表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

親友の代理で告白を断りに行ったらとんでもないことになった

作者: 155

「なぁ頼むよっ! 一生のお願い! なっ!? ここは俺の顔に免じて頼まれれくれないか、逢坂(おうさか)さま、隼人(はやと)さまぁ~」


「おまえの顔に免じるって何だよ。それにおまえの一生のお願いは果たして何回あるんだ? この前数学の課題を見せたときも確か一生のお願いって言ってたよな?」


「俺は猫年生まれだから9つ命があるんだよ!」


「何が猫年だよ、ンなもんあるか! それよりぜってーに嫌だからなっ! そんなもん自分の責任でやってくれ」


 俺の眼の前で土下座しそうな勢いで頼んでくるのは親友の米原佑(まいはらたすく)という男。スポーツマンでイケメンで気のいいやつなのは間違いないけれど、こういう情けない面は玉に瑕と言ったところか。


 1年のとき同じクラスですごく仲が良かった。2年になったら別々のクラスになってしまったが相変わらず仲良くしてくれているのは嬉しい限り。


 それはそれとして、今回も何かやらかしてしまったようで、その尻拭いを俺に頼んでいるってことなんだ。


 その内容とは、告白のために女の子を呼び出したけど、自分は急遽幼馴染と付き合うことになったから代わりに断ってきてくれというなんとも勝手なお願い。

 そもそも告られる側で断るならまだしも、告る側で「やっぱなしで」と断るほうという人非人的で非情なやつ。お相手様に号泣されるか激怒されるかの未来しか俺には思い浮かばん。


「16時に体育館裏の倉庫のところだから。今度最高のプレゼントを隼人に送るからよろしく頼んだぞ! じゃなー」


「おっ、おい! 待て! 佑っ」


 引き止める間もなく佑はぴゅーっと走り去ってしまう。さすが陸上短距離競技界期待のエース、などと感心している場合じゃなかった。

 すぐ佑のスマホに連絡をしてみるが梨の礫で一切の応答がない。というかあの野郎電源まで落としていやがる。


 重大な案件を人に押し付けておいて逃げるとは今度見つけたらギタギタのメタメタにしてやろうと心に誓う。


 そのまま告白のことなど無視して帰ってしまっても俺には全く責任もダメージもないのだけど、相手の女の子の気持ちを考えるとそんな事はできなかった。


「さすがにお人好しが過ぎる気がするけど、こればっかりは性分だから仕方ないんだよな……。はぁ、気が重いけど、行くか」


 時刻は15時50分。待ち合わせ場所の体育館裏まで行くにはちょうどいい時間。下手すりゃ相手の子は既にスタンバっている可能性だってある。

 俺は昇降口で外履きに履き替えると重い足取りでその場所に向かう。





「よかった、まだ来ていなかったみたいだな。そーいや、相手の子って誰なんだろう?」


 いちばん大事なことは聞き逃していた。そもそもこんな依頼を受けるつもりは微塵も無かったので聞くようなことでもなかったのだが。



 時間になったがまだその子が現れないので暫くは待つことにする。このまま告白の場をエスケープされたのならそれはそれで良かったということなのではないだろうか。

 とりあえず現況だけは佑に伝えておこうと無駄とわかりつつも再度スマホを弄っているととうとう件の女の子がやってきてしまったようだった。


「あの、すみません。あなたが呼び出した方ですか?」

「あっ、ごめんっ! 呼び出したのは他のや……つ……って、高柳さん?」


 そこに来た女の子は俺の良く知っている女の子、高柳真琴(たかやなぎまこと)だった。高柳さんと俺は同じクラスで、かなり仲が良いと俺自身は思っている。


 それにしてもあの野郎高柳さんに告白しようとしていたのか!? あまりのことに戸惑いよりも怒りのほうが全面に出そうになる。


「あれ? ななな、なんで逢坂くんがいるの? でも今、呼び出したのは他のやつって言ったよね? ってことは、恋鞠(こまり)のこと呼び出したのは逢坂くんじゃないんだよね」 


