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第一章 白狼に育てられた少年(10) 継承(3)

 カーター・ホフの村へ向かうウィーゴとサンダールの後を追う者が居た。

 「オーグルか。」

 ウィーゴは舌打ちをした。

 どうやらこの間のダーク・オークの仲間らしい。

 「待ちやがれ。」

 四人のオーグルの一人が大声を上げた。その時には既にサンダールはその翼を拡げ、空に舞い上がっていた。

 「何の用だ。」

 ウィーゴが面倒くさそうな貌をすると、オーグル達はいきり立った。

 「用件は・・・。」

 ウィーゴはそれを意にも介せず続けた。

 オーグル達は益々いきり立ち肩に担いだ鉄棒(かなぼう)を構えた。

 相手の力量が解るのかウィーゴは、フンと鼻を鳴らした。

 その不遜な態度にオーグルが一人、鉄棒で殴りかかった。

 ウィーゴはその鉄棒(かなぼう)を弾き飛ばした。が大人の体格とはいってもまだ子供、グラッと身体が揺れた。そこへもう一人が、サンダールは上空で目を閉じた。しかしその鉄棒は途中で止まった。

 そこに立っていたのは中年の女。

 オーグルは動こうともがくがそれは叶わない。

 「“緊縛(バインド)”だよ・・他の者達もこうなりたいかい。

 こんなになったらもうこっちの思いどおりだよ。」

 女はコツンと動けないオーグルの頭を殴った。

 「連れて行きなさい。私から遠く離れればそいつは元に戻るよ。」

 オーグルが去るのと入れ替わりに馬に乗った一人の青年と二人の女が現れた。その手には武器らしき物があった。

 「性懲りもなく。」

 ウィーゴが身構える。

 「心配ないよ、私の仲間だから。」

 中年の女はウィーゴとサンダールに笑顔を見せた。

 「ハベトォ・・独りで・・・」

 馬に乗った巫女風の女が中年の女に声を掛ける。

 「この子が困っていたようだったからね。」

 頭に載せようとしたハベトの手をウィーゴが祓い除けた。

 「おやおや・・元気だねぇ。」

 ハベトはもう一度ウィーゴに笑いかけた。

 「少し温和しくなるようにあんたも縛ってあげようか。」

 その鋭い目にウィーゴは眼の前で拡げた掌を振った。

 「さて、ここまできたけど後は・・・」

 ハベトは馬上の若い男を見上げた。

 「オベロンの所に行きたいんだが・・話しにきいた妖精の森はここらに・・・

 ワーロック様もきっとそこにいると思うけど・・・」

 「オベロン・・ワーロック・・・

 何者だ、お前達は・・・」

 それを聞いたウィーゴは身構えた。

 「この人はカイ。」

 馬に乗った若い女が同じ様に馬に跨がった青年を指さした。

 「ワーロック様の弟子なの。

 私はカチュ、そしてこの子はシルマ、ワーロック様に仕える巫女です。」

 「私は騎士です。」

 カチュの言葉にシルマが憮然とした様子ですぐに声を被せる。

 「それに子ではありません。歳はそう変わらない。」

 「可笑しいでしょう、すぐに怒るのよ。」

 カチュはそれには構わず続ける。

 「そしてこの小母さんがハベトよ・・小父さん。」

 「小父さん・・・」

 ウィーゴがそれに色めき立つ。

 「だって髭が生えてるし・・・」

 「こいつはまだ十歳だよ。」

 背に羽根を生やした羽民サンダールがその言葉に笑った。

 「だってもじゃもじゃの髭が・・」

 「ドワーフ族は生まれた時から髭があるんだよ。」

 サンダールは尚も笑った。

 「妖精の森にはカーター・ホフの村からしか入れん。」

 苦い貌のウィーゴが突っ慳貪に言った。

 「ここではないのですか。」

 馬上の青年カイの声に

 「ここはクリクリ、カーター・ホフの村はもっと南だ。手助けして貰った礼に一緒に行ってやるよ。」

 と、ウィーゴが返し、

 「ありがとう。」

 カチュが明るく礼を言った。

 「ドワーフ族って言えばドラゴはどうしているのかなぁ・・」

 馬を牽きながらの道々、カチュがふと漏らした。

 「お前、父さんを知っているのか。」

 ウィーゴが大声を上げた。

 母、ルシールに聞いた父ドラゴ、ウィーゴを助ける為、彼が産まれてすぐに死んだと聞いた。その父を知る者・・母は思い出せば悲しくなるのか父の話をあまりしてくれない。 その父を知る者。

 ウィーゴは話を聞きたくなった。

 「父は・・・」

 「あなた、ドラゴの子供なの。」

 ウィーゴがコックリと頷き、

 「父は・・・」

 同じ言葉をもう一度繰り返し、

 「どんな人だったんです。」

 と続けた。

 「どんな人だったって・・・」

 「死にました。」

 「死んだって・・」

 「俺が産まれてすぐ・・俺を助ける為に・・・」

 ウィーゴの眼からぽろっと涙が零れる。

 「母さんに聞いても話してくれないし・・・」

 カーター・ホフの村への道々、カイとカチュはドラゴのことを語って聴かせた。

 “光の子”を護り、強くて正義感が強かった。おっちょこちょいの一面もあり、時には失敗もした。だが弱い者には優しく、力や権力を振り回す者には厳しかった。

 父、ドラゴ。その話はウィーゴの興味を惹いた。その話しはウィーゴが尊敬するに足る話しばかりだった。


 夜更けにカーター・ホフの村に入ることは出来ないと聞き、そこを前に野営することとなった。

 焚き火の暖かさに誘われウィーゴは他愛なく眠った。

 「ルシールってエルフと聞きました。エルフとドワーフの子供がどうして純粋なドワーフになるでしょうか。」

 シルマが疑問を呈した。

 「どうしてって・・いいじゃないそんな事・・・」

 良くはありません・・と、シルマがカチュに食い下がる。

 「いろんな事情があるんでしょう。その事には今は触れないでおきましょう。」

 カイはそう言って身体を休めることを勧めた。

 翌朝早くに入ったカーター・ホフの村は、人と言わず亜人と言わず雑多な者達が住んでいた。それはミッドランドに新たに興きたダクーナという国と同じだった。


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