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結婚式

決断を皆に伝えたケン。

そして・・・

 こうして俺の「決断」は成った。

 エータとロレンヌさんは「準備がある」と言って、たまに豚人生産施設に訪れているようだ。

 ロレンヌさんの内部の赤い血管のような部分が日に日に大きくなっているように見える。

 エータの見立てでは、ジンナの出産は後三十日程度だろうと言っていた。

「それまでには仕上げるので任せたまえ」

 そう言ってくれたが、それがいいことなのか悪い事なのかわからなかった。


 そして、思い悩む時間を村人たちは許してくれなかった。

 俺とジンナの元に何度も「衣装を作る」と言った人たちが訪れ、また、別の日には別の人やヒロミスが来て「何が食べたい」だの「何が食べられない」だのを毎日のように押し寄せて詰問されているような日々が続いた。

 俺は「ジンナの身をいたわってくれ!」と一度、本気で怒鳴って言うと、みんなジンナにはあまり無理な声掛けや聞き取りはしなくなったが、ターゲットは俺一人になったとばかりに集中砲火な気がする。なんで?


 何か慌ただしい日々を過ごし、知らぬ間に挙式の日になった。

 夕方の日暮れ間近に長老宅に呼び出された。

 そこで、白いポンチョのような服に着替えさせられた。

 この世界も元の世界も結婚式なんて無縁で、何をどうしたらいいのかわからなかったから、言われるがまま、ヒロミスとアレックスに手を引かれて外に出た。

 既に大勢の人が長老宅前に集まってワイワイしている。

 俺は緊張して、喉は乾くし、周りの人の顔もわからない。声も聞こえない。

 向こうから、同じようにロレンヌと長老に手を引かれるジンナがやってきた。

 俺と同じように白いポンチョのような服を来たジンナは恥ずかしいのか、下を向いている。

 俺の前まで来ても顔を上げない。

 極度の緊張からか、震えているようにも見える。

「ほら、ケン。こんな時までビビってんじゃないよ」

 ヒロミスが耳元で大声で言った。

 俺はヒロミスの顔を見て、反対の手を握るアレックスを見た。アレックスは無言で頷く。

「ジンナ」

 俺がそう声を掛けると、ジンナは顔を上げる。

 頬を染め、どこか不安そうに俺を見つめるジンナは美しかった。


 その後、両者の手を握る者同士で、新郎新婦の両手を繋がせる。

 それが、この村での結婚式であった。

 俺とジンナは晴れて夫婦となった。

 ジンナははにかむように微笑んでいた。

 周りの誰もが穏やかに微笑んでいた。

 しかし、俺はロレンヌから目が離せなかった。

 美しかった青く透き通る体は、隠すような長袖長ズボンになっている。

 しかし、見える部分の半分は体の内側から赤く染まっている。

 ロレンヌの変化が、この平穏な瞬間に影を落としているような気がした。

 その後の長老の挨拶や、いろんな人の祝福の言葉は、俺の耳には届いて来なかった。


 しばらくすると、俺とジンナを中心に数人が並び、正面に立つ人が絵を書き出した。

 写真撮影のようなものなのか?

 体感三十分くらい立たされていたが、その時に隣のジンナが耳元で

「ここに向かうときに・・・お母さんが・・・ケンを恨まないでって。私の願いを聞いたケンを誇りなさいって」

 目を合わせないジンナは前を向いたままだ。

 俺は何も答えられなかった。


 写生が終わると、俺たちは長老の家に担ぎ込まれるように移動して、それぞれが着せ替え人形のように着替えさせられた。

 俺は白いスーツで、ジンナは青いドレスだった。

 そして、屋外に用意された椅子に座らされて、お酒と料理を振舞われた。

 仲間や村人も立食スタイルで大騒ぎしていた。

 謎の押し相撲大会のような物も催されて大盛り上がりをしていた。

 アレックスの参加は止められ、エミカの奮闘もあり、俺もジンナも笑って見守っていた。


 その後にもう一度お色直しの着せ替えタイムが入ると、二人とも落ち着いたシャツにズボンとスカートの普段着のようなものになった。

 やっと終わりかと、ほっとした。

 しかし、村人全員に誘導されてついた場所は・・・

「えーここが、我らが英雄のケン殿とジンナさんの新居になります」

 酔った長老の紹介で、わっと湧く村人。

 ここって、前にアレックスが手伝っていた所か?

 俺とジンナの家?え、これってもらっていいのか?

「じ、ジンナ、これってジンナは知ってたの?」

 ジンナは口を半開きで首をフルフルと振っている。

 長老は玄関を開けて俺たちを手招きしている。

 俺の腕にしがみついているジンナを引っ張りながら俺は動揺しながらも家に入る。

「では、これでこの祝義を終わります」

 閉められたドアの向こうから、長老の大きな声と罵声とも聞き取れるような騒ぎ声がしばらく聞こえていた。

 俺とジンナは灯りの灯された玄関で呆けていた。

「な、なんか本当に夢のようだな」

 気が抜けた俺はそんな間抜けな言葉を呟いた。

 ずっと俺の腕にぶら下がっていたジンナは俺に抱きついて泣き出した。

「・・・本当にこんな日が・・・お母さん・・・あたし、ケンを・・・」

「いいんだ、ジンナ。俺はどんな罰でも受ける。ジンナの死ぬ覚悟よりは軽いけどね」

 しばらく、ジンナは泣いていた。


 それから二人で新居の探索をはじめた。

 大きな窓は北側にしかなく、直接太陽光が室内に入らないようになっている。

 広いリビングを支える大きな柱は、あの時アレックスが支えていたものだろう。

 ジンナは何か吹っ切れたようで、楽しそうにはしゃいでいた。

 大きなおなかでそんなにはしゃいで走ったら危ないと思い、俺はジンナを優しく抱き寄せた。

 そんなジンナは一瞬驚いたような顔をしたが、俺の胸に静かに飛び込んできた。

 俺は許されてはいけない。

 だけど、その小さな動きは、俺のことを「許す」と言っているようだった。

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