糸だからね。この糸を熱湯に通せば強靱な布が織れるよ。」

 糸の攻撃が効果のないことを知った女郎蜘蛛たちはゾロゾロと屋根を降りてきた。

 大百足の相手はピュトンとコンスが当たり、人の躰ほどもある女郎蜘蛛にはジンとイクティニケが対した。だがそれより早く上空から二頭のペガサスが舞い降り、カチュとシルマが手にした長柄で次々と女郎蜘蛛を屠っていった。

 「強いな・・あの二人。」

 闘いながらウィーゴが空を見上げ漏らす。

 カイの出番はほとんどなく、それ以外の者達で数多くの怪物を斃し尽くした。

 魔物が消え去ると村人達が少しずつ家を出てきて、ありがとうございますと、カイ達に礼を言った。

 しかし、あそこの・・・と、南の岩山を指さす者もいる。

 「そこの魔物も斃しに行きます。ですが・・・」

 カイは腹を押さえ食と寝所の無心をした。

 その姿に村人達の顔に笑いが拡がった。それはハライカルに響いた何ヶ月ぶりかの笑い声であった。


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