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あれから二年 彼が来る

結婚、そして出産。

そんなケンとジンナだが・・・

 それから、あっという間に、二年が経った頃。

 リンは立って歩けるようになった。

 そして、太陽には弱い事は弱いが、数時間当たっていても大丈夫だった。

 それは家の中でかくれんぼをしていたのに、リンはこっそりと家を抜け出したのだ。

 事態を知ったジンナは泣き叫ぶリンを許さん勢いで叱っていたが、俺が「リンも無事だったんだし、許してやったらどうや」的な事を言ったら

「ケンはそうやってすぐ甘やかす!女の子だったら誰だってそうやって甘やかして、たぶらかしてきたんでしょ!」

 謎のとばっちり事件で、矛先はリンから俺に移ったので良しとして正座してます。


 そんな平和な日常を壊すように、護衛の騎馬隊を引きつれた、大きな馬車二台がこの村を訪れた。

 すぐに村の入口に俺も呼ばれた。

「前線部隊は俺の横へ並べ!」

 大声でロイが先頭で叫んでいる。

 村の中では長老が住民の避難や戸締りをさせている。

 後方で槍を握りしめ「俺が子供を守るんだ」と震えていたが、ロイが隣に来てウィンクをしていた。

「我々にー 敵対のー 意志はー ないー」

 かなり遠いが、よく通る低い声に聞き覚えがあるような気がした。

 長い間、ずっと待っていたような気がする。

 俺は槍を投げ捨てて、走り出していた。

「ケン、待て、罠かもしれん」

 あっという間にロイやユリが俺に並走して、俺を守ろうとしていた。

 俺はわかっていたが、走った。

「ゴー!」

 そう何度も叫びながら走った。息が苦しかった。

 一頭の馬がこちらに向かって走ってくる。

 ロイとユリが警戒していたが、俺は息切れしながらも「大丈夫」と伝えた。

「ケン!」

 馬から颯爽と飛び降り、手綱を引きながら俺の前にゴーは現れた。

 白髪の長髪で、同じく長い白いヒゲを伸ばしていた。

「本当にゴーなのか?なんだその髪とヒゲ」

「はは、ケンは変わらないな」

 二人とも笑いながら泣き、抱き合った。


 馬車からは、ローレン卿とベイツさんが降りてきた。

「こちらは北方君主である、ローレン閣下・・・」

「ベイツ、よい。ケン、久しぶりだな。元気そうだ」

「ローレン卿・・・」

 俺は久しぶりに見た二人に衝撃を受けた。

 二人とも髪は真っ白で、顔には深い皺が刻まれている。

「便りはエータやエミカから受けている。村に案内してもらえるか?」

 ローレン卿はにこやかにそう言った。

「なんだ?貴族なのか?」「ケンの知り合いか?敵ではないのか?」

 村の戦士たちはザワザワとしていたが、長老がその場に来て

「私がこの村の長です。失礼な対応をして申し訳ありません。すぐに案内をいたしますので、騎兵は一旦待機していただいてもよろしいですかな?」

 長老は大きな体ながら優雅なしぐさで胸に手をあて、頭を下げた。

「これは失礼を。我らが貴殿らを脅かしに来たと思われても、それは我らの愚行の証。ゴールア、引かせてくれ」

「はっ。ぜんぐーん。その場で待機ー!」

 ゴーの命令で、まるで靴を鳴らして敬礼するように、馬が一斉にひずめを鳴らして停止した。

「これは、すさまじい訓練度ですな。ある種の脅迫と受け取っても?」

「ちょ、ちょっと長老、やめてくれ!」

 俺は引きつった顔で、慌てて長老とローレン卿の間に入った。

「はは、心配は無用ですよケン殿。この御仁は信用できます。ケン殿の友人でしょう?」

「はっはっは。さすがだなケン。皆、命を捨ててでもお前を守ろうとしている。なんという人たらしなヤツめ」

 そうして不穏な空気ながらローレン卿とゴーは村に入った。

 皆さん、もう少し、穏便にできませんか・・・


 長老宅にローレン卿とベイツさん、ゴーを置いて、俺はエミカとアレックスを呼びに行った。

 エータは頻繁に行方不明になるので、放置です・・・

 長老とローレン卿が揉めたりしないだろうかと不安だったが、長老宅に戻ると、既に酒盛りをしていた。

 アレックスとエミカの姿を見たローレン卿は、かなり長い時間、固まって見つめていた。

 そしてエミカに軽く抱擁してから、アレックスの前に立った。

「アレクシウス。久しいな・・・」

「・・・セバスチャン、老けたな」

 そうして抱きついたローレン卿は一筋の涙を流した。


 一同が椅子に座った。

 ローレン卿は、初めにロルド老が死去したことを伝えてくれた。

 一年前で、エータも訪れて診察してくれたが、老衰だったようだ。

「エータには、私が直接会った時に伝えると言っていた。遅くなってすまなかった。そして、ケン。結婚式の招待状を貰っていたのに、参加できず、すまなかった」

