豚人生産拠点 その後
生産拠点を襲撃したが、思案してしまうケン。
しかし・・・
俺とロレンヌさんはしばらく震えながら寄り添っていた。
少し落ち着きを取り戻した俺は
「ありがとう、もう大丈夫です」
そういって立ち上がった。
彼女も立ち上がる姿を見てから、「俺も手のひらで触れられていたのに吸収されていない」なんて考えてしまった。
エータは部屋の隅にあるコンソールを操作していた。
その壁面は大きなモニターになっていて、いくつかの幾何学模様と文章を表示している。
「やはり、反乱AIの意志を吹き込まれ、ここの豚人は作られ行動していたようだ。これこそが今代の『豚人の指導者』のようだな」
俺は以前にも聞いた「豚人の指導者」というのは、たくさんの豚人に囲まれながら高台に立って赤いマントをはためかせながら、杖を片手に両手を大きく広げて演説している姿を想像していた。
なにか、がっかりしたような気分になっていた。俺の「豚人の指導者」をかえせ!
「本来の生産プログラムにリンクされている程度だから排除は簡単だな。ネットワークから切り離しておこう。しかし、ここを吾輩が破壊せずに確保できたのは価値がある。ケン、君ならわかるはずだ」
俺はそう言われて、少し考えた。
ジンナやエミカが管に繋がれている姿を想像した。一瞬怒りをおぼえたが
「エータ。悪気がないのはわかっているけど、俺の仲間をここに繋ぐような事はやめてくれ」
力なくそう言った。
「画面に表示させているのだが、君には理解できなかったようだな。実際にはこのように母体を接続しなくても利用は可能だ。胎児の成熟期間も前後させる機能もあり、このように無理やりな早熟で未熟な個体を量産するのはある意味効率的と言えるが・・・」
エータの説明が続いていたが、俺は少し混乱しながらも
「あー、エータ。それって、ジンナをここに繋がないでも、そ、その俺との間の子供を・・・」
「君の想像通りだ。もっと極端な例では条件次第で受精卵がなくてもクローンとしての単体生産も可能な性能を保持している」
「じゃ、じゃあジンナは死ななくても出産できるんだね!」
「理論上は可能だが、あくまで机上の計算での話しだ」
俺は一瞬喜んだが、やはりこれは自然の摂理に反しているような気がした。
でも、俺はジンナを失いたくない。
「そ、その俺のわがままなんだけど、これの使用は必要最低限にしよう。あ、あの俺の許可がある時だけとか・・・」
「吾輩が君の意見に反対したことがあるかね?君の意志を尊重してロックしてスリープ状態にしておこう」
「エータ・・・ありがとう」
頭を下げてお礼を言う俺にエータは付け加える。
「ああ、あまりに稚拙で愚かな発言には批判はするがね」
「もう、せっかくの気分が台無しな事いうなよ!いつも一言余計だ!」
バシバシとエータの背中を平手で叩く俺をアレックスとロレンヌさんは顔を見合わせて微笑んでいた。
そうして豚人生産拠点を後にした。
たくさんの豚人を殺してしまった。
それは結果的に良い行いだとしても、俺は素直にそう思えなかった。
しかし、ジンナが出産時に命を失わなくていい。そう思うと俺は何故か達成感を感じていた。
しかも、地底人の繁殖にも実用できる可能性が高いとエータは言っていた。
エミカもきっと喜んでくれるだろう。
そんな事を考えると、俺の口角は上がっていた。
「キメラの生産拠点も近い。戻るよりもこのまま向かう方が効率的だ」
そう言うエータに従い、俺たちはキメラ生産拠点に向かった。
一度の野営を挟んで、翌日の昼過ぎに森の中にある地面に開いた穴についた。
地面が突然陥没して出来た穴のように、端面は不自然に切られたように鮮やかな地層が見えた。
穴は大きく広い所では10メートルくらいありそうだが、狭い所は2メートルほどのいびつな形だった。
覗き込むと、中が見えないくらい真っ暗だからきっと深いのだろう。
これってどうやって降りるんだ?飛び降りられないし・・・
そう考えていたのだが・・・
「吾輩が内部を偵察してくる。きっと他の出入口もあるはずであるから、諸君は待っていたまえ」
背負っている荷物をおいて飛び降りてしまった。
俺はとりあえず、シロンを穴から離れた繋げそうな木に繋いだ。
「ここらへんで待っていようか」
そう言うのと同時くらいに、穴の中から「キー」という悲鳴ともなんとも言えない音が響いてきた。
俺は聞こえない振りをして、シロンを見ると、のんきな顔をして草を食んでいた。
アレックスは手早く火を起こし、湯を沸かし、紅茶を入れてくれた。
焚火を囲んで三人で紅茶を飲んで、最悪ここで野営するか。
時刻は午後三時とか四時とかそれくらいか?
まだ太陽は高かったが、エータがどれくらい時間がかかるかわからないから、テントを立てたり夕食用の干し肉を茹でもどしたり、準備していた。
夕食の準備が整い、食べ始めたころに穴とは違う方向から歩いてエータがやってきた。
焚火に照らされたエータの体は濡れた液体包まれていた。
返り血だろうか?揺らめく炎に照らされ怪しくきらめいていた。
「待たせたね。とにかく食事を続けてくれたまえ」
そういって荷物袋から布を取り出して全身を拭いていた。
俺は少し失せかけた食欲だったが、食べてる時に食べておいたほうがいいと思い、固いパンちぎり、スープに浸して食べた。
アレックスもロレンヌさんも食事を終えており、俺が食べ終わるタイミングでエータは話し始めた。まだ体を布で拭っている。
「まず結論から告げよう。あの拠点の再利用は不可能だ。一度見てもらったほうが早い」
そこでエータは言葉を区切り、自身の右腕を左手でさすってから俺を見た。
「ケン。ここを消滅させる為に主砲使用の許可が欲しい」
俺はごくりと唾を飲み込んだ。
「そ、その、中は一体どうなっているんだ?」
「今日はもう休みたまえ。明日、日が昇ったら見に行こう」
そして、謎を残したまま、不安なまま俺はなんとか眠った。