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帰宅

エミカの治療の為、ジンナの村へ向かったケンたち。

そこでは・・・

 俺はエミカをジンナに治療してほしい。

 アレックスやエータは異存なしと言ってくれた。

 そして、ロレンヌさんも同行することになった。

 エミカは「大丈夫だ」と言っていたが、俺の説得ですぐに首を立てに振った。

 その様子を見ていたケイトに

「エミカ様もケンにかまってほしいんですよ。わかってあげてください」

 そう言われたので、俺はあまり意味がわからず

「じゃあケイトも?」

 そういうと満面の笑みで「はい」と答えた。

 やめなさい。本気にしますよ。

 そうして俺たちは翌朝、出発することになった。


 本来はエミカの一族の半数はジンナの村に移住予定だった。

 しかし、ローレン領の守備の都合もあり、また折を見て移住する事になった。

 ローレン卿をはじめ、ロルド老、ベイツさんにケイトが見送りに出てくれた。

 食料や物資もたくさんもらってしまった。


 アレックスの御者で馬車は出発した。

 途中でエミカが「リハビリを兼ねて御者をやる」と言ってきかないので少しだけやらせたり、ロレンヌさんが、「俺の妻の村に行く」と言ったらジンナの事を根掘り葉掘り聞いたりと賑やかな移動のわりに、豚人や盗賊などにまったくあわなかった。

 この馬車の過剰戦力を理解しているのかもしれない。


 そうしてジンナの村にはローレン領を出て二日ほどで到着した。

 そこで、俺は人生で最大の危機を向かえることになるのだが・・・


 村に入ると、ロイやユリが迎えてくれた。

「よく戻った、我が友よ。お陰で最近は平和だ」

 俺は「製造装置を潰した」とか言っていないのに、なんで「お陰」なのかわからなかったが、いつも「友」と言って迎えてくれるのは嬉しかった。

 二人とも、「とにかく家に帰るんだ」となにか素っ気なくせかされている気がした。

 二人とも笑顔でそう言う。

 俺は何か違和感と共に、ジワジワとなにか不安を覚えていた。


 エミカの治療もあるし、俺はまだ太陽は高かったが、ジンナの家にエミカを連れて入った。

 家に入り、エミカを診察台に寝かせようとすると

「私はそこまで重症じゃないから大丈夫だ!」

「ちょ、ちょっとエミカ。ジンナが寝てるから静かにしないと」

 そんなやり取りをしていて、ジンナを起こしてしまったようだ。

 そこで、俺は・・・

「じ、ジンナ?あ、あれ?ふ、太ったの?」

「おかえりケン。あ、あの、あなたの赤ちゃんが出来ていたみたい」

 はにかんでモジモジしているジンナ。

 大きくなっているおなかでもかわいかった。

 しかし、俺とエミカは固まってしまった。

 ジンナは、ジンナの一族は、出産時に命を落としてしまう!

「ジンナ・・・そんな・・・ジンナ・・・」

 俺はよろよろと歩き、ジンナを優しく抱きしめた。

 涙が止まらなかった。

「俺・・・ジンナが・・・俺が・・・ごめん・・・」

 俺は膝から崩れ落ちてしまった。

 エミカが駆けつけて俺を支える。

「ケン。泣かないで。私、ケンと子供の為なら死ねる。これは前にも言ったけど本気」

 ジンナは俺の顔を両手で包んで力強く言った。

「で、でも、俺、ジンナと・・・ジンナとずっと一緒にいたい・・・」

 情けなく俺だけが、べそべそと泣いている。

 しかし、ジンナの手も僅かに震え出した。

「ケン・・・私もケンとずっと一緒にいたい。けど、私の分も、子供を・・・あ、あい、愛してあげて」

 ジンナもそこで涙を流してしまった。


 しばらくジンナと抱き合って泣いていた。

 俺はギリギリの理性をふり絞り、エミカの事を思い出した。

 エミカは気を利かせて、家を出て行っていたようだ。


「みんなもケンの事を心配するから一回戻ってあげて」

 ジンナにそう促されて、俺は一旦隣の家に行く。

 そこではアレックスとロレンヌ、そしてエミカがいたが、エータがいなかった。

 エミカは事情をアレックスとロレンヌには話してくれたようだ。

 浮かない顔をしている。

「エミカ、取り乱してゴメン。エミカの治療に来たのに・・・」

「ケン、私の事などどうでもいい。ジンナとひと時でも一緒にいるんだ」

 その言葉にロレンヌも頷いていた。

 一応、エミカもジンナの家で寝泊りしていたし、ロレンヌも紹介しないとだし、エルの事も・・・

 そうしていると、エータが料理を持って帰ってきた。

「長老に、またこの村に滞在する許可を得た。ヒロミスに料理も作ってもらった。これは君の妻の分だ」

 そう言って渡してくれた。

「どうせなら、ケン。君の家で食べるかね?せまい家だが、ロレンヌの紹介や吾輩への相談もあるだろう」

 エータの目が光るのを俺は見逃さなかった。

「ちょ、エータが狭い家とかいうなよ!」

「ここも狭いから増築するかね?君たちが発見した砦からの物資調達が順調で資源は十分あるようだ」

 そんなエータをスルーして、俺たちはジンナの家・・・というか俺の家になったらしい家に帰る。


 俺はジンナにロレンヌの紹介をした。

「こちらはアレックスのお母さんのロレンヌ。一応俺の母ってことにもなってる人です」

 うまい言葉が見つからず、俺は何とか言葉を選んで紹介をした。

 ジンナはしばらくロレンヌを見つめてから、俺の後ろに隠れた。

「ど、どうしたんだよジンナ?」

 俺は慌ててジンナを振り返ると

「キレイな人過ぎて、私、醜いから・・・」

 俺は「そんなことない」と言おうとしたら、ロレンヌは俊敏に動き、既にジンナの前にしゃがむような姿勢でミミズの右手を両手で握っていた。

 あっけにとられて見ていると、ジンナは赤面してから

「はい、ありがとうございます。よろしくお願いします」

 そう言っていた。

「あ、あれ?ジンナ、ロレンヌさんは喋れないんだけど・・・」

「え?おなかの赤ちゃんを大事にって・・・え?私の手に触れていると伝わるみたいだって」

 なんだかよくわからないまま、立食することになった。

 二人掛け程度の小さな四角いテーブルに、ヒロミスが作ってくれた料理が所せましと並べられた。

 身重のジンナは座らせて、俺たちは立ったまま話しながら食事をしていた。

 ロレンヌは何の制限もなく会話できるジンナと打ち解けてくれたようで、二人で何かをしきりに話して笑っている。

 とりあえず、食事が終わり、解散となった。

 エータとロレンヌは「眠らなくて大丈夫」と言って片付けをしてくれていた。

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