静かなる王都
王都に入る事に成功したケン達
しかし・・・
馬上の兵士について城門をくぐる。
相変わらずの壮大な景観が目の前に広がる。
大きな建物が立ち並び、石が隙間なく敷き詰められた広い道が続いているが、人がほとんど見当たらない。
前に目についた、円柱のオブジの頂に燃え盛る炎も、きらびやかな街灯も消えている。
雨が降っていて、まだ昼間だからか?
そう思ったが、多分違う理由だろうと思った。
遠くみえる背の高い尖塔があったはずなのに、その上の部分は砕かれたように失われている。
街の大通りを進んでいるのだが、やはり人がいない。
店も閉まっているのか人の気配もほとんどない。
騒がしい喧噪もなく、不気味な沈黙が支配していた。
「ローレン卿はバケモノ鷲が来た際には、陣頭指揮を取り、その迎撃に成功しました。しかし、怪我をしてしまったようで、養生の為に領地に戻ってしまわれた。私自身が見た訳ではないのですが・・・」
先導してくれている兵士は鎮痛な表情でそう教えてくれた。
そしてローレン邸の前に着くと
「もし・・・もし、ローレン卿が・・・閣下がお元気なら王都に戻ってくださるようにお伝えください。今の王都を統率できるのは閣下しかおりません。我々が不甲斐ないのですが・・・何卒、よろしくお伝えください」
そう言って去っていった。
ローレン邸は無事なようで、俺たちが着くとロルド老が出てきてくれた。
「アレクシウス様。ケン殿。よくお戻りで」
そう言って荷物を運び出した。
「家の者はワシしかいないのでご不便を掛けますが・・・」
そう言っているロルド老の荷物をアレックスは持ち
「・・・じいや、世話は不要だ。勝手にやるから休んでおけ」
アレックスの言い方は悪いけど、優しかった。
しかし、ロルド老も引かず
「そういう訳には参りません!」
そう言っていたので、俺は
「ロルドさん。そ、その、馬車をうまやに運ぶのを手伝ってください」
そういって和ませることに成功した。
でも、俺、馬車の操作できないけど大丈夫なのか?
結局三人がかりで馬車を運び、馬を外し、馬房に連れて行ったりしていた。
リビングに案内されてお茶を出された。
俺たちは座ってロルド老の話しを聞いた。
「あの日の明け方、バケモノが攻めてきたと兵士が来たのです」
丁度、王都に滞在していたローレン卿は、この屋敷で寝ていたらしい。
すぐに準備を整え、「王城へ行く」と兵士について行ってしまわれた。
しばらくすると、本当にバケモノが攻めてきていたらしく、王都は大騒ぎでした。
なんでも片目の大鷲が大暴れしていたようで、尖塔まで飛んだ大鷲に王城も危ないと。
その時に兵士を指揮していた坊ちゃんが、弓隊を率いて一斉射撃をしたら大鷲は一度空から落下したのですが、また飛び去ってしまったようです。
ここに戻られた坊ちゃんは、少し怪我をされていましたが、それは大鷲とは関係ない刀傷でした。幸い、軽傷で命に別条はありませんでしたが。
「じい、皆に給金を払え。そして家に帰らせろ。逃げる所がないなら我が領土に連れていけ」
坊ちゃんは帰宅早々そういうのです。
ワシは坊ちゃんの手当をして部屋に寝かせましたが、坊ちゃんは頭を抱えていました。
バケモノ騒動とはまた違う、何かの陰謀を感じたワシは手の届く所に剣を置きました。
その次の日に、兵士が王城への迎えに来ましたが、坊ちゃんは「怪我でいけん」と行きませんでした。
「じい、済まんが、その命、私にくれぬか」
坊ちゃんはワシに跪いてそういうのです。
ワシは「もう昔からこの命は坊ちゃんのものだ」と答えると
「そうか、ならば最後まで付き合ってくれ」
そう言われました。
そうして坊ちゃんを匿い、ワシも覚悟を決めた所に、また兵士が来ました。
「閣下にゴールアが来たと伝えてくれ」
そういうので、坊ちゃんに伝えると、すぐに通せと。
坊ちゃんとゴールア殿、ワシの三人で話し合い
「王都は危険だから信頼のおける物だけをおいて領地に戻る」
そう決まり、ゴールア殿と坊ちゃんは領地に行き、ワシは留守番を任されたのです。
「そうですか。ローレン卿も無事で、ゴーも一緒に王都を出れたんですね」
「ええ、手紙が来て、『じいやもこっちに帰ってこい』と書いてあったのですが、ワシの仕事はこの屋敷を守ることだと返事を書きました」
そう言って無邪気に笑っている。
実際の所、信頼できる人間に王都の情報も仕入れてほしいローレン卿の為に残っているのだろう。
「・・・俺たちは出る。馬車を取りにまた戻るが・・・ロルド、死ぬなよ」
アレックスにそう言われてビックリした顔をしたロルド老は、また笑顔になり
「アレクシウス様。そのような言葉をありがとうございます」
そう言って俺の方を見てウィンクして
「いい友人を持ちましたな」
嬉しそうに頷いていた。