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生殺与奪

エータから衝撃の事実を聞いたケン達。

エータを信用したいが・・・

 エータは俺たちの元に合流した。

 俺の知っているエータが帰ってきたのかは、少し怪しい所だが。

 また一緒に行動することになり、出発の準備をしているとエルも戻ってきた。


 無人の村の宿で食事をとりながら、ここを発つ前に、今後の予定を話し合う。

 俺たちは当初、王都に向かいエータと合流する予定だった。

 その後、エミカの一族の元に行くつもりだったのだが、エータが合流した今、王都に行く要件はない。ないのだが・・・

「エータ。グリフィンはどうなったんだ?王都にいるのか?」

「音源発生装置を王都内に設置してきている。装置の破損か大鷲の機動力に障害がでない限りは王都に到着しているであろう」

「ど、どうしようか?王都も気になるけど、危険そうだし・・・避けてエミカの一族の元に向かったほうがいいかな?」

 皆頷いていたが、ゴーだけは神妙な顔をしている。

「ゴー。王都が気になるのか?」

「ええ、可能なら近くまで行ってもらえますか?ローレン卿の安否も気になりますし」

 そうして俺たちは王都方面へ向かうことになった。



 ゴーとエミカが御者台に乗り、残りは荷台の座席に座った。

 アレックスはすぐに目を閉じて、エルも既にウトウトしていた。まあ深夜から起きていたし。

 馬車が出て、揺れが心地よく俺も眠気に襲われていたんだけど。

 エータは俺の隣に座っていた。

「君にだけは説明しておいたほうがいいだろう」

 俺はまた、反人類AIの話しかと思って身構えたが、今後の計画だった。

「腕の修復が済んでもエネルギーをチャージするのは王都地下にあるメインターミナルシステムの主電源装置からしか供給は不可能だ。現時点で敬遠しても、将来的には王都を再訪する必要がある」

 だ、そうです。

 俺は王都の状況も気になるし、エータの行動も気になるし。

 そもそもエータのこのハイテクボディを、この世界の技術で復元できるのかは、ずっと気にはなっていた。

 それらを考えていたら、眠気が遠ざかっていっていた。


 そんな俺にエータはグリフィン、正確にはキメラ計画についても教えてくれた。

 なんとなくそんなような感じはしていたのだが、グリフィンはかつての人類が生物兵器として、いろんな生物の遺伝子を合わせ、大型化した結果だそうだ。

 狂暴化が酷く、人の命令など聞かない為に実戦投入の記録も僅かしかないらしい。

「再生機能を有していないので、いずれはその身体は崩壊するであろう。繁殖能力も無く、寿命も短い。強引に制作した弊害だ」

 キメラ研究所も一部の設備が生き残っているようで、エータは「君の要望があれば身体の修復次第一掃する」と言っていた。

 豚人もグリフィンも人間に作り出され、いいように利用されて少しかわいそうだと思えてきた。

 でも、その生殺与奪の権は俺にあるのか?

 いるだけで人に害を成す存在なのは間違いないんだけど・・・

 そう悩んでいる俺に、エータはさらなる情報を吹き込み、完全に目が覚めた。


「アレクシウスやエミカ、ジンナといった異人の生誕工程の知識もあるのだが」

「ちょ、ちょっと待ってくれ」

 俺は立ち上がりそうになるのを抑えて、一度深呼吸した。

 息が荒くなっている。

「エータ。それは本人たちが知りたいと言わない限り、言わないでくれ」

 向かいに座るアレックスの片目が開いてちらりと俺を見た。

「わかった。やはり君はそう言うのだな」

 エータは何か嬉しそうに見えた。

 俺はものすごい疲労感に襲われ、うなだれた。



 気が付くと、俺は眠ってしまっていたようだ。

 あまり速度を出していない馬車はゴトゴトと心地よい揺れ方をしていた。

 アレックスは相変わらず座って目を閉じており、エルはアレックスに寄りかかって眠っている。

「起きたようだね。ゴールアが先ほど、少し休憩するかと尋ねていた」

 俺は寝ぼけていたが、ゴーとエミカは寝ずに御者をしてくれていたのだった。

 前方の幌を開けて

「ゴー、エミカ。ごめん寝てた。どこか止められそうな所で休憩しよう」

 そうして馬車は街道の脇にとまった。

 道幅も十分にあり、整備された街道。もう王都の近くまで来ているようだ。



 食事をし、馬たちにも水を飲ませて草を食ませて休憩していた。

 それほどの時間滞在していた訳ではないが、兵装の早馬が三度通り過ぎた。

 やはり、王都で何かあったのは間違いない。

 心配そうに見つめるゴーに、俺は掛ける言葉を探していた。

 ローレン卿や、軍部の裏切者や、王都の知り合いが心配なのだろう。

 背中を刺され、倒れていたゴーの姿が脳裏に浮かぶ。

「行ってあげてくれ」とも「行くな」とも言えなかった。

 そんな俺の背後から声がした。

「・・・セバスチャンを助けてあげてくれ」

 振り向くと、アレックスがゴーにそう言っていた。

 ゴーは「しかし・・・」と悩んでいるようだった。

「ゴー。自分の心に聞いてくれ。後悔のないように」

 俺も悩んだが、ゴーにそう告げると表情を引き締めたゴーは

「ケン。私は王都に行く。エータ殿、王都に来たら私を探してください」


 そうして王都付近まで向かうと、数人の兵士を見掛けた。

「彼らと合流します。ケン、気を付けて。皆さん、ケンをお願いします」

「ああ、無理すると思うけど、無理しないでくれ。ゴー、死ぬなよ」

 俺とゴーは抱き合い、別行動をすることになった。

 馬車の中で「これでよかったのか」と思っていたが、ゴーの意志を尊重しようと思った。



 俺たちは王都を迂回し、大きな街を避け、南のエミカがいる洞窟の集落に向かった。

 馬車の御者はエミカとアレックスが交代で行ってくれていた。

 エミカの一族のいる集落には馬車で直接行けない。

 前回はゴーが留守番を買って出てくれたが、今回はどうしようかと悩んでいたが

「一族の者に手配する。私が呼んでくるので、しばらく待機していてくれ」

「それならば、吾輩が単独で先行しよう」

 エータに単独行動させるのは不安だったが、それが合理的なのは間違いなかった。


 俺の不安を他所に、前回の馬車を停泊させた場所に行くとエータと地底人の数人が待機していた。

「予定通りだな。では向かうか」

 馬車を地底人に任せて、俺たちは徒歩で洞窟に向かった。


 途中でゴーの離脱はあったが、何も無く順調に進んでいる。

 逆に順調すぎるのが、俺は何か不安だった。この先に何か問題があるのではないか?

 そう思えてならなかった。

「兄貴!洞窟についたら、風呂に行きましょう!」

 エルは無邪気にそう声をかけてきた。

 エルなりに俺に気を使ったのかもしれない。

「ああ、でも先に色々と報告をしないとだと思うよ」

「そんなもんエミカの姉さんに任せておけば大丈夫っすよ。ね、姉さん?」

「ああ、だがケンは我らの救世主として奉らねばならん」

 なんだか、よくわからない方向に話しが進みだしたから俺はスルーしておいた。

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