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埋葬

倒れてしまったエルロット。

ケンは・・・

 俺は二日ほどベッドで寝ていたらしい。

 あまり覚えていないし、思い出したくない。

 今にもドアを開けてエルが入ってくるような感じがする。

「兄貴、また泣いてんのか」

 そんな声が何度も頭の中に響いて、実際に聞こえてくるようだ。


 ドアが開いた。

 エル・・・ではないことはわかっている。

「・・・ケン・・・エルロットを裏庭に埋める。最後だ」

 アレックスはそれだけ言って出ていった。

 エルは本当に死んでしまったんだな・・・

 俺は起き上がり、裏庭に向かった。


 小さな穴が既に掘ってあり、エルの亡骸はアレックスが抱いていた。

 穴の横で涙を流すロルド老とエータが立っている。

「・・・ケン・・・別れの言葉を」

 アレックスの「別れ」という言葉を聞いて、俺も涙が流れた。

「エル・・・ごめんな、俺が巻き込んだせいで・・・」

 ふと、エルの最後の笑顔が浮かんだ。

『ケンの兄貴の仲間になれてよかった、ありがとう』

「ゆっくり休んで・・・」

 俺の声は嗚咽に掻き消され、もう言葉にならなかった。

「・・・エルロット、お前はもう自由だ」

 アレックスはそう言って穴の中に優しく横たわらせた。

 ロルド老はスコップで一度土をかけて

「ケン殿も土を。感謝とやすらぎを」

 そう言ってスコップを俺に手渡す。

 エルの最後の言葉が、また浮かんだ。

『ケンの兄貴の仲間になれてよかった、ありがとう』

「・・・うう・・・エル・・・ありがとう・・・いやだ・・・ああ」

 俺はひとすくいの土をかけたら、感情があふれ出し、膝から崩れた。

 ロルド老は俺の横にしゃがみ、背中をさすって

「辛いな・・・本来ならこの老骨が先のはずなのに・・・」

 埋まっていくエルを見て、そう呟いていた。


 その後も俺はベッドに伏していたが、ロルド老が「丸二日も食べてないから食べなさい」と言い、リビングに連れられてスープを出してくれた。

 暖かいスープを一口飲んで、ほんの少しだけ気持ちが落ち着いた。

 屋敷の中は静かで、スープを啜る音とかすかな食器の音が響いた。


 また部屋に戻り、ベッドに倒れこむ。

 エータは俺の前に来ない。

 エルの埋葬の時は見かけたが、エータは俺に声をかけなかった。

 俺の前では発言もしないようにしているのだろう。

 あの時のエータは・・・

 エルとの約束を優先したんだな。

 途中で少し戸惑ったような感じもあった。

 考えても仕方ないけど、他に方法があったのではないか?

 ずっとそんな事ばかり考えている。いくら考えてもエルは帰ってこないのに。

 エータを助ける為に行動していたのに、エルが犠牲になって、エータが復活して・・・

 俺は何をしたくて、何をしているのかわからなくなっていた。



 今は何時なんだろう。

 窓の外は明るい。

 しかし、灰色の空は窓に水滴を作っていた。

 窓に当たる雨を眺めていると、アレックスが来た。

「・・・ケン。エータと話しはできるか?」

 俺は上半身をベッドの上で起こして頷いた。

 エータの顔を見ると、どうしてもエルを思い出してしまう。

 エータに肩車されて疾走するエルは楽しそうだったな・・・

 そんな事を考えているとエータが入室してきた。

「ケン。君は吾輩の顔など見たくないだろう。しかし、どうしても話しておかなければならない事がある。アレクシウスにも聞いてほしい」

 そうしてエータは話し始めた。


 エータは今回の接続と反乱AIの鎮圧に成功した事で、多くの情報を入手した。

 その中で、メインターミナルを起動させているエネルギーについて聞いてほしいようだ。

「保有しているエネルギーは吾輩の想定していた量の半分以下であった。ケンをこの世界に転移させる際に半分の量を使用してしまっている」

 人一人を転移させるのにエネルギーがいると言われれば、たしかにそうなのだろうとは思う。

 しかし、次のエータの言葉は予想外だった。

「もし、君が望むならば元の世界に戻る事が理論上可能だ」


 ・・・俺はしばらくフリーズした。理解しているが、それを拒否しているのかわからないが、思考がとまってしまった。

「君の話しを聞く範囲だが、この世界と君が居た世界では命の重さが違うようだ。君には他者の死も辛いのだろう」

 エータは、俺が感じている事を的確に言葉にして述べた。それはずっと感じてきた事だった。

「エルロットの件で吾輩への不審は大きいだろう。しかし、君のお陰で吾輩の機能はここまで復元できた。感謝している。今後どうするかは君自身で決めたまえ。吾輩は全力でサポートする」

 俺は無意識にエータの顔を見てから、アレックスの顔を見た。アレックスは椅子に座り、じっと俺を見ていたが立ち上がった。

「・・・ケン、お前には感謝している。巻き込んですまなかった」

 九十度に頭を下げるアレックス。

 そして立ったまま喋っていたエータも頭を下げる。

「我々の問題を君に解決を求めていた。謝罪と手助けに感謝する」

 な、なんだよ。そんなに改まって・・・

 謝罪なんて、これまで生きてきて誰かから受けたことがあっただろうか。

 ・・・いや、それより――

「本当に、俺なんかに感謝しているのか?」

 そんな言葉が頭をよぎる。


 俺はその言葉に返す言葉が見つからない。謝罪されるなんて思ってもみなかった。いや、もしかして俺は――


 やっぱり俺は役立たずだからいらないのか?

 さっさと帰れって事なのか?

 でも、俺を助けようとしたエルは死んだ――その事実が頭から離れない。

 俺は・・・何をしているんだ・・・!?

 ・・・

 ・・・

 ・・・

「す、少し考えさせてくれ」

 俺がそう言うと、エータもアレックスも頭を上げた。

「じっくり考えてくれたまえ。吾輩には気遣い無用」

 エータなりに気を効かせたのか?


 アレックスとエータは退室していった。

 部屋に一人、ベッドで上体を起こしていた俺は倒れこんだ。

 エルの事もあるし、たくさん人が死ぬのを見た。

 今だって重大な事を決断を迫られたり、難しい事を任されたり、決めさせられたり。

 もう、なにもかも放り出して逃げたい・・・

 父さんはもういないけど、母さんが・・・俺を探して待っているかもしれない。


 でも・・・


 ジンナの顔が、優しく微笑んでいる姿が浮かぶ。

 ジンナだけじゃない。

 俺を「友」と呼んでくれたロイやユリ。

 元の世界に戻っても、俺には「友」と呼べる人も、呼んでくれる人もいない。

 両親のような、優しい長老とヒロミス。

 俺と旅をして、俺の為に死ねるというゴーとエミカ。

 アレックス、エータ、そしてエル・・・

 アレックスは何年も生きてこんなにつらい別れを何度もしているのか。

 みんな、俺がいなくなったら悲しんでくれるのかな・・・

 ジンナが悲しそうに泣いて見送ってくれた姿を思い出す。

 そして、アレックスとの約束。

 ・・・


 何を迷っていたんだ。

 母さん、ごめん・・・。

 親孝行も出来なかったけど、親不孝な俺を許してくれ。

 大切な物がここにあるんだ。

 最後までやり遂げよう。

 後悔しないように・・・

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