 俺が高柳さんの登場に驚いた以上に彼女は俺がいることに驚いていた様子。なのですぐに呼び出したのは俺じゃないことを勘違いがないようにしっかりと伝える。


「うん、その通りで俺ではないよ。ところで、恋鞠って?」

「ああ、わたしの親友。出井恋鞠っていうんだけど知ってる?」


 出井さん。名前くらいは聞いたことあるが、姿や顔は思い出せない。髪の毛をツインテールにしている小柄な子じゃなかったかな。


「あれ? 高柳さんが呼び出されたんじゃないの?」

「うん。わたしは呼び出された当人の恋鞠の代理だよ。あの子断りに行くのは絶対にやだっていって駄々こねちゃって一歩も動こうとしなかったから仕方なくわたしが来たの」


 そういうことか。それならさっきの怒りは無しってことでいいな。とは言え戸惑っているのは間違いないんだけど。


「えと。実はさっき言った通り俺も代理なんだけど、呼び出したのは佑……えっと米原佑って知ってる? 陸上部の」


「ん~わかんないや。それにしてもそいつなんだ、わたしの恋鞠を誑かそうとしたのは。絶対に許せないね!」


「そうそう。絶対に許せないよな。そもそも女の子を告白するために呼び出しておいて自分は幼馴染ちゃんと急に付き合い出すとかありえないと思うんだ」


「なにそれ? 詳しく教えなさいよ。うちの恋鞠も幼馴染くんと最近いい仲になったらしくてちょっとわたし、傷心中なんだからさ」


 どうも高柳さんも親友の出井さんを彼女の幼馴染に取られてしまったようで少し悲しい思いをしているらしい。『わたしの恋鞠』とか言っていたし。

 それにしても最近は幼馴染勢の動きが活発なのだろうか。残念ながら俺にはそれらしき幼馴染が一切いないのでこれっぽっちもわからないが。


 さて、お互いに代理同士だしその内容も双方ともお断り目的とわかったのでホッとしたところもある。どうであろうと怒る人も泣く人もいなかったのは良かったとつくづく思うよ。


「話をするのもいいけど、ここで立ち話というのもなんだし、近くに知っている店あるから移動しない?」

「えっ!? うん……いいよ」


 高柳さんもこちらの事情など詳しく知りたいっていうし、俺も折角なので彼女と話をしてみたいと思い行きつけの喫茶店に高柳さんを誘ってみた。




「あ、なんかいい感じのお店だね」

「うん、俺の従姉妹がやってる店で俺もアルバイトで雇ってもらっているんだ」


 学校から歩いて10分弱。駅に向かう方角と逆方向なので案外と同じ学校の生徒は見かけない。家に直接帰っても特にやることもないのでバイトがない日でもちょくちょく遊びに寄ったりしている。


「いらっしゃ……ってなーんだ隼人か。えっ!? お、女の子を連れてきた!」

「うるさいな、加恵姉(かえねえ)は。今日はお客なんだから静かに接客してくれ」


「だって、隼人が女の子を連れてきたんだよ。これは事件じゃない?」

「うるさいってば! やっぱ来なきゃよかったかな……」


 他に場所が思い浮かばなかったからここにしたけど、失敗だったかもしれない。


「ごめんな、高柳さん。うるさくて。普段はほんとおとなしい人なんだけどさ」

「ううん。全然大丈夫だよ、面白い従姉妹さんだね」


 厨房の中からこれ以上ないってくらいのニヤニヤ顔をのぞかせている加恵姉は面白いといえば面白いかもしれないが、若干だけどうんざりした気持ちにもなったりする。




 加恵姉にコーヒーを2つ頼んで一番奥のテーブルについた。


「で、佑の幼馴染の話なんだけど。ごめん、実はほとんどわかんないんだよね。突然やつに頼まれて。それで詳細を聞く前にはあいつは逃げ出しちまうし」


「そうなんだ。わたしの方も恋鞠は件の幼馴染くんのことを一切教えてくれないんだよね。存在するのは確からしいんだけど、どこの誰かまでかはガードが固くて判明してないんだよね」


 ただ以前に佑の幼馴染ちゃんについては聞いたことがあった。

 佑は相当前からその幼馴染ちゃんのことが好きだったらしいのだけど、高校に入ってからはあまり交流してくれなくて淋しいってほざいていた。

 やつがぼやくのは『いつも同じ女友達とばかり一緒にいてさ、ぜんぜん俺のこと構ってくれなくなっちまってさ。やっぱり脈ないのかな……』という感じで毎度毎度同じようなことばかり。聞いていて呆れてくる。


