王都地下遺跡
無事に王都に侵入したケンとアレックス。
地下にある遺跡を目指すが・・・
俺たちはローレン邸を後にして、貧民街へ向かった。
相変わらず灰色の空はしとしとと雨を降らせていた。
俺とアレックスはマントを巻きつけてフードを被り歩く。
貧民街に向かう途中の商業地区や住宅街も人が見当たらなかった。
フードを被った不審な人物は何人か見かけたが、特に襲われるような事もなかった。
しかし、貧民街に入り、ほどなく俺たちは囲まれていた。
狭い路地の前後に三人ずつ。全員フードを深く被り、マントで体を覆っている。
正面中央の男がフードを外し、腰から剣を抜いた。
「お前たち、南部の反乱者か?それとも貴族派閥か?いや王家の犬か?」
俺は何を言っているのかわからなかった。
それよりも、俺は武器も持っていないのに何故か落ち着いていた。
隣のアレックスを一度見て
「あー俺たちはどれも無関係だし、やめておいたほうがいいですよ」
そう忠告したのに、剣を抜いた男は
「南部訛りだな。やるぞ」
そう言って一斉に襲い掛かってきた。
俺の横で突風が吹いた。
風は敵陣の間を吹き抜け、剣を振るう音さえ聞こえなかった。
雨に濡れた血が路地を染める中、彼の赤い瞳が怪しく輝く。
きっと統率も取れていて、連携とかも出来たのだろう。
俺は何がどうなったのか、目で追えなかったけど、もうみんな倒れている。
アレックスは「丁度血を補給したかった」そうで、倒れた人たちの首筋を噛んでいます。
俺は恐怖はなかったけど、何か自分でも変わってしまったと感じた。
目の前で人が倒れている。
手が変な方向を向いている人もいるし、目を開けたままの人もいる。
それを見ても、あまり恐怖を感じなかった自分に恐怖した。
「忠告したのに・・・襲ってくるから悪いんだ・・・」
それは倒れた相手に言ったのか、自分自身に言い聞かせたのか?
「・・・行こう」
そう言われて俺たちは進んだ。
俺たちは貧民街で迷っていた。
たしかこの辺に・・・地面に毛布を引いて寝ている半裸の老人に見おぼえがあるんだけど・・・
「兄貴!こっちですぜ」
後ろから声を掛けられて、俺は飛び上がった。
「エル!脅かすなよ!」
「はは、ま、エータの旦那も待ってるし行きましょう」
そうしてエルに連れられて古井戸から地下に降りていった。
地下の洞窟を進むと、徐々に岩肌の影から鉄板が見え始めていた。
気が付くと、のっぺりとした鉄板に囲まれ、角がうっすらと光る遺跡の通路になっていた。
通路を進むたびに鉄板が冷たい光を帯びていく。壁に手を触れると、微かな振動が伝わってきた。それは機械の心臓が脈打っているかのようだった。
「ここでっせ。旦那、兄貴たちを連れてきましたぜ」
エルは自動ドアになれたようで、開くドアの前に立って、部屋の内外に声をかけていた。
「やはり迷っていたのかね?とにかく説明をするので入りたまえ」
部屋の中は前の兵器研究所と同じような、向かい合わせの二台の端末がテーブルの上にあり、椅子も二つあった。
部屋に入り、端末を操作するエータの後ろに皆で並ぶ。
「以前と同じように、ケンとアレックスにはここで端末の操作をしてもらう。ここではメイン電源と増幅装置を起動させてメインターミナルシステムに使用する動力を確保して、それを吾輩のエネルギー供給に流用する」
要は大きなエネルギーをエータに供給することで、エータの右腕のプラズマ砲にチャージして使用可能な状態に持っていくらしい。
「でも、エータは外部からエネルギーを補充しなくても、それを打ててたんじゃないの?」
俺はそう質問した。なんかおかしいと前から思っていたが聞く機会がなかった。
「吾輩自体は自前の融合炉で自身の活動エネルギーを補っている。しかし、自身が活発に活動することで内部計算機のエネルギーが不足してしまっている状態だ。この状態ではプラズマ砲はチャージできない。それと、内部の充電システムは経年劣化していて外部からのエネルギーの補充を必要としている」
