表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

162/167

決断

ジンナかロレンヌか、命の選択を迫られるケン。

そして・・・

「う・・・ひがっ・・・ああ・・・」

 俺は意識を取り戻す。

 場所はジンナの診察室。

 ジンナは涙を流しながらも、俺の体の上で必死にミミズの腕をのたうち回していた。

 その隣にはエミカがいて、何かを喋っているようだが、聞こえない。

 俺は胸を電気を流して引き裂かれるような感覚に襲われる。

 息ができない・・・そしてまた世界は暗転していく。


 次に目を開けた場所も、診察台の上だった。

 アレックスに打ちのめされたのは記憶にあるが、その先は・・・

 とにかく、起き上がる。

 喉の乾きが酷く、俺は水瓶を目指した。

 リビングに入ると、懐かしい顔がいた。

 ヒロミスとジンナ、そしてエミカとロレンヌがいる。

「おや、ケン、お目覚めかい?あんた、あたしん家に挨拶に来ないのはどういう料簡だい?まあその姿で許してやるよ。ひっひっひ」

 俺は喋る気力がなく、片手をあげて答える。

 そして水を二杯続けて飲んで、生き返った感じがした。

「みんなで集まって何してるんだ?」

 俺がそう聞くと、何故か皆固まる。

「け、ケン、私が言うのもなんだが、下着くらいはつけたらどうだ?」

 意を決したようなエミカにそう言われ、俺は自分の尻を触る。

 そして前を見下ろす。

 う、嘘だ・・・全裸だったなんて・・・

 俺は逃げるように奥の部屋に走った。


 俺は着替えてから、再度リビングに行こうかどうしようか悩んだ。

 しかし、もう恥ずかしいのにもなれたと言い聞かせて、リビングに向かう。

 一度、外に目をやる。外は暗い。夜になったところか?

「ご、ごほん。や、や、やあ、み、皆さん。今日はどうしたんです?」

 ローレン卿のような堂々とした登場をイメージしたが、うまくいった手ごたえはない。

 そんな俺の胸にジンナが飛び込んできて 「ふえーん」 と泣き出してしまった。

 俺はジンナをあやしながら、助けを求める目をエミカに向けると

「エータの診断では、君は肋骨が肺に刺さり、放置すれば数時間で死ぬ所だったのだ」

「え・・・」

 アレックスは真剣に俺を殺そうと?

 た、多分手加減を間違えたんだと思う。そうだ、きっとそうだ。

 でも、アレックスのお陰で俺は心が決まった。


 その時の話しでは、気絶した俺をエータが運び込んだようだ。

 家の前で立ち尽くしていたアレックスは、拳を振り上げて説教するロレンヌの拳を実際に食らい、吹き飛んでいたらしい。

 丁度夕方で、起きたジンナは慌てて俺の治療をすることによって、俺は一命を取り留めたようだ。

 胸の中で泣くジンナは、俺を心配しながらも

「アイツ、いつか殺す」

 とか呟くのはやめてくださいね。


「まあ、俺も無事だったし、よしとしましょう。で、何してるんです?」

 俺がそう聞くと、一同顔を見合わせた後にヒロミスが口を開いた。

「ケン。あんた、覚悟は出来てるんだろうね?拒否権はないよ」

 俺はそんな言い方に、ドキッとしてしまった。

 聞けば、ジンナがエミカにぼそっと

「結婚式をしたかったな」

 と言ったのを、エミカがなんとか実現させようと皆に声をかけて今に至るようだ。

「もう村長や村の男衆にも声かけてあるからね。わかってるねケン。ひっひ」

 終始楽しそうなヒロミスは、悪い笑い方をしていたのが怖かった。

 で、でも、結婚式って・・・俺?俺とジンナ?え?

