動かないエータ
動かなくなったエータ。
ケンは試行錯誤するが・・・
俺は冷たい金属の床の上にへたり込んで、途方にくれていた。
エータがいなくなってしまったらどうしていいのかわからない。
アレックスとの約束。
エータを修理してアレックスを・・・
「・・・ごめんアレックス。俺がしっかり出来ないから・・・役に立たなくてごめん・・・」
俺は泣きながらアレックスに謝った。
アレックスは首を振り
「・・・お前のせいじゃない」
そう言ってくれたが
「アレックス、最初に『役に立たなければ殺す』って言ってたね。はは、殺されても仕方ないな」
「・・・お前は役に立っている。だから殺さん」
アレックスはいつも優しい。余計に涙が出てしまう。
「エルもごめん・・・俺のせいで、こんな事に巻き込んでしまって・・・」
エルも涙を浮かべて鼻を啜り
「ぐず・・・兄貴のせいじゃないっすよ・・・あっしにはわからないけど、本当に旦那は死んじまったんすかね?時間がたてばもどったりは?」
「うん・・・その可能性は・・・」
まてよ?前にエータは「反乱AIに乗っ取られたが取り返した」とか「今でも浸食範囲の縮小をしている」みたいな事は言っていたな。
一瞬肘が光ったのを俺は確かに見た。
俺は立ち上がり、エルとアレックスを見た。
「もう一度だけ、試したい」
そう告げて、エータに有線接続した。
しかし、変化はなかった。
「・・・明日、また来て試したい。アレックス、エル。付き合ってくれるか?」
そうして俺たちはエータを置いてローレン邸へ帰った。
ロルド老は俺たちを快く迎え入れてくれた。
街中で襲われた話しを一応耳に入れておくと
「バケモノ騒動から毎日そんな話しを聞きます。軍兵一部隊すら倒すヤツらがいるって噂です」
そう言っていたが、その連中はもういないかもしれない。
そう思ったが黙っていた。
「あの、ロルドさん。もしかしたら数日お世話になるかもしれませんが、いいですか?」
俺は思い切って、そう聞いてみたが、ロルド老は喜んで
「ええ、どうせこの屋敷にワシ一人じゃ持てあましてます。話し相手も欲しかったし、好きなように過ごしてください」
そういってくれた。申し訳ないが、今の王都内の宿よりここの方が安全だから甘えさせてもらおう。
夕食もごちそうになった。
「ワシはあまり料理が得意じゃないから味の方は期待しないでください」
そう言っていたが、塩気の強いスープがおいしく感じた。
「食材は大量に余っているのできにしないでくれ」
気さくにそう言ってくれた。
俺は何かじっとしていられなくて、馬の世話や部屋の掃除なども買って出ていた。
もしかしたらエータはまた動き出すかもしれない。
そんな希望はあるが、もうダメかもしれないと押しつぶされそうな不安もあった。
夜、ベッドでなかなか寝つけずにいると、エルが
「兄貴、諦めないで続けましょう」
そう声を掛けてくれたが、俺はエータがいない恐怖を感じて声を殺してしばらく泣いていた。
翌朝、俺たちは遺跡に向かった。
曇天の王都は静かで、まったく人に会わずに到着した。
エータは昨日と同じ姿のまま横たわっている。
触れると金属の冷たさ。顔に触れてこちらに向かせた。
目に光はない。
俺は不安に包まれたが、希望を捨てず「エータは復活する。やるんだ!」そう自分を奮い立たせた。
エータの脇に線を繋ぎ、モニターを眺める。
・・・
昨日と同じくなにも画面が変わる事はなかった。
呆然としていたが、画面に変化が起きた。
モニターには「準備中」の文字がでていた。
俺は「うまくいったのでは」と期待した。
何かのファイルかフォルダーかわからないアイコンが一つ作成された。
俺は藁にも縋る思いで、それを開く。
何か文字が羅列されたものだ。
ログか何かに見える。
エルとアレックスに翻訳してもらおうと見てもらう。
だが、二人とも見たこともない単語ばかりで、読めないと言う。
「なんか難しい言葉ばっかりなのか、綴りが間違っているのかわかんないっすけど」
エルは読める範囲の単語と、多分そうじゃないかという言葉を途切れ途切れながら教えてくれた。
「E・・・3・・・善・・・内容?プロなんとか・・・書き換え?改造?改なんとかっすかね?進行中?もうわかんないっす」
俺の全身に震えが走った。
以前の「装填」や「転送」。今、エルが読んでくれた内容。
反乱AIが、何かのプログラムやソースを「装填」してE-3に「転送」
そうしてエータの内部を改造か改善かわからないけど塗り替えている。
エータは抗って機能を停止させた。
そう考えると腑に落ちた。
辻褄があってしまう。
俺は自身の粗末な想像力なのに、すとんとそれが胸に落ちてしまった。
震える手で冷たいエータに触れる。
今は冷たくなって動かないエータ。
だが、次に目を覚ましたら、前のエータなのか?違うエータなのか?全く違う俺の知らないロボット・・・
そう考えると怖くて仕方がなかった。
全身が震える。
震えている俺をアレックスは抱き上げた。
「・・・戻ろう」
それだけいって俺を抱えたまま歩き出した。
俺は、どうしていいかわからず、ぼんやりしたまま運び出された。