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豚人発生源を目指して

豚人の発生源を目指し、ロレンヌと旅をするケン。

旅の途中で・・・

 翌日も移動を続けていた。

 ロレンヌさんは昨日までの奔放な移動はやめて、エータと並んで先導するように進んだ。

 エータはロレンヌさんの体内に入り、発声器官を完全に突き止めたようだ。

 ロレンヌさんがエータに振れていれば、その発声器官からの振動をキャッチして代理発言をすることに成功したようだ。

 これであの、エータとロレンヌさんの合わさった姿を見なくても良いと考えると、すこしほっとした。

「ノイズとシグナルの分別に少し時間を要するが、ほぼ確実に発言を伝えることができる」

 とエータはどや顔で説明してくれた。実際にすごいと思う。エータには言わないけど。


 そうして森の道を抜けて丘陵地帯にでると、今度は野営していると思われる豚人の集団に出会ってしまった。

 エータの感知であらかじめわかっていたが、前を行くエータもロレンヌさんも道を逸れる事はなかった。

「ロレンヌ、わかっていると思うが、豚人は我々だけではなく、全人類の敵だ。容赦は不要」

 そう言われてロレンヌさんは頷いていた。

「アレクシウスはケンの守護を。吾輩は不要だとは思うが、ロレンヌのフォローをしよう」

 そう言っていると、ロレンヌさんはワンピースを脱いでアレックスに渡していた。

 俺はその異様な行動をじっと見ていて、咄嗟に目を逸らし

「す、すいません」

 謝罪した。

 青く透き通ったロレンヌさんは美しかった。


 俺とアレックスは少し離れた丘の上に移動した。

 ロレンヌさんを先頭にエータが移動していた。

 二人とも、足音を殺しながらも走っている。

 ロレンヌさんは昨日と同じように、触れた豚人を体内に吸い込み消し去っていく。

 音も無く、吸い込まれた豚人は消えていく。

 ロレンヌさんの体表に、水滴を垂らした水面のように波紋が広がったのが見て取れた。

 三匹目の豚人を吸い込んだ時に、他の豚人に見つかり応援を呼ばれた。

 槍を突き出しロレンヌさんを攻撃する豚人。

 しかし、槍は身体を突き抜け、ロレンヌさんは何事もなかったように槍が刺さった方向へ進み豚人を吸収する。

 頭部に槍が刺さろうが、胸部の赤い部分に槍が食い込もうが、ロレンヌさんの動きに痛みを感じるような事は無かった。

 走って逃げだす豚人の肩に触れるだけで、豚人は地面から足が離れ、次の瞬間には消える。

 無血の蹂躙だった。

 逃げた個体もいただろうが、凡そ百体ほどいた豚人は消え去った。


 俺は呆然と見ていたが、手が足が、体が震えていた。

 俺の知っている人達、ジンナやゴーやエミカがもし、あのように音もなく吸い込まれ、突然消え去ってしまったらと考えると、目の前が真っ暗になった。

 隣で見ていたアレックスが俺の肩を組むように手を回して

「・・・ケン。母を恐れないで欲しい。母は守る為に力を振るう」

 顔を向けると、アレックスはロレンヌさんの方を向いていた。

「ごめん、アレックス。俺、俺怖くて・・・ごめん。でも・・・」

 俺は豚人を倒すと決めたんだ。守る為に。逃げてばかりではダメだと自分に言い聞かせたではないか。

「でも、アレックスのお母さんだと思えば、大丈夫。それに・・・」

 アレックスはじっと俺の顔を見て、続きを待っている。

「それに、ロレンヌさん美人だしね」

 俺は無理やり笑ってそういった。怖さを隠すために。

 アレックスは少し驚いた顔をしていたが

「・・・俺の母だしな」

 そう言ってくれた。



 その日の夜も野営になった。

 俺は今頃になってアレックスが言っていた「母が守る為に力を振るう」と言った事が気になっていた。

 そんな事を考えていたのに、アレックスが

「・・・ケンが母上の事をしきりに美人だと褒めていた」

 突然の発言に、俺はスープを噴き出した。

 ロレンヌさんは戦闘後に白いブラウスとスカートに着替えていた。よく似合っていたので

「白い服がよく似合いますね」

 そう咄嗟に言ってしまった。実際に美人に見えるし、思っていた事が出てしまったのだ。

 ロレンヌさんはキョロキョロとしたような動作をした後に、エータを引っ張り

「あまりからかわないでください。でも、ありがとう」

 エータはそう言ってから、ロレンヌさんと何かコソコソと話し込んでいる。

 あまりジロジロと見たら悪いと思い、そこから目を逸らし夜空の星々を数えた。


 翌朝、俺は日の出前に目が冷めた。

 簡易テントの中、俺の隣でアレックスはまだ眠っていた。

 俺は起こさないようにそーっとテントを這い出した。

 ここは山間の草原のような場所だった。

 遠くに朝焼けが山の岩肌を焼いているようだ。

 シロンの嘶く声にそちらを振り返ると、ロレンヌさんがいた。

 ロレンヌさんがシロンの頭をやさしく撫でていた。

 朝の低い太陽の光を受けた草原の花々は輝いていた。青く透き通る彼女の身体は、その光を反射し、小さな虹を作り出す。その静かな美しさは、誰もが手を触れることをためらうほどに儚かった。

 身にまとう純白のワンピースを僅かに揺らす風が吹いた。

 俺は息をのむ。

 しかし、次の瞬間、俺はシロンが吸い込まれてしまうのではないかと恐怖した。

 シロンはただでさえ噛みつくクセがある。

 噛まれた時に咄嗟にロレンヌさんが能力を使ってしまったら・・・



 そう考えている俺の隣に音もなく、鹿を担いだエータがいた。

「今の彼女は無作為に吸収することはない。だが、君が不用意な攻撃を彼女に加えるのなら吾輩も保障はしかねるがね。君には話しておこう。本人の許可も得ている」

 エータは過去にあったロレンヌさんの話しだった。

 ローレン領で保護される前、ロレンヌさんとアレックスは放ろうしたり、村に匿われたりしていた。

 ある優しい村人たちの村で、盗賊や豚人などの脅威の対処などを積極的に行うなどをし、うまく共存していたようだった。

 しかし、ある日領地を統括する貴族の使いのものが傍若無人な態度で村人に暴力を振るい、それに対処すべく、その貴族の使いを吸収してしまった。

 村人は貴族の処罰を恐れ、ロレンヌさんたちを村から放逐した。

 ロレンヌさんたちはそれに従い、村を出たがほどなく村は焼かれてしまう。

 村の様子を遠くから見守っていた彼女たちは村を救うべく村に駆けつけると、貴族の私兵がいた。

 兵は村人を殺すでもなく、いたぶって遊んでいるようだった。

「昨日君も見たであろう。人間の兵たちは何もできずに彼女に次々と吸収されていった」

 何故か自慢げに言うエータの顔を見て、俺は疑問を感じた。

「それでも、どうして彼女たちはそんな状況に陥ったんだ?」

「簡単な話ではない。だが、貴族が圧政を敷き、村人が頼る相手が他になかった。それがきっかけだ」



 村人たちは救ってくれたお礼をいう者もいたが、大半が貴族の復讐を恐れていた。

 ロレンヌさんとアレックスは村人を救う為には貴族を打つしかないと考え、たった二人で中核都市と貴族郎党千人ほどを壊滅させてしまう。

 そして村に帰るも、だれも喜んではくれない。

 今後の生活もままならないと言う。

 貴族のいた都市でも、帰らぬ人に悲しむ姿しか見なかった。


 似たような事を何度も経験したロレンヌは「自身は不幸を呼ぶ存在」として認識した。

 それ以降、近付く人を容赦なく吸収していった。

 ロレンヌたちは人里を去っていった。

 深い森の洞窟に隠れ住んでいたのに、頻繁に訪れる人。

 後にわかるのだが、森の鬼退治であったり、見世物小屋の取りものであったり、そういった類の噂はいつの時代にもあり、そんな行動原理が不明な人間は驚くほど多く訪れていた。


 だが、ある日を境に人はぱったりと来なくなる。

 久しぶりに訪れた人は、大きな声で

「敵意はない。この地域一体は我が父が買い占めた。だから人が来ることはないが、稀に迷い込んだ人は殺さないでほしい」

 そんなような事を行ったり言ったりする人間は、頭がおかしいとしか思えないのだが、セバスチャンの先祖はそれをした。

「彼は異常だが、行動には一貫性があった。たとえ周囲に狂人と思われようとも、彼の決断が今日の平穏を生んだのだよ。その子孫であるセバスチャンもその片鱗は伺えるがね」



「そうしてセバスチャンの先祖の庇護を受け、現在にいたるのだが、やはり彼女は満たされていなかったのだな。今の彼女は吸収をコントロールできるようになった。お前を保護対象としたことで、抑えられるようになった。これは言うなと言われていたのだが『ケンは私の新しい息子』などと言ってた」


 彼女は人と共に生きて、その力で人々を守りたかったのか?

 しかし、その力で多くの人を不幸にしてしまったから、それが自分のせいだと自責し続けていたのか?

 俺に何かできるのか?俺はどうすれば・・・

「母を恐れないでほしい。母は守るために力を・・・」

 アレックスの言葉を思い出す。

 そうか、そうだなアレックス。

 ちょっと、と言うか正直怖いけど、なるべく普段通りに接するようにしよう。

 そう決意した俺の前で、エータは捕えてきた鹿を引き裂いていた。

 飛び散る血肉を眺め

「エータ・・・俺たちの為に料理をしてくれているんだろうけど、さっきまでのいい話が台無しだ」

「血抜きを効率的に行っている。この方が君たちの味覚には良いのだろう?」

 何故かエータは笑っているように見えた。

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