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ローレン卿とのやりとり

エミカの報復を果たしたケン。

ジンナの元で治療させたいが・・・

 エータの攻撃の翌日、ルード辺境伯自らが和睦の為に屋敷に訪れたらしい。

 らしい、と言うのは俺と仲間たちはだれも会っていないからだ。

 しかし、エータ攻撃の効果は絶大だったようで、

「村の復興に役立ててください」

 そういって馬車一台を荷台の財宝と馬付きでおいていったようだ。

 ローレン卿は、やり手の貴族らしく

「ああ、ルード卿と仲のよかった、ああ誰だったか忘れたが、彼からも何か便りがあったら、ルード卿の所にも私から挨拶をしたほうがよいのだろうか」

 そういってさんざん脅かしていたようだ。

 ベイツさんは、「旦那様は終始ご機嫌で楽しそうだった」とその時の様子を語っていたようだし、すこしは肩の荷が下りたのかもしれない。

 俺も、それを聞いてすっきりした気分だった。


 そして、俺はエミカをジンナに診察してほしいと考えていた。

 エミカは

「多少傷むが、体も動くし、そんな大げさに騒がなくてもいい」

 そういってはいるが、エミカは我慢強いし、もしかしたら激痛で、完治するのに時間はかかるだろう。

 しかし、俺はなるべく早く、ジンナに診せたかった。

 今、色々な事柄が俺の周りではひと段落したように思う。

 そんな事もあり、俺はローレン卿に「そろそろゴーを返してほしい」と言うつもりだった。

 そうしてローレン卿の執務室を訪れた。


 ドアをコンコンと二度ノックすると、ロルドさんがドアを開けてくれた。

「おお、ケン殿。そろそろだと坊ちゃんも申しておりました。お入りください」

 そうして俺はローレン卿の大きな机の前に椅子を置いてもらい座った。


 机の上には簡素な木彫りのペン立てが置かれ、壁には大きな地図が掛けられていた。窓の外には夕陽が差し込み、執務室全体に金色の輝きを与えていた。

 机の上は思っているような乱雑さもなく、キレイに片づけられており、束になった書類をローレン卿は見ていたようだ。

 そして俺が座ると、ローレン卿は書類から目を放し、俺を見つめる。

「ケン、そろそろ来る頃だとは思っていた。君に回りくどい言い方はよそう。ゴールアの事であろう」

 俺が「はい」と答え終えたタイミングで、ロルドさんがスッと紅茶を俺の前に置いた。

「君たちはそろそろ旅立つだろうと予測はしていた。そして来る頃だと」

 ローレン卿は席を立ち、目を細めて外を見ている。

 その顔は俺の知っているローレン卿よりも十歳は老けて見えた。

「ケン、君には世話になった。先日のルード卿の件もだ。しかし、許してくれ。今、ゴールアに抜けられては困るのだ。君も知っていると思うが、王都方面の警備を任せられるのは彼しかいないのだ」

 ローレン卿は立ち姿のまま、頭を下げる。

 横を見ると、ロルドさんも頭を下げている。

 俺はどうしていいのか、なんといえばいいのかわからなかった。

 ローレン卿は椅子にかけたが、その姿は以前よりも小さく見えた。

「先日、ゴールアが君に会いに帰還したときに、『ケンの元に戻りたいか?』と聞いた。なんと答えたか、君ならわかるか?」

 俺は少し考えた。

 ゴーの性格からして「戻りたい。ですが、今私がやっていることがケンの助けに、それと閣下の助けになるはずです」そんな事を言っていそうだなと思った。

 そう伝えると、ローレン卿は天井に顔を向け、片手で目を覆った。

 そして、言葉を選びながらこう告げた。

「ほぼ、その通りだ。君は・・・君たちは本当に深い繋がりを持っているのだな。私も執務をロルドにまかせて君についていきたいくらいだ」

「ぼ、坊ちゃん・・・」

 ローレン卿は疲れた笑いを浮かべてから、顔を引き締め

「じい、冗談だ。ケン、見苦しい所を見せた。許せ。今がこの国の正念場なのだ。ここが終わったなら、必ずゴールアを君の元に返すと約束しよう。それと、君たちの領内の出入りと滞在の許可を示す書簡を渡しておく。いつまでも滞在していてよいのだが、そうもいかないのだろう?」

 ローレン卿は話しながらも、引き出しから紙を出し、サラサラと何かを書いて、机の上でロルドさんの方に差し出した。

 ロルドさんは受け取り、手早く大きな印鑑を数個押して、筒に入れてローレン卿に手渡した。

 そして俺にそれを差し出した。

「ケン、ここはもうお前の家だ。いつでも帰ってこい。むしろこの辺りへの永住を真剣に考えてくれないか?返事はいつでもよい。旅の無事を祈る」

「はい、検討します」

 俺はゴーの件もあって、素直に「ありがとうございます」と言えない自分がいた。

 庶民の俺にたいして、貴族の、多分高位貴族のローレン卿が破格の対応をしてくれているのはわかっているのだが・・・

 この破格の対応に感謝していないわけではない。ただ、それ以上に、ゴーを失ったような感覚が心を締めつけていた。

 複雑な心境で、俺は部屋を出た。

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