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肩車は楽しいな

地底人の元から兵器研究所を目指すケン一向

向かう先には・・・

 翌朝早くに俺たちは出発することになった。

 長老以下総出で見送ってくれた。

 感謝を口々に伝え、俺たちは出発した。

「馬車まで先導する」とエミカはついてきてくれた。


 山道で俺は息も絶え絶えで会話が出来なかった。

 馬車を保持してくれていた地底人たちにお礼をいい、馬車に荷物を積む。

「エミカ。ありがとう。また村で」

 俺がそう言うと、エミカは

「ジンナもこれくらいなら許してくれるだろう」

 そういって俺に抱きついてきた。

「ケン。生きて帰るのだぞ!必ずだ!」

 耳元でそう力強く俺に言った。俺もエミカの背に手を回して

「ああ、エミカも無理しすぎないようにな。気を付けて」

 そうして俺たちはエミカに見送られて出発した。



 軍事兵器研究所の遺跡は近いと言えば近いらしいが、馬で行けない山間部にあるようだ。

 以前にエータが単独で発見し、内部の何かは排除済で、施錠もしているから安全らしい。

「とりあえず、近くの街に馬車を預けよう。その後なのだが、吾輩とアレックスが君とエルを担いで移動するのはどうかね?」

 い、いや、なんだか久しぶりに嫌な気分になってきたんですが。

「あ、あっしは構わないですよ。楽だし」

 ああ、エルはなんかエータに肩車されてものすごい速度で走って楽しそうだったな・・・

 っていうか余計な事いうなよエル!

「アレクシウスも異論はないな?」

「・・・ああ」

 馬車の御者台に座るアレックスは興味なさそうに返事をした。

 俺は嫌な予感が、もう回避不可能なモノなのだと確信した。

「さて、ケン。多数決で既に君の回答をきかずとも可決している。だが、安心するがよい。山間部では平野部のような加速はできない。君も実体験があるであろう」

 どうせ、俺がもう何をいっても無駄で決まっているのだろう。

 ま、まあ前にエータに担がれた崖のぼりはたしかに酔わなかった。

「え、ええと、早く安全に着くのはそれがいいってことだよな?」

「君の徒歩速度と身の安全を考えるなら、君が徒歩で移動する事に全くメリットはない」

 俺の乗り物酔いとか吐き気とかは計算外らしいです。

 エータの「安心・安全」を信じて、俺は同意してしまった。



「あはははは!コイツは楽ちんでいいやー」

「ちょ、ちょっとアレックス。そろそろ休憩・・・うっぷ」

「君の三半規管は日に日に弱っているのではないかね?」

「・・・」

 俺は嘔吐しそうになるのを我慢して岩を背に座らされた。

 山間部に着く前に街道を歩き、脇道に逸れてから俺とエルは担がれた。

 エルはエータに肩車され、俺はアレックスの肩に・・・

 平坦な未舗装路を十分程度走った所で、俺の体は既に悲鳴をあげていた。

「少し水を飲んで休憩したまえ。君もエルロットのように肩に座るのはどうかね?」

 俺は水をちびちびと飲みながらエータの話しを聞いていたが返事をしなかった。

 だが「姿勢が悪いから酔うのかも」と少し考え、恥ずかしいけど肩車してもらうことにした。


「あ、アレックス。ごめん・・・」

 俺はアレックスに肩車してもらい出発した。

 バランス感覚の問題か、手を放してはしゃいでいるエルみたいにいかない。

 ふらつく上半身を支える事ができず、俺はアレックスの髪の毛を掴んでいる。

 咄嗟に掴んでしまったが、アレックスは「・・・気にするな」と言ってくれた。

 長い赤い髪の毛はサラサラだった・・・申し訳ない。

 肩車だと案外こみあげるような気分の悪さが無く快適だった。

 やっぱり進行方向を向いているのがいいのかもしれない。


 体感で馬より早い速度で移動する。

 流れる景色を見ると怖かったが、顔に当たる風は心地よかった。

「この先は木々が多くなる。背の高いケンは頭上に注意だ。小さいエルロットには不要の心配だな」

「旦那!一応気にしてるんすから、チビとか言わないでくれ!」

「実際小さいではないか?こんな時は小さいほうが利便性が高いと思うがどうかね?」

 俺はアレックスにしがみつくのに必死だけど、エルとエータは余裕で会話している。

 しかも、なにか楽しそうだ。悔しいけど、やっぱり俺はお荷物だな・・・

 ベチッ

 そんな事を考えていたら、頭上の木から垂れ下がったつる草が顔に当たる。

「ケン。吾輩は忠告したのだが聞いていたのかね?」

「兄貴!草だったからよかったけど、木の枝だったらやばいっすよ!」

 そう言われ、俺は気持ちを前方に集中した。

 でも、どうやって避けたらいいんだ?


 しばらく薄暗い森の中を進み、段々と坂道を昇るような感覚になった。

 アレックスとエータの速度は鈍らずに進んでいる。

 不意にパッと視界が開けた。

 目の前に広がる景色は、広大な荒野に岩山がそびえ立つ。

 草木の背は低く、岩の隙間から小さな緑の目が覗いている。

 空は広く、真っ青な色が視界いっぱいに広がり、太陽の光が鋭く降り注いでいる。その光に照らされた岩の表面は、時折輝き、まるで大地が燃えているかのようにも見える。

「少し休憩しよう。今後の計画を説明する」

 そういって俺はアレックスから降りた。

 顔や体についたつる草や蜘蛛の巣を払い、岩に腰かけた。


 俺とエルとアレックスは水を飲みながらエータの説明を聞いた。

 アレックスの上で無駄な力が入っていたのだろう。全身が軋むような感覚があり、体が疲れていた。

 しかし、エータはもちろん、アレックスもエルも疲れた様子はまったくなかった。

 眼前に広がる岩山の中腹に遺跡の入口があるようだ。

 エータは岩山を指さして

「あの中腹に遺跡への入口がある。そこから進入する」


 風が吹くたびに、乾いた砂が舞い上がり、目の前の景色が一瞬のうちに霞んで消える。

 険しい断崖絶壁が、近付く者を阻んでいるように見える。

 俺はゴクリと唾を飲み込んだ。絶対に一人じゃ登れない。

「吾輩は右腕が復旧したが、両手両足を使用し登らなければならない。アレックスも同様であろう。よって、ケンとエルロットは落下しないようにしっかりとつかまっていてくれたまえ」

 俺は他人事のように聞いていて、あまり理解できなかった。いや、理解したくなかったのかもしれない。

 その後もエータは内部に入ってからメインの電源の復旧や移動方法などを説明してくれたが、頭には入ってこなかった。



 下を見ると、地面がかすんで見える。

 時折吹く強風で、アレックスの体すら揺さぶられる。

 俺はさっきから視界が白黒と明滅しているように見えているが、必死にアレックスの体にしがみついている。

 だが、思考は「こんな所から落ちたら・・・」そんな事ばかりを考えていた。

 上を見上げても断崖絶壁だが、岩に張り付いてのぼるエータと、その背にしがみつくエルが見える。

 エルは俺が見ているのに気付き、片手を放して手を振って

「もう半分は過ぎたから後少しっすよ」

 笑顔でそう言った。エルはやっぱりすごいヤツだよ。

 しかし、古代の人類はなんでこんな所にそんな設備を作ったんだ?

 いや、元々見つかりにくい場所に作った秘密の施設なのだろう。

 そこに自然の浸食で・・・

 そんな事を考えて、意識を散らしていたが、ずっと「ここで落ちて死ぬかもしれない」と言うのが頭から離れてくれなかった。

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