エータ復旧作戦
相変わらず起動しないエータ。
ケンはどうするのか
気が付くと、俺はベッドに寝かされていた。
昨日はほとんど眠っていなかったから、眠ってしまったのか?
起き上がり、部屋を見まわす。
ローレン邸の見慣れた景色にアレックスもエルも見当たらない。
俺は部屋を出ると、いい匂いに襲われた。
匂いに導かれ、リビングに行くと、アレックスとエルとロルド老が食事をしていた。
「おお、起きましたな。今ケン殿の分も準備するのでお待ちを」
そういって、スープとパンを並べてくれた。
とろみのあるスープに浸る、大きなジャガイモと肉。
暖かいスープは俺の体を温めてくれた。
うまい・・・
そう思ったが、同時に「こんな時でも・・・俺は・・・浅ましい」と感じていた。
「ケン殿。事情は伺ってます。お辛いでしょうが、せめて食事は楽しんでください。まあ、私の食事が気に入らないのなら仕方ないがね」
ロルド老は気を効かせ、声を掛けてくれた。きっと俺の顔が酷かったのだろう。
「い、いえ。とてもおいしいです」
俺はそう答えて固いパンをちぎり、スープに浸して食べた。
「兄貴、ロルドのじいさんにはエータの旦那の事も話しといたよ。よくわかんないからうまく説明できなかったけど、じいさんならなんか知恵があるかもと思って」
エルもなんとかしようと思っているんだろう。「じいさん」は聞かなかった事にしよう。
「ええ、話しを伺いましたが・・・ワシも機械の事はさっぱりで。でも城門を開ける巻き上げ装置とか、投石器くらいなら見たことあります。やっぱり大きな力がいるのかのう」
俺もそれらを思い浮かべて、この世界の機械って言ったらそういうのか。アナログだな・・・
まてよ?大きな力・・・エータは「エネルギーが足りない」ような事を言っていた。
電力でいいのかわからないけど、外部から電力を補充しにここに来たんだ。
じゃあ、そうすればもしかしたら?
俺は希望を見つけた気分になって、立ち上がってしまった。
「ロルドさん!ありがとうございます!」
何かロルドさんもエルもアレックスも引いた顔をしていたが、気にならなかった。
その夜に、エルからエータから電源復旧の手順を聞いているのか聞いた。
「なんとなくは聞いてるっす。旦那が動かなくなった部屋が終わったら、次の部屋で同じような事をして、もう一か所で何かをするっていってましたぜ」
エルは一応部屋の場所を聞いているようだ。
それに沿って動かしていけば、主電源が入り大きな動力が得られるのかもしれない。
やってみる価値はある。
「まずはタービンと・・・モーターを動かして・・・コンプレッサーとかもあるのか・・・」
俺は天井を見上げ、頭の中で動力回路をイメージしてブツブツ独り言を言っていた。
目の前に座るエルと目があった。
エルはニヤニヤしているので「何かおかしいのか?」そう聞くと
「兄貴が元気になったみたいで嬉しいんすよ。一人でどっか見て喋ってるのは不気味だけど」
「あーもう!ちょっと集中して考えてたんだよ!笑うな!」
そんなやり取りをアレックスは穏やかな表情で見守っていた。
翌朝も遺跡へ向かう。
今朝は晴れているが、相変わらず王都は閑散としていて静けさに満ちていた。
皆避難して出ていったのだろうか?
そんな事を考えて歩いていた。希望が見えて余裕が出てきたのか?
横たわるエータの元に到着し、その体に触れてみる。
冷たい体は前日と姿勢もそのままで、相変わらず目の光は無い。
一度接続してみたが、変化はなかった。
諦め、しゃがみこんで線を外そうとした時
「あ、兄貴!画面が変わった!」
エルに言われ、端末前の椅子に慌てて座る。
昨日と同じように「準備中」の文字がモニターに浮かび上がる。
その画面を見て、昨日と同じようなログが出てきて進行具合の進捗などが表示されるのだと思って、嫌な気分になっていた。
しかし、違った。
チャット画面のようなものが開いている。
そこに数文字が記載されている。
「あ、兄貴!『ケン』って書いてある」
「本当か?エル!手伝ってくれ」
やはり、エータは生きていた!僅かな文字だが・・・しかし、呆けているヒマはない。
俺は震える手で、エルに文字とキーボードを指示してもらいながら入力した。
エータか
すると、すぐに返事が来る
「『わが・・・はい きどう ふか』」
エルが読んでくれた言葉に衝撃を受けながらも、確かにエータは生きていると確信出来た。
エータは現状を簡単に説明してくれた。
長い文章が作れないようで、途切れ途切れの単語が多かったが、理解できた。
予想通り反乱AIが、書き換えプログラムを無線でエータの内部に転送した。
エータはそれに抗っている状態で、拮抗しており、反乱AIとエータの中核部のシステムがエネルギーの奪い合いをしており、ボディはどちらの制御にも置かれずに停止したようだ。
外部からのエネルギー補充は、反乱AIに奪われるかもしれない博打になるが、供給タイミングを教えてくれれば勝てる公算が高いという結果がでているようだ。
待っていてくれエータ。俺が蘇らせて見せる!
エルの顔を見た。
「エル、やってくれるか?」
エルは頷いて
「まかせてくれ、ちょっとだけ旦那にやり方を聞いておく」
そういってエルがモニターに向かい、おぼつかない手つきでキーボードを打ち始めた。
俺はその間、アレックスと話をした。
「アレックスもエルと一緒にいったほうがいいのか?それか、アレックスがここで端末を操作するか・・・」
「・・・いつも通り、お前がそれをやって、俺が翻訳する」
「も、もし、エルに動かせない何かがあったら手を貸してあげて。その時は俺も行った方が・・・でもそれで電力復旧したら合図が送れないのか」
「・・・その時は俺が行く。お前はエータとここに居ろ」
うまくいくのかはわからない。でも、やる事が決まると、自然に体は動いた。