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エータ、エータなのか?

再び、王都を目指し旅立ったケン達。

そこには・・・

 街道を進み王都を目指す。

 道中で人がまったくいない村があった。

 僅かな争いの後と、新しい血痕。家の壁にある大きな爪でひっかいたような跡。

 たった一匹のモンスターの出現で、村を捨てて逃げたのだろう。

 俺たちはその村の宿のカウンターにお金を置いて休ませてもらった。


 その夜、誰もいないはずの村に一人の訪問者が現れた。

 宿のベッドで寝ていると、突然エルが「わー」と大声を上げて飛び起きた。

 俺たちも飛び起きて身構える。

 しかし、寝ぼけている俺にエルは「エータの旦那が来た」と言った。

 ドアを開けて部屋に入ってきたのは本当にエータだった。


「な、なんで?エルが呼んだのか?」

 俺の第一声はそんな感じだった。寝起きなのもあるが、まったく事態が理解できなかった。

「やあ諸君。元気そうでなによりだ」

 エータはいつも通りといった感じで手を上げて挨拶をする。

「エータ?本当にエータなのか?」

 驚く俺の問いにたいしてエータは

「君は吾輩以外に稼働している機体を見たのかね?それならどこでみたのか教えてくれたまえ」

 ああ、この感じは間違いなく本物だ。

「でも、なんでこんな夜中に来るんだよ!朝まで待ってくれてもよかっただろ!」

「そうかね?では就寝したまえ。また起床したら話し合おう」

 もう目が覚めてしまって寝れません。

 でも、この感じが久しぶりで嬉しかったのだが・・・


 次のエータの発言で俺たちは氷ついた。

「就寝しないのならば、状況を説明しよう。大鷲は吾輩が誘導して王都にけしかけた」

「は?」

 皆緊張して起きた。

 エータを見て弛緩した気分で表情も緩んでいたのだが。

 俺も半笑いのまま固まった。コイツは何を言っているんだ?

 俺は息をするのも忘れて固まっていたが、怒りがこみあげてきた。

「エータ!夜中に起こしてそんな冗談を言いに来たのか?」

 エータは信頼できる。俺はエータを信じたい。そんな思いがこみあげてきたが

「君は吾輩の冗談を聞いたことがあるのかね?順を追って説明するから落ちつきたまえ」

 俺はそう言われたが、王都の美しい街並みがグリフィンにめちゃくちゃにされている想像をしてしまい、落ち着かなかった。


 俺たちはベッドや椅子に腰かけてエータの話しを聞いていた。

「吾輩は王都にて単独での採掘を達成した。そこでメインターミナルシステムと繋がる端末の復旧に成功した」

 エータはメインターミナルシステムを復旧させるべく、補助電源を復旧させて生きている端末から情報を得ていた。しかし、アクセス制限や未稼働の施設内にある情報は得ることができなかった。


「そこで吾輩は有線接続を試みた。強制的にシステムとリンクさせることにより、権限を得て制限を解除させようとした。管理者権限を手に入れ、アクセス制限は無効化することには成功したのだが、その結果、反人類AIに浸食されてしまった」

 俺は目の前が真っ暗になった。

 アレックスやゴー・エミカ・エルもこの話しを聞いているが、理解していないだろう。

 そうだ、エータは俺に話しているのだ。

 以前見た過去の戦争の映像、エータの兄弟機が行った虐殺・・・

 それがまた、この世界で起きてしまうのか。

「そ、それでエータは俺を・・・俺たちを殺しにきたのか?」

 俺は少し震える声でそう問いただした。

 アレックス達は少し身構えたようだ。

「安心したまえ。現在は主導権は吾輩が握っている」

 ・・・


 その後のエータは話しを続けた。

 反乱AIに体内を進入されたエータは、思考回路の保護には成功したが、それ以外の制御を奪われてしまった。

 その結果、人類を排除するため新たに得たグリフィンの情報を頼りに、誘導する周波数の音波を王都から発信した。

 その後、豚人の誘導を行う為に豚人の発生地点を目指し、移動している最中にエータは自身の制御奪還に成功。

 その時点で俺たちが比較的近くにいることを検知して、夜間ながら訪れた。

「反乱AIから制御を取り返したが、完全に排除することは不可能だ。未知のコードが残り、重要機関とリンクしてしまっている」

 俺は一度、ゴクリと唾を飲み込んだ。

「今のエータは俺たちを害するつもりはないんだな?」

「ああ、その点に関しては信用してくれとしか言えないがね」

 俺はとりあえずエータを信用することにした。完全に信用はしていないが・・・

「そういえば、さっきエータは『豚人の発生地点』と言わなかったか?」

「いかにも。豚人の生産拠点に赴き、誘導する予定であった」

 生産拠点・・・俺は嫌な気分になったが、その内容が気になってしまった。


 俺たちはテーブルを囲み席についた。

 エミカは気を聞かせて紅茶を入れてくれた。

「あ、あれ?エル?エルはどこだ?」

 俺はその時にエルがいないことに気付いた。

「ああ、エルロットなら話しの途中で部屋を出ていった。彼は危険察知の能力が高いから一時的に退避したのだろう。そのうち戻るはずだ」

 エルが何かを察して逃げたのは間違いない。嫌な汗が背中をつたう。


「豚人は過去の人類の制作物だ。はじめの目的は生きた予備の臓器袋であった。病気や怪我の保障だ。そのうち人体実験や投薬試験にも使用され、加工された肉は軍人の糧食にも使用された」

 はじめは過去の人類の残酷さに腹が立ったが、徐々に吐き気を催していた。

 しかし、エータは淡々と話しを続けていた。

 その豚人の製造拠点が活性化して、一気に数を増やしここ最近の襲撃になっているようだ。

 反乱AIの影響も多大に受けているとのこと。

 その活性化の原因は、俺の転送時の衝撃・・・

「もちろん君には一切の責任はない。吾輩とアレクシウスが要因だ。君は気にするなと言っても気になってしまう。そんな人間だ」

 俺がこの世界に来たせいで、たくさんの豚人が生まれて、人間を殺して豚人も死んでいく。

 不可抗力だったとしても、俺の気分はじわじわと水の底に沈んでいくようだ。


 エータはその後「しかし吾輩の右腕と主砲が完治すれば一掃できる」と言って無い右腕を構えた。

 俺の沈んでいる気持ちは、疑念の渦に飲まれていく。

 本当にそれを修復していいのか?それが俺たちや人類に向く事はないのか?

 完全に修復したエータがアレックスを滅した後に、誰がエータを止められる?

 しかし・・・

 いつも俺を助けてくれたエータ。

 ちょっと合理的すぎるけど、導いてくれた。

 そんなエータを俺は友達だと思っていた。

 不意に目元が潤む。

「今のエータは前のエータとは違うのか?俺の『友達』のエータはいなくなってしまったのか?」

「君の問いに対する答えを吾輩は持ち合わせていない。それを決めるのは君自身だ。事実、吾輩は浸食の影響を受けている。しかし・・・」

 言い淀むエータを俺は涙で濡れた目で見つめた。

「吾輩はな、ケン。君を保護し補佐する為に一部のプログラムを改編したことで、反乱AIの鎮圧に成功した。機会があれば、それらの内部データを君には開示しよう」

 正直に言えば、まだ疑っていた。

 でも、俺はエータを信じたかった。

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