「佑の幼馴染ちゃんも俺たちと同じ学校みたいなんだけど、同じく詳しいことはぜんぜん教えてくれなかったんだよな。親友とか言っているくせにつれないやつだよな」


「でも米原くんの幼馴染が同じ学校なら、いつかは紹介とかしてくれるんじゃないのかな」


「あいつが彼女を紹介とかできるのかね」


「流石に親友の逢坂くんには紹介するでしょ?」


 どうかな。佑のやつそういうところは秘密主義っぽいところあるから。今度制裁を加える代わりに根掘り葉掘り聞いてやるのも一手かもしれない。


 コーヒーがテーブルに届いた。加恵姉の淹れるコーヒーはピカイチだと思っている。本人に言うと調子に乗るから言わないでおくことにしているけど。


「あれ? ケーキなんて頼んでないけど?」

「これはあたしからのサービスだよ。隼人が初めて女の子とデートしてる記念のプレゼントだぞ」

「で、で、デートじゃないし! もう、あっち行っていろよっ」


 ちらりと高柳さんを伺ってみると俯いて表情は見えないが、耳がほんのり赤くなっているのでちょっと怒らせてしまったかもしれないと内心焦ってしまう。


「ご、ごめんね、高柳さん。あとであのアホ姉にはしっかり言っておくから」

「……ううん。大丈夫」


 声音は怒っているようでもなかったし顔の赤みも取れてきていたのでちょっとだけムカついたって程度だったのかもしれない。良かった。


「あの、ケーキ食べてくれよ。ああ見えてケーキ作りの方もなかなかの腕前なんだ。ちょっとした洋菓子屋並みだとは思うから、嫌いじゃなかったら食べて」


「うん。甘いものは好き……。あのさ、」


「なに? 何かやっぱり気に入らないことあった?」


「違うよ。あの、わたしたち……カップルに見えるのかな?」


 見えるか見えないかの二択だったら、見えなくもないってことになると思う。高校生の男女が喫茶店の席で向かい合って談笑している。ただの友人関係とも見えるけど、普通はカップルに見えると思う。

 俺の希望的主観が多分に含まれているからだとは思えるのだが。


 正直言うと俺は眼の前にいる高柳真琴さんのことが好きだ。もう随分前から彼女のことが好きで、普段何気なく話しているのだって実は内心ドキドキしているのをバレやしないかと心配しながら接していた。


 最初、呼び出しの現場に高柳さんが来たのをみて佑に対して怒りを覚えたのもそのせいだったりする。このことは佑にも言っていないからもし本当に高柳さん目当てでも八つ当たりでしかないんだけど。


「み、見えなくも無くもないかな……?」


「逢坂くんは、そういうふうに見えるとイヤ? さっきも加恵さんに怒っていたけど……」


「…………そんなこと、ないです。そう見られて恥ずかしかっただけで……ちょっと嬉しかったりしたり……えっと……俺何いってんだ、あはは」


「わ、わたしも……嬉しいよ。ほんとうに……」


 嬉しい、とは……。まさかとは思うけど高柳さんも俺のこと。


 もしかして、この場面てこのまま告白とかするのが最善だったりするのかな?


 でもな、向こうで加恵姉がニヤニヤしながら見ているような気がするんだよな。なんか、視線を向けたら負けな気がするから何が何でも加恵姉の方なんか見ないけど。

 あーでも、グズグズするのはとてもみっともない気がする。もし俺の勘違いでもここは勝負に出ないといけないような気がする。よし。


「高柳さん……」


「はい」


「急にこんな事言うのもなんだけど、俺、高柳さんのこと、えと……好きです。俺と付き合ってくれたら、嬉しいです」


「っ! わっ、わたしも逢坂くんのこと、すき、です。あの、よろしくお願いします」


 ペコリと頭を下げる彼女に嬉しすぎて叫びたい気持ちがいっぱいだったけど、ほんの一片だけ『ここには加恵姉がいる』という事実が認識されていたので間一髪叫ばずに済んだ。


「えへへへ、よろしくね。真琴ちゃん」

「ふふふ、よろしくね。隼人くん」


 全く想定していなかったけど、今ここにカップル爆誕である。まさか佑の代理に出かけていって彼女ができるとは想像すらできなかった。

 なんか佑が神様のように思えてきた。あと、ちょっとだけ加恵姉のこともありがたく思えるような気がしなくもない。




 まだ時間があったのでこのまま放課後デートに行くことになった。いつまでも加恵姉のところにいたままでは気持ちが落ち着かないからな。


「じゃ、えっと。手、繋ごっか?」

「うん、いいよ。へへ、本当に隼人くんがわたしの彼氏になったんだね」


 駅までの道を手を繋いで歩いている。

 人前で手を繋いでいちゃつくなんてなんてバカップルなんだ、なんてついさっきまで思っていたけれど、恋人同士は手を繋ぎたくなるし、もっとくっつきたくなるのは必然的なのだとよくわかった。