それは充電電池がボロくなっていて、フル充電できないけど、外からのエネルギーを補給すればフル充電出来るってことなのか?ちょっとわからないです。
「と、とにかく大きなエネルギーが必要って事でここにきたんだね」
「そうだ。君にしては核心をつく合理的な回答だ」
「『君にしては』は余計だろ!」
そうして俺たちは和やかに準備をすすめた。
エータの予定通り、俺とアレックスは端末前でスタンバイしていた。
エルはエータに連れられて手伝いをしている。
しばらくすると、モニターになにかがポップアップした。
アレックスに読んでもらい、「装填準備を開始してよろしいですか?」らしいので「OK」を押して、数秒すると「準備完了、装填しますか?」と出たので「開始」を押した。
俺は「装填ってなんだ?」って思っていたけど、特に気にしていなかった。
前回もうまくいったし、大丈夫だろうと完全に油断していた。
画面にまたポップアップが出て「転送開始」という表示が出た。
電源なのに「装填」とか「転送」ってなんだろう?そう思っていたらドアが開いた。
「あ、兄貴!エ、エータの旦那が!」
息を切らせたエルがそう叫んでいる。
「ど、どうしたんだエル?エータに何かあったのか?」
俺はエータが「裏切った」のかと一瞬思い、エルが無傷か走り寄って確認した。
「あ、あっしはなんともない!と、とにかく兄貴が一緒に来てくれ!動かなくなったんだ!」
エルの必死の訴えを見ていて、だんだんと自分の指先が冷たくなっていく感じがした。
エルに連れられて、部屋に入り、中にある地面の扉をくぐり階段を下ると大きなモーターが半分埋まっているような部屋についた。
そのモーターのような物の前で、エータは操作の途中のような恰好で固まっていた。
「エータ!おい!フリーズしているのか?」
俺はそう声を掛け、体をゆすると、エータは倒れてしまった。
「エータ!嘘だろ、何とか言ってくれ!」
震える手でその頬に触れると、冷たい金属の感触が伝わる。胸の奥が凍りついたように感じた。
目の光は消えている。
俺は体は寒く感じているのに、全身から汗が出てくる。
「お、おい、エータ。そんな冗談やめろって前にもいっただろ!」
俺はどうしていいのかわからない。とりあえずエータに怒鳴った。
しかし反応はない。
「あ、兄貴!落ち着いてくれ!兄貴なら治せるだろ!?」
エルはすがるような目で俺を見上げている。
俺はしゃがみこんで、エータの顔を見る。
目は光が消えている。だが、肘の関節部分が一瞬緑に光ったのを見逃さなかった。
「エータは死んでいない。考えるんだ・・・。エル、これは何をしている途中だったんだ?」
「旦那は何かを起動?させるのにそこで操作をしていて、あっしに合図をしたらこっちのボタンを押せって言って、その最中に動かないから、おかしいと思って・・・」
エルは震えている。俺はエルの頭を撫でた。
「大丈夫だエル。エルのせいじゃない。きっと俺ならなんとかできるはずだ。だから手伝ってくれ」
さっきの端末で有線接続すれば何かわかるかもしれない。
そう思ってエータを運び込んだ。
アレックスに担がれたエータを端末のテーブルの横の床に寝かせた。
エルにも手伝ってもらってエータの片腕を上げて脇の下のプレートをスライドさせて端末の線を繋ぐ。
俺はそれからモニターを見る。
頼むから何か変化してくれ!そう願った。
・・・
・・・何も起きなかった。
・・・
こんな・・・こんな終わり方ないだろう・・・
エータ・・・本当にもう動かないのか?
俺は流れる涙も拭わず、再度接続したり、エータの姿勢を変えたりしていた。
どれくらいそんな事をしていたのか、わからなかった。
「兄貴・・・エータの旦那はもう・・・」
「エル!そんな事いうな!まだ、まだなおるはずだ!まだ・・・」
そんな俺をアレックスは突然抱きしめた。
「・・・ケン。お前はよくやった」
俺は大声を出して泣いた。