 もう、なんていうか平和なイベントなのかもしれないけど、俺の胃が持たないのです。

 目立つことが苦手な、俺とジンナの結婚式。

 どうなってしまうのか・・・



 みんなが帰った後に、俺はジンナに「大事な話しがある」と告げた。

 ジンナは緊張した表情になり、それを見ていたエミカは外に出ていこうとしたが、俺が止めた。

 自分の決めた決断を揺るがせたくない。そんな思いでエミカにも聞いてほしかった。

 ジンナとエミカを椅子に座らせた。

 俺は床に正座した。

 そして二人を見上げて

「俺の事を許さなくていい。でも俺は決めた。ごめんなさい」

 そこまで話し、俺は床に手をついて頭を下げた。

 顔をあげると、ジンナの瞳から大粒の涙が一つこぼれた。

「決めたのだな、ケン」

 エミカの問に俺は首肯する。

「私は大丈夫。覚悟はずっと出来ていたから・・・」

「違うんだ。ジンナ、俺と一緒に生きてくれ。そして『お母さん』を奪う俺をずっと許さないでくれ」

「え・・・」

「ケン・・・」

 二人とも、俺を見て固まっている。

「エミカも俺をずっと許さないでくれ。ジンナと一緒にいたいと思う俺を。殴っても蹴ってもいい。ジンナは俺がずっと苦しむように死なないように治してくれ」

「・・・バカ・・・ケンのバカ・・・許さない・・・お母さん・・・」

 ジンナは震えている。

 そしてわなわなと動く触手のような手を伸ばし、力強く俺を引き寄せた。

「ケン!絶対許さない!だからずっと、ずっとそば・・・うわー」

 ジンナは俺をミミズの腕で締め付け、大声で泣いた。

 エミカは背を向けて体を震わせている。

 俺には、その背に掛ける言葉が見つけられなかった。



 俺はジンナが落ち着いたのを見計らい、エミカにまかせて隣の家に来た。

 ロレンヌとアレックスが座り、エータはキッチンで何かをしていたようだ。

 俺の姿を見たロレンヌはエータを引き寄せて接続していた。

「決めました」

 俺は勇気をふり絞り、震える声を出した。


 ジンナの家のように床に正座した。

 そして、俺は選んでいた言葉を言った。

「お、お母さん。ジンナと俺の為に死んでください」

 床に手と額をつけて懇願した。

「お願いします。俺と・・・お母さん・・・母さん・・・」

 俺は無意識にロレンヌの足首を掴み、すがるような姿勢になってしまった。

 本当は生きていてほしい。

 一緒に俺たちの子供を見てほしい。

 赤ちゃんを抱くジンナと肩を組んでいるロレンヌの幻想が頭に浮かぶ。


 アレックスとロレンヌは力ずくで俺を立たせ、椅子に座らせた。

「それでいいのですよ。ケン、あなたの判断は正しい」

 エータの声で話しているのに、その声は震えているように聞こえる。

「・・・感謝する」

 アレックスはしわがれた声でそう俺に言った。

「アレックス・・・母を奪う俺を許さないでくれ。俺はいい人なんかじゃない」

 アレックスは俺を抱きしめた。

「・・・お前の幸せと、俺たちの滅びが俺と母の望みだ」

「ごめん、アレックス。ごめん・・・」

 アレックスが抱擁を解くと、次はロレンヌが抱きしめた。

「これはね、ジンナに絶対に言わないでって言われてたの。もし、私を選ばなかったら言おうと思ってたんだけど、もういいでしょう。聞きたい?」

 俺は少し怖かった。前に一度、一緒に死ぬと言われた事もあったし・・・

「あの子、一度だけ、本当に一度だけ『生きたい、ケンと一緒に生きたい』そう言って涙を流している姿を見てしまったの。あなたの胸にしまっておくのですよ」

「ジンナ・・・お母さん・・・母さん」

 俺は・・・本当に正しい選択をしているのか?本当にこれでよかったのか?

 いくら涙をながしても、その答えはわからなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