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鉄腕のゴールア 後半

ゴールア視点 後半

謎の大鷲の調査に向かう事になるゴールア。

彼を待っているものは・・・

 以前東部の兵団に所属していた時に、老人がおとぎ話をしていたのを聞いたことがある。

 かつて東部にはいくつもの都市があったが、大きな鳥に襲われていくつもの街が崩壊したと。

 たった数羽の野鳥が都市を襲撃するなど、ばかばかしい話だと思っていた。

 大方、幼子に説いて聞かせ、言う事を聞かないと襲ってくると言った類の話しだろうと。

 そんな事を考えながら、東の都市の兵舎に入った。

 ここに大鷲の襲撃にあった砦から逃げてきた部隊の者たちがいる。

「人間を丸のみにする大きさの鳥が現れた」

 概ね皆がそのような供述を述べていた。

 背中を爪で蹴られたと言った兵の傷も見た。

 部隊の隊長格はいなかった。一番冷静に状況を教えてくれたのは斥候だった。

 部隊が砦より逃走した後も、同部隊に所属していた斥候は残った仲間が心配で偵察に出たようで、その話しを聞くと

「はじめは豚人が数匹来た。襲撃かと思ったが、豚どもは傷だらけで逃げているようだった。そしたら背後から大きな鳥のバケモノが来た。俺たちは必死で応戦したが、一人また一人と倒れた。まったく歯が立たず一人が逃げ出すと皆逃げた」

 数の減った兵はこの街まで逃げたが、斥候は最大限の警戒をして砦に戻ったが、兵は誰もいなかった。死体も無かったが、街に戻る途中で食いかけの豚人の死体を見かけたらしい。

 青い顔で震える斥候に「情報に感謝する」と伝え下がらせた。

 どうやら全て真実のようだ。


 複数の兵士のいる隊舎の食堂大テーブルで俺とナカニス以下四名は話しを取り纏め、情報を王都に持ち帰る為に書簡を作成していた。

 そうしていると、兵舎の扉が開き、周りの兵士たちは立ち上がり敬礼をした。

 入ってきた兵は少しだけ立派な鎧を来た人物だった。

「ゴー隊長!戻ってきてくれたんだな!」

 声に顔を向けると、よく見知った顔だった。


 彼の名はタウベ。

 ゴーと共に十年の年月を東部前線で過ごした人物だ。知り合ってからの付き合いは二十年近いはずだ。

「タウベ!久しいな。ここの指揮官はお前か?」

「ああ、久しぶりだ。ここじゃ騒がしいから奥に行こう」

 そうして隊長室に案内された。


 私たち四人は部屋に通されたが、椅子に座るのは私だけで、残る三人は私の後ろで立っている。タウベの後ろにも二人たったままだ。当然下士官に自己紹介の時間など取らない。

「ゴー隊長。あんた今は伝令将校なのか?要件はわかっている。大鷲だろ?」

 若干声をひそめたような物言いだが、地声がでかい。

「ああ、そうだ。どうやら真実だったようだな。何か対策はあるのか?」

「うーん頭の痛い話しだ。豚どもだけでもやっかいなのにな。対策か・・・」

 タウベは私の目をじっとみつめ

「俺が打って出ようかと思っている。ゴー隊長、アンタなら安心だ。後を頼めるか」

 私は無言でタウベの目を見つめ返す。本気のようだ。

「やめとけ。聞けば人間の手に負える相手ではない。弓などを使い迎撃しながら弱らせるのはどうだ?」

「しかし、ヤツはいつ、どこから来るのかもわからん。矢は言われずとも準備しているが・・・」

「そうか。襲撃された砦は見たのか?」

「いや、直接は見ていない。これでも仕事が多くてな・・・誰かさんが抜けた穴がでかくてな」

 口は笑っているが、私を見る目は真剣だ。少し申し訳なく思う。

「そうか。では私が見てこよう。この書簡を王都に届けておいてくれ」

 タウベは書簡を睨んで受け取らず

「危険だ。いくらアンタが強くても少人数じゃ・・・だが部隊を割く余裕はないし・・・」

「なに、見てくるだけだ。それが今の私の任務だしな」

 そう言って書簡を押し付けて部屋を後にした。


 私たちは、出発しようとしているとタウベが嫌がる斥候を引きずって連れてきた。

「コイツが役に立つはずだ。一番現場をしっている。ほら、行け」

 オロオロとしているが、段々目が座ってきた先ほどの震えていた斥候。

「オルトです。案内します」

 そうして出発した。


 道はあまりよくなかったが、馬車と騎馬は何事もなく砦についた。

 思っていたよりもキレイな状態だった。

 争った形跡もなく、死体もない。

 常に周囲を警戒しているが、豚人も大鷲もいないようだ。

 馬車から降りて建物の中に入ろうとした所で、先頭を行くオルトの足が止まる。

「どうした?」

「馬車の跡・・・誰かが来ている?」

 地面を見ながらつぶやいた。

 確かに馬車の轍はあるが、砦なら馬の足跡や轍などあるだろう。しかし

「新しいんです。ホント昨日今日とか・・・あ」

 ドアの開けっ放しにされた小屋の中を見たオルトは

「盗まれている?・・・テーブルや椅子がない」

 そう言っていたので、盗賊か何かだろうと言うと、この近辺には「人外の村」しかないらしい。

 街の人とは違う、異形の連中が集まって住んでいる集落があるとの事だ。

「豚人とは違います。襲ってこないし、一応会話はできる。街と取引もしてるらしいけど、薄気味悪いやつらです」

 私もそんな噂は聞いたことがあるし、ケンからも聞いたことがあった。

 もしかして、ケン達が・・・しかし彼らは南部を目指しているはず。

 思考を現実に戻し、状況を把握する。

「今は誰もいないようだが、罠などないか警戒しておこう」

 そうして見て回ったが特に何もなかった。

 生き残りも、遺体もない。

 家財道具はいくつか盗まれているようだが、奪還も今はままならないだろう。

「何も得られなかったが、再建は大鷲さえ排除できればなんとかなりそうだ」

 そうして報告をまとめる為に戻る事にした。

 馬車に戻り、乗り込んで出発しようとしたところでオルトは停止を指示して指さした。

 その先では煙が上がっている。


 煙は方角的に街に戻る方向に近い。

 煙に近付いて移動していくと、かすかに叫び声や金属音が聞こえる。

「どうやら豚どもとの戦闘が起きてるみたいですね。どうします?」

「情報を持ち帰るのが最優先だ。少し遠回りになるが、戦闘を避けて進もう」

 そうして遠巻きに街を目指した。

 そう、戦闘を避けるはずだったのだ。


 周りは背の低い木しか生えていない赤茶けた荒野だ。

 隠れる場所など僅かな岩陰しかないはずだ。