 そう言って、謝罪するローレン卿の背中は小さかった。

 俺がロレンヌの事を言わないと、そう思っている時にアレックスがおもむろに

「・・・母が死んだ」

 そう言った。


 沈黙


 ベイツさんのすすり泣くだけが、僅かに響いていた。

 誰も何を言っていいのかわからない。

 空気が重い。

 それを破るように、明るく振舞うローレン卿が

「ケン、君の奥方を紹介してはくれぬか?もう子息もいるのか?」

 そういった話しに持って行ってくれた。

 俺が少し答えに困りながらも

「そ、その、日中はちょっと・・・」

 それにエミカや長老が助け船を出す。

「それと、今の世界情勢の話しなども・・・それは長老殿と・・・エータはおらぬのか?」

 話題は尽きぬとばかりに、色々と違った話しをローレン卿は出していく。

 きっとこれが貴族の話術で、暗い話しは終わったと遠ざけてくれているのだろう。

「ああ、ケン。メイドのケイトが最後まで『私も連れて行ってください』と駄々をこねてな。もういい年だし女には無理な旅程だと言ったら怒っていた。なあベイツ?」

「旦那様も人が悪い。そんな言い方、してはいなかったではないですか。ケン様、ケイトより手紙を預かっております」

 ベイツさんは懐から手紙を出して俺に両手で差し出した。

 俺はそれを受け取り、懐に入れて

「お、お願いがあります。間違えてもケイトの事を妻の前で言わないでください。お、俺の命が・・・」

 俺の真剣な願いなのに、みんなが笑っていた。

 過去に、あらぬ疑いで俺は、ひん死になっているのですよ?


 その後は、そのまま夕食を皆でするような話しの中で事件が起きた。

「そ、村長!村の外で戦いが起きている!」

 俺とゴーは、一度顔を見合わせてから走り出した。


 村の門の前では、騎馬を降りた兵士と、村の戦士たちが混ざって円形のようになり、大声で叫んでいる。

「行け!引くな!」「何やってるだ!それでも兵士か!?」「おお、力は互角なのか?」

 ワイワイとなにか盛り上がっている。が、戦っている・・・のか?


 車座になっている人だかりの中央では、ロイと二本角のはえた兜の兵士が槍同士で戦っていた。

 俺は「何かの試合?」と思って見ていた。

 周りのギャラリーも村の戦士たちと兵士が入り混じり雑談をしながら、戦いの様子を見ている。

 ゴーも俺の横で、しばらく黙ってみていた。

 しかし、途中でゴーは車座の中に入っていき、大きく息を吸って

「そこまでー。両者引き分けとする」

 ゴーの大声で一瞬の沈黙。

 そして湧き上がる歓声。

 俺はロイの元に駆け寄った。

「ロイ!なにしてるんだよ?」

 ちょっとキレ気味に言うと、ロイは笑いながら

「みんな強そうだったから『ちょっと勝負しないか』って」

 いたずらっ子のように笑いながら答えていた。

 ゴーも兵士に向かい

「ケイン。軽率な真似はするなと言っただろう。お前がそんなでどうする」

 ゴーはあまり怒っていないみたいだった。

「すみません将軍。以後気を付けます。しかし、彼らは強いですね」

 ・・・将軍?ま、まあ後で聞いてみよう。

 ゴーはロイに向かって謝罪していた。

「我が兵が失礼をした。しかし見事な腕前だな。ケインは小隊でも一番なのだが」

「いや、誘ったのは俺たちなんで、あんまり怒らないでやってください。それに、村には俺よりも強い村長が・・・な、ケン?」

 え、俺に振るのかよ!

「ほーそれはすごいですね。ですが我々も一番強い将軍がいますよ」

 俺はゴーと村長が戦っている姿を想像して、いい勝負か?などという考えを消して

「と、とにかく怪我とかなくてよかったです。はい」

 なんとなく、みんな打ち解けてくれたようでよかった。

「ああ、ケン。ケインを紹介しておこう。ケイン、ここへ」

「はっ」

 俺の前に立ち、角兜を小脇に抱えて敬礼する兵士。

「紹介に預かりましたケイン小隊長であります。母よりケン様の御高名はかねてより伺っております」

「ど、どうもケンです・・・母?」

「母はお屋敷でメイドをしているケイトと申します。以後お見知りおきを」

 え?ケイトの息子?

「ケインは幼い頃に父を戦役で無くしている。それ以降、母の細腕で育ち、ローレン家の私兵となったが才覚は素晴らしい。ローレン家と繋がりのあるケンならまた顔を会わせる事もあるだろう」

「ああ、うん。はい」

 俺は複雑な気分で村の中へ戻った。

 村の外では、村人の炊き出しが兵士に振舞われ始めていた。

 賑やかな笑い声が村を包み込んでいるようだった。

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