地底人との会談 再び
エータを地底人に託して待っているケン達
そして、ついにエータが・・・
そうして三日立ち、昼食を終え部屋に戻ると、ドアがノックされる。
地底人に案内されて部屋に入ってきたのはエータだった。
右腕がある・・・そして右腕に装着された銃のような部品もついている。
「やあ、待たせたね。吾輩は帰ってきた」
エータは光を反射する右手を胸の前に上げて拳を握りしめた。
いつかその拳が俺たちに向くのではないか・・・
その姿に俺は不安を隠せなかった。
エータは俺たちに席に着くように言い、説明を始めた。
「右腕の機能は完全に修復できた。主砲であるプラズマ砲も外観的には復元出来たが機能はしていない。さすがに内部構造的な部分は地底人でも修復は不可能であろう」
そう言ってテーブルの上に手を置いて俺たちに見せた。
「内部の配線が見えている部分にも保護の板を加工して貰っている。この部分は・・・」
エータはこまごまとした部分も解説してくれていたが、もう俺にはわからなかった。
しかし、地底人はかなり細部まで復元してくれたようだ。驚くべき技術力だ。
「次の目的地は主砲の修復の為に、兵器開発局へ赴く」
そう決まり、俺は部屋に訪れたエミカにもそう伝えた。
「そうか、私は一緒に行くことは出来ない。一族の者達を先導して旅立たねばならん」
しかし、エミカは笑ったような表情をしていた。
「私も先導して、ジンナの村に移住する予定だ。ジンナと共に君の帰りを待つ。無事に帰ってくるのだぞ」
そうして忙しそうに部屋を出ていった。
「長老たちには私から伝えておこう。今夜は宴になるだろうから出発は明日以降で頼む」
そう言い残して。
その夜はエミカの言った通り、長老や首脳陣と思われる人たちとの会食になった。
地底人の席についている人が八人ほどいる。
俺達が座る前に椅子を引いて座らせてくれた。
その間、地底人の首脳たちは席を立ち、俺たち全員が席に着くのを待っていた。
当たり前のように椅子に座らないエータのせいで、重い空気と沈黙が訪れた。
「お、おいエータ!とりあえず座れ!」
俺がそう言うと
「吾輩に着座など不要だが、君の命令として従おう」
沈黙の中で「やはり救世主殿はあのエータ殿を従えているのだ」的な発言が聞こえてきた。
エータ・・・いつも余計な事を・・・
そうして食事会が始まった。
当たり前のように全員にワインが注がれる。
「救世主様にはいくら感謝しても足りない。エータ殿の修復には全力を尽くしましたが、何かあればいつでもお言いつけください。ここも我が家のように・・・」
「ごほん、ちょ、長老。とにかく乾杯を」
「ああ、では我らの団結と繁栄に!乾杯!」
長老の長い感謝の挨拶を、隣の席の地底人が注意して乾杯をした。
おいしい食事とワインで俺もいい気分になってきていた。
「明日に旅立つのですね。本当にまた戻ってきてください。救世主様、いやケン殿とはもっと色々なお話しをしたいと、個人的にも思っているのです」
隣に座る地底人がそういってワインを注いでくれる。
しかし、俺には初対面なのか、誰なのか見分けがつかなかった。
愛想笑いをしながら「は、はい」と返事をしていた。
少し酔っぱらった俺は「これから子孫がたくさん増えたらいいですね」と適当に言った。
「我々が生きているクローン生成器を発見できればすぐにでも増やせるのだがね」
隣に座るエータがそう言うと、会場は沈黙した。
俺は「クローン」と言う単語をすぐ理解したが、周りはそうではない。
「え、エータ殿。それはどのような・・・」
地底人側の首脳がすぐに食いついた。
「遺伝的に同一の細胞を核移植して無性生殖により生み出す技術だ。卵細胞や代理の母体か培養装置などがあれば理論的には・・・」
「や、やめるんだエータ!」
俺は途中で止めようとしていたが、「もしかして、既に俺たちの存在が地底人に何か影響を及ぼしているのかもしれない」と考えてしまっていた。
地底人たちは内容をあまり理解できていないようで、口を半開きにしてエータを見ている人もいる。
この世界に倫理的な問題なんて無いのかもしれない。
しかし、豚人や地底人も、おそらく過去の人類がそうやって作ってきたはずだ。
それに頼ってしまうと、俺たちも過去の人類と同じ過ちを冒すことになる。
「あ、あの、そのやり方があるにはあるけど、自然の摂理に逆らったやり方なんです・・・」
俺は知識もないし、うまく言えない。
「だ、だから、俺はそれに反対です。その機械があるのか、動くのかもわかりませんが」
全然言いたい事も言えなかったが、とりあえず反対と言う事はできた。
地底人たちはお互い顔を見合わせていたが、エータが
「ケンがそう言うので、この話しは忘れてくれ。すまなかった」
そう言っていた。エータが「すまなかった」??
「わかりました。この話しは聞かなかったとします。皆も他言無用」
おそらく理解してはいないだろうけど、勤勉な地底人は実物を見ればいつか実用できる。
俺はそう思っていた。
そうして会食会は終わり、部屋に戻った。
俺はベッドに腰をかけるとエータが正面に立った。
「君の意見を先に聞いておくべきであったな。画期的な方法ではあるが、君の価値観では受け入れられないのだな」
そう言うエータの姿は怒られる犬が申し訳なさそうな顔をしているように見えた。
「いや、エータはそれがいい方法だと思って言ったんだろ?それはもう仕方ないけど・・・」
俺はさっきの会食会で、心の中で感じた事を言おうかどうしようか悩んでいた。
それは「エータや俺はこの世界にいないほうが良い」といったものだった。
どんな技術にしても、この世界に現存していないものを享受してしまうのはよくないように思う。
エータの知識や技術は、ある特定の種族が独占してしまえば世界を変えてしまったり、征服もできるかもしれない。
俺の知識も大した事はないけど、この世界にはないものが多いし。
「エータ。今のこの時代にはエータの持っている知識や技術は提供しないほうがいい。俺やエータが持っている知識は役には立つのかもしれないけど・・・」
そこまで言いかけて、次の言葉が出なかった。
しかし、エータは理解しているようで
「以前、君には何度も言ったが、吾輩やアレクシウスは滅んだほうが良い。古きが消えるは自然の摂理だ」
確かにエータは前からそんなような事を言っていた。
俺ははじめて、その意味が理解できたような気がした。
「それは『俺』もかな・・・」
そう思いながら夜はふけていく。
眠れぬ夜にケンは「そういえば、エータは何か思っていたのと違ったな」などと考えていたら眠っていた。