 一つ俺も利口になったというわけだ。


 もとより仲の良い友人同士だったので恋人同士なってからも話は尽きないし、友達同士のときよりも話は弾みまくる。

 それなりの距離を歩いたはずだけど気づいたらもう駅まで来ていた。俺は上り方面だし、真琴は下り方面なので電車に乗ってしまえばバイバイとなる。でもそれはちょっと惜しい。もう少しだけでもいいから一緒にいたい。


「駅ビルでちょっとぶらつかないか? もう少しだけ話がしたいなー、なんて」

「わたしもそう思っていたから、寄って行こうよ。クレープ屋さん行きたい」


 さっきケーキを食べたばかりなのにまた甘いものとは。ほんと真琴は甘いものが好きなんだな。かわいい!



 駅ビルに入ってエスカレーターを2フロア分上がったところで見知った顔にばったりあった。


「あ、てめ。佑! 人に頼み事押し付けてこんなところで何してるんだよ!?」


 俺は女の子と腕を組んでいちゃつきながら歩いている佑に文句を言う。たぶん腕を組んでいる女の子は例の幼馴染ちゃんだろう。


「恋鞠! なんであなたこんなところにいるのよっ! 今日は家に真っ直ぐ帰るって言っていたでしょ!?」


 真琴は真琴で、佑と腕を組んでいる女の子の方に抗議していた。知り合いなのか?


「ん?」

「え?」


 一瞬でぐるぐる考えを巡らせて情報を精査する。

 佑は今日告白をする予定だったがキャンセルした。告白の相手は真琴によると出井恋鞠さんだという。

 それで佑は幼馴染ちゃんと付き合うことになった。

 出井さんは出井さんで幼馴染くんと付き合うので佑の呼び出しには応じられないと言うことだったはず。

 しかし眼の前には佑と腕を組んで仲睦まじく佇む出井さんがいると言うことになる。


「おいこら、説明しろや」

「恋鞠もちゃんと説明してよね!」



「なんか隼人は怒っているみたいだけど俺一つも嘘は言ってないからね? 恋鞠とは幼馴染でずっと好きだったんだけど俺より先に恋鞠から告られて付き合うことになったんだよ。だから俺の呼び出しはキャンセルって事になったんだけどさ」


「私ももう佑くんと付き合っているから呼び出しに応じる必要はなかったんだよね。だからお断りだったんだ」


 たしかに嘘は言っていないが正確な情報でもない。わざわざ代理を立ててまで断りをいれる必要性はゼロじゃないか。


「そこで恋鞠と考えたんだよ。隼人は高柳さんの事好きだったじゃん」

「え? お前にそのこと言ったことないけど」

「うん? バレバレだったけど」


 まじかよ……。


「真琴ちゃんも逢坂くんのことずっと前から好きだって言っていたよね」

「い、言わなくていいから」


 ずっと前から好きでいてくれたいたんだ。なんか嬉しい。


「だからさ、この際お前ら二人もくっつけてダブルカップル誕生ってことで、一緒に遊びに行くのもいいかなぁ~なんて」


「佑、謀ったのか」


「え? でも結果良好じゃね? ほれ、自分の手、見てみ? それが俺の言った最高のプレゼントだよ」


「へ?」


 あまりのことに気が回っていなかったけど、さっきから真琴と俺は手を繋ぎっぱなしだった模様。


「真琴ちゃんもお付き合い成功ってことでいいんだよね?」


「ま、そうね……」


 真琴は顔を赤くしてモジモジしている。かわいいな。


 佑たちに上手いことやられたような気もしなくもないが、確かにこの結果は満足以外に考えられない。ちくしょう、気に入らないけど感謝するしかないじゃん。



 そうして俺たちの学校では同時に二組のバカップルが生まれたと噂になったようだが、それはまた別の話だ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