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高根邦弘は大学を出ると街に1人暮らしを始め、会社勤めをする。部屋はアパートの1階を借りている。2階は新婚の夫婦のようで夜少し騒がしいが文句を言うほどでもない。
会社はホワイトな会社でいつも残業が無く午後6時半には、家に帰る生活をしている。邦弘には彼女がいないがどうしても欲しいほどではない。
楽しみは手早く作った夕食をビールを飲みならテレビを見ることである。
ある日曜日の午後8時ちょうどにスマホの電話が鳴る。しかし、スマホには何も表示されていない。非通知ならそう表示さると思ったが鳴りやまないので出てみる。
「来週の午後8時、いきます。」「ちょっと誰。」
電話の主は用件を言うと電話を切ってしまう。相手は陰気な声の女性だった。
翌日も午後8時ちょうどに電話がかかって来る。邦弘が出ると
「日曜日の午後8時、いきます。」
と言って電話が切れる。その翌日にも午後8時ちょうどに電話がある。気持ち悪くなった邦弘は会社の同期の林に相談する。
「毎晩8時ちょうどに電話がかかって来るんだけど、気持ち悪いんだよ。」「今日お前のうちに行ってやるよ。」
邦弘は林と一緒に家に帰る。2人は晩酌をして午後8時を待つ。すると午後8時ちょうどにスマホの電話が鳴る。やはり、スマホには何も表示がない。邦弘はスピーカーにして電話に出る。
「日曜日の午後8時、行きます。」
と言って電話が切れる。林が言う。
「この声に覚えはないのか。」「こんな気持ちの悪い声に覚えはないよ。」
「日曜日は家にいない方がいいぞ。」「そうするよ。」
不気味な電話は土曜日まで午後8時ちょうどにかかって来た。日曜日、邦人は午後6時に家を出る。スマホは家に置いてきた。そして、映画館へ入る。1人でいることが怖かったのだ。
夜9時家に帰ると部屋の中に見知らぬ男が仰向けに倒れている。顔はよほど怖いことがあったのかひきつって歪んでいる。邦弘は慌てて110番と119番をする。
警察官が家に来る。邦弘は警察官に言う。
「家に帰ると知らない男の人が倒れていたのです。」「出かける時、戸締りはしましたか。」
「はい、カギはかけたはずです。」「窓が開いているようですが。」
邦弘が見るとベランダに出る掃き出し窓が開いている。よく見るとカギをかけるところのガラスが割れていた。警察官が言う。
「ガラスを割って侵入して倒れたようですね。何があったのでしょう。」「分かりません。私は映画を見にでかけていました。」
そこへ救護隊が駆け付ける。男はすでに死んでいるようだったが救護隊は病院に運んでいった。邦弘は警察から事情聴取を受ける。その中で男は死亡したことと泥棒の常習者であることを教えられる。
翌日の月曜日、会社に出勤すると林がせかすように邦弘に聞いて来る。
「昨日はどうした。」「映画を見に出かけたよ。そうしたら泥棒に入られて、その泥棒が死んでしまったんだよ。」
「そうか。何が起きたと思う。」「分からないけど、泥棒の顔は恐怖に歪んでいたよ。」
「俺の所にかかってきたんだ。」「何が。」
「電話だよ。日曜日の午後8時、行くって午後8時ちょうどにかかっていたんだ。」「もしかして、あの女の声か。」
「そうだ。」「日曜日はスマホを家において外に出かけたほうがいいよ。」
「そうするよ。」
翌週の月曜日、林は会社に出てこなかった。邦弘が心配になって林に電話をかける。
「はい。」
邦弘はすぐに電話を切る。あの女の声だった。その後、林は行方不明になっている。