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グリフィン討伐

ケン視点に戻ります

放棄された王国軍の砦から物資の運搬作業を続けるケン達。

グリフィンの脅威は去っていない・・・

 俺たちは村の防衛目的も兼ねて砦からの物資運搬を続けていた。

 ユリとエルの索敵能力は広範囲で、僅かな豚人や野生動物なども目視できない距離から探知していた。

 三人程度の豚人が接近してきた事もあったが、アレックスの敵ではなかった。

 ユリやエミカが身構えた時には既に立っている豚人はいない状態で、俺は乾いた笑いをあげるしかなかった。


 グリフィンは恐ろしかったが、ジンナの村が襲われるなら俺たちが村の外で迎撃できれば・・・なんて思ってはいたけど、結局の所はアレックス頼みだ。

 大鷲を見かけてから三日ほど砦と村の往復をしていたけど、豚人が三人襲ってきた以外はまったくなにもなかった。

 遠くでトンビか何かが

 ピーヒョロロロロ~

 そんな鳴き声を上げて旋回している姿に、震える俺をみんなが笑っていたくらいだ。

 しかし、そんな穏やかな日はやはり続かない。


 砦に向かっている途中でユリもエルも異変に気付いていた。

「ケン、もう見えると思うが煙が上がっている。おそらく戦いだ」

 かなり遠い場所で、数本の白い煙が青空に伸びている。

「べ、別に戦場に行く必要はないだろ?砦で荷物を積んで帰ろう。と、砦は大丈夫だよな?」

「わからない。しかし、煙から砦まではかなり距離がある。さすがにグリフィンってヤツは煙を吐いて飛んでこないだろ?」

「ケンの兄貴、いや村長!村長がいっつもそんなにビビってちゃダメですぜ」

 俺は一瞬むっとしたが、エルもユリも軽口を叩けるくらいだから大丈夫なんだろう。

「よ、よし!じゃあ砦まで行って荷物を積んでさっさと帰ろう。あ、警戒はお願いします!」

 そんな俺の行動や言動に皆穏やかに笑っていた。

 この時の俺は、この先に何が待ち受けているのか知らない。


 砦に着くと、ユリは手を上げて馬車を制止させた。

 エルも口元に指を一本立てて「静かに」とジェスチャーしている。

 俺は弛緩していた気持ちがイヤでも引き締まる。

 熱くないのに、顔から汗が出てくる。

「今はもういないようだが、誰か俺たち以外のものが来ていた」

 ユリは地面の足跡や馬車の轍を指さしている。

 エルは警戒して建物を覗いてまわっている。

「おそらく兵士じゃないっすかね?古い足跡と新しい足跡の靴がおんなじだ」

 俺には全くわからないが、ユリとエルは兵士が来ていたと確信しているようだった。

 よく考えなくても、俺たちは兵士の持ち物を盗んでいる。

 今はいなくなったとはいえ、元々は兵士、国の持ち物のはずだ。

 火事場泥棒という言葉が脳裏によぎった。

 以前にゴーから「窃盗罪でも複数回なら腕を切断する」みたいな話しを聞いていた。

 俺は一気に恐怖して身震いしながら

「と、と、と、と、に、に、とにかく逃げよう!」

「はは、兄貴またビビりまくってる。あ、もう共犯っていうか村長なんだから主犯は兄貴っすよ」

 エルは冗談だか本気だかわからない事を言っていたが、俺はまったく笑えなかった。

「み、見つかる前に帰ろう!」

 そんなやり取りをしている間もアレックスとエミカは馬車に荷物を積んでいた。


 周囲に人はいないと言われ、誰にも泥棒が見つかっていないという安心から俺は落ち着いてきていた。

「やっぱり泥棒はよくないよな・・・でもどうしたら・・・」

 砦のど真ん中で、馬車に寄りかかってそうつぶやいた。


 直後、ガシャンという音が響き、俺は飛び上がった。

 アレックスとエミカが運んでいた荷物を落としたようだ。

 二人とも血相を変えて俺に向かって走ってくる。

 俺はその二人を見ただけで、全力疾走しているように息が苦しくなった。

 心臓の鼓動が一気に早くなり、血が通いすぎているのか視界が白くなる。

 エルは指笛を吹いている。挑発しているのか?

