エータの決意
ケンは決断した。
そしてエータは・・・
ゴーとロルドの姿が見えなくなるまで、俺たちは見送っていた。
屋敷に入り、リビングで俺はアレックスとエータにこの世界に残る事を告げた。
「君が決断したのなら、この情報も開示しよう。事前に伝えては、君の判断が鈍ると思い伝えていなかった」
エータはそういって、その「情報」を教えてくれた。
メインターミナルシステムのエネルギーはエータの想定の半分以下。
エータの武器や体内電池にエネルギーを装填すれば使い切ってしまう。
そうなると、俺は元の世界には戻れなくなる。
要は「元の世界に俺を戻す」か「エータのエネルギーをチャージする」の二者択一だったようだ。
「これを先に君に伝えてしまえば、君は自分を犠牲にする可能性が高いと予想していた。だから黙っていた」
なんだよエータ・・・なんだよロボットのくせに・・・俺は胸が熱くなってきていた。
「吾輩の行動が君を苛ませているのは理解している。エルロットの件に関してもそうだ。だから、これは事前に伝えておこう。次に有線接続する際、プロテクトを解除する。フォーマットして初期化するのも、プログラムを改ざんするのも、もちろん機能停止させる事も可能だ。どうするかは君に委ねる」
俺の頭の中で「?」が浮かぶ。
「エータを俺が初期化したり停止させられるってこと?でもそうしたら、アレックスとお母さんはどうするんだ?」
俺がそう聞くと、エータは笑ったような顔をしたように感じた。
「ケン、君がいるではないか。君の知識と技術なら、吾輩のプラズマ砲を転用した武器を制作可能であろう。だから吾輩は君に委ねている」
俺は冗談なのか、買いかぶられているのか、本気なのかわからなかった。
そんな事出来るわけない・・・と思う。でも、エータは冗談を言わない。
「俺は・・・俺はこの世界で、一緒に生きていたい。アレックスとエータと一緒に・・・」
俺の大切な仲間であり友達。
そんな友達を助ける旅。
大事な仲間たちの望みは「滅びる事」
でも、俺は同じ時を過ごしたい・・・
その旅が終わりに近づいている。
俺はそう感じていた。
翌日、俺たちは遺跡に向かった。
エータのエネルギーを補充して、最終調整をする為だ。
俺は何をどうするのかは正直わかっていない。
エータを信じて、指示通りに端末を操作するだけだ。
金属製のベッドと、機械アームがつり下がっている部屋に来た。
「ケン、再度伝えておくが、接続したらプロテクトを解除する。どうするかは君に任せる」
エータはベッドに横になりながら、そう言った。
「じゃあ俺の好きなようにする」
「では指示を出す。それに従うも従わないも君の自由だ」
「ああ、はじめよう」
こうしてエータの充電と調整が始まった。
俺はアレックスにモニターの文字を読みあげてもらいながら、エータのいう通りに操作した。
モニターの隅には「E-3タイプT概要」というアイコンのようなものも出ていたが、無視した。
エータは光に包まれたり、つり下がったアームがエータと繋がったり離れたり、ベッドの下の長い針が突き刺さったりしている。
そんな事を繰り返していたが、モニターに「エネルギー充填中」の表示が出た。
「メインターミナルシステムは完全に吾輩の制御下に入った。全ての稼働エネルギーを吾輩に提供させているので、少し時間がかかる」
そうして、白や黄色、緑に赤と色とりどりの光が、エータに接続しているつり下がったアームや、ベッドの下からエータに注がれている。
三十分程で、その光が収まった。
モニターには「完了」と出て、操作はもう必要ないようだ。
「ここの電動力は全て、じきに落ちる。自動ドアが機能しなくなる前にここを出よう」
そうして遺跡を足早に去った。
ローレン邸に戻った俺たちはリビングで紅茶を飲んでいた。
俺が入れた紅茶だったが、おいしかった。
そうして一息ついた所で、エータの説明がはじまった。
「吾輩のプラズマ砲及び融合炉とエネルギー保管システムは完全に復元した」
エータのプラズマ砲は一度打ってしまうと、次弾チャージには三日程度の充電期間が必要。
しかし、出力を調整する事によって、チャージ期間を短縮することもできる。
そして、その威力は・・・時期が来れば直接見せるようだ。
現状は100%チャージ完了しているからいつでもぶっぱなせるらしい。
「厳密には戦闘中に突然打てる訳ではなく、調整の時間が必要になる」
わかったような、わからないような感じだけど、これでアレックスを滅ぼせるのか・・・
本当にこれでよかったのか?
・・・
「前に・・・アレックスが言ってくれた事を覚えてるか?俺が、その、死ぬまで、アレックスを滅ぼすのを待ってくれって・・・」
「もちろん、覚えている。君の意志は最大限尊重するつもりだ」
「うん・・・ありがとう」
「礼をいうのは吾輩の方だ。君に全てを委ね、吾輩は消滅も覚悟していた。信じてくれてありがとう」
エータはお礼を言いながら頭を下げた。
ロボットなのに、俺はそこに誠意のようなものを感じた。
違和感はなかった。
椅子に座っていたアレックスが立ち上がった。
俺の横に来て、俺を無理やり立ち上がらせた。
事態についていけない俺を、アレックスは優しく抱きしめた。
「・・・よくぞ・・・よくぞやってくれた・・・これで俺と母は・・・」
アレックスの声は震えていた。
顔は見えないけど、泣いているのか?
俺は「アレックスが死んでしまう」と考える悲しさと「望みを叶えてあげられる」という喜びと、今のアレックスの行動で、頭の中が混乱していた。
でも、俺もアレックスの背に手を回した。
強く抱きしめて、俺は声を上げて泣いた。