「バケモノ!こっちだ!」

 見えないがユリの叫ぶ声がする。


 俺は息苦しさを感じながらも、冷静に周囲を見まわした。

 視界の一点に黒い点が見えた。鳥だ。

 遠くに鳥が飛んでいる。こちらに向かって一直線に飛んでいる。

 既にかなりの大きさに見えるが、まだ到達していない。


 ピーーーー


 鳴き声はどんどん大きくなる。

「ケン!こっちへ」

 アレックスとエミカに手を引かれ、建物の影に押し込まれる。

 砂埃が風で舞っている。

「・・・ケンを守れ。今日こそ殺す」

「アレックス!気を付けて」

 俺と無言で頷いているエミカに目もくれず、アレックスは落ちている槍を拾い、グリフィンに投げつける。

 クチバシで巧みにはじいたグリフィンは燃えるような瞳でアレックスを睨んでいる。

 後ろ足で立ち上がり、かぎ爪を振り回しアレックスを襲う。

 アレックスは拾った鉄の兜を手に持ってはじいている。

 エルとユリも石やレンガを投げつけている。

 いらだったグリフィンは大きく翼を広げてキーと鳴いた。

 その隙を見逃さずアレックスは懐に入り、持っている鉄兜で足を殴打した。

 ゴワンっという鈍い音が周囲に響く。


 クワーーーーーー


 鼓膜に突き刺さるような大音量の高音の悲鳴。

 俺は両耳を押さえながらもアレックスとグリフィンから目を離さなかった。

 アレックスはさらに追撃を加えようとしたが、グリフィンは飛んでしまった。

 飛び去る後ろ姿に弾丸ライナーで投げられた鉄兜は当たらなかった。

「・・・クソッ。追うか?」

 アレックスは悪態を突きながら俺の指示を待っている。

 俺は怖いのも痛いのも殺されるのもイヤだ。

 ジンナや村の子どもたちが、この怪物に踏み潰される光景を想像するだけで、足がすくむような恐怖が沸き上がった。それでも――

 逃げてばかりじゃ何も解決しない。

 なら、なら!

「頼むアレックス!倒そう!」

 俺が言い終わる前にアレックスは走り出していた。


 俺とエミカは馬車に乗り、ついていく。

 アレックスとユリは見失ってしまったが、エルが前を走って誘導してくれた。

「あの鳥、煙の方に向かってますぜ」

 煙に近付いていくと、怒鳴り声や悲鳴が聞こえてきた。

 同時に金属音や打撃音も響いてくる。


 グリフィンが砂埃を巻き上げながら翼をはためかせている姿が見える。

 遠くの兵士たちが次々と倒れていくのを見た。

 茶色い革鎧の兵士も、槍を持った豚人も差別なく蹂躙されていた。

 背中を向けて逃げる集団にあっという間に追いつくと、その背中をかぎ爪で引き裂き、踏み敷いてクチバシでついばんでいる。

「弓隊ー!構えー!」

 兵士の弓部隊10人程が一斉に射撃するが「放て!」の声に呼応するように上空へ飛んで躱す。

 弓隊は無防備になった所に豚人が突撃して槍で刺し貫いていく。そこへ急降下してきたグリフィンが突貫して、最終的に立っているのはグリフィンだけだった。

 少し離れた所で馬車を止めた俺たちは、呆然とその光景を見守っていた。


 キエーーーー


 勝ち誇ったように首を上げ、歓喜の雄たけびを上げるグリフィン。

 その体に一本の線が突き刺さった。

 アレックスが投函した槍だ。

 クワーーという悲鳴を上げてバランスを崩しているが倒れていない。

 胴体に槍が刺さったまま、飛び立とうとしている所に再度、高速の槍が飛ぶ。

 広げた翼を貫通した槍は、勢いそのままどこかへ飛び去る。

 グリフィンはアレックスを発見して低空飛行で襲い掛かる。

 アレックスは両手剣を担いでグリフィンに向かい疾走する。

 ガチン

 アレックスの振った剣とグリフィンのクチバシが当り、火花が散った。

 後ろ足で立ち、かぎ爪を振り回すグリフィンと、アレックスの両手剣がものすごい速度で衝突している。グリフィンの体もアレックスの体も細かい傷が増えていく。

 グリフィンの血と羽、アレックスの切れた衣服と血が舞い散っている。

 赤と白で彩られた空間で踊っているようだと錯覚してしまう光景だった。

 周りで倒れている兵士や豚人が視界に入ってこなかった。


 永遠に続くと思われる舞踏は、背後から投函された槍によって突如終わる。

 後ろ足に槍が刺さると、グリフィンはカクンとした動きをした。

 その時に、かぎ爪の一本が宙を舞った。

 アレックスはそのまま胴体へ攻撃しようとしたが、グリフィンは無理やり飛翔して躱した。

 しかし、アレックスは手に持った大剣を投げた。

 回転しながら飛来する大剣は、翼の根本当りにグリフィンは落下して横向きに地に落ちた。


 倒れても暴れているグリフィンだが、横向きの頭の上にはいつのまにかアレックスがいた。

 膝をついてグリフィンの目を貫くアレックス。

 それでも絶命はせずに、なおも暴れている。

 アレックスは頭の上に立ち上がり、相撲のように片足を大きく上げてドンっと降ろすとピタっとグリフィンは動きを停止した。

「・・・やった・・・のか?」

「は、はは、あんなバケモノを一人で倒しちまった」

「す、すごい・・・とにかくアレックス殿の元へ行こう」


 俺たちは戦場の真ん中に馬車をすすめた。

 既に満足に動ける兵士や豚人は戦場にいなかった。

 所々でうめき声が聞こえるが、俺たちにはもうどうしようもない。

 グリフィンから降りたアレックスは俺たちの接近には気付いているのだが、終始自身の身なりを気にして振り返って背中まで見ている。

「やったなアレックス!すごいよ!」

 俺たちは口々に賛辞を送ったのだが、アレックスは

「・・・裸で戦ったほうがよかった」

 だ、そうです。ずっこけました。

 隣で笑っていたエルは、俺の足に抱きついてきた。

「どうしたんだ、エル。またふざけて・・・」

 エルは口を押さえて涙を流している。

 その目の向かう先を指さしている。

 ボウズ頭の兵士が背中から剣を生やして倒れている?


 まさか・・・そんな・・・

 ・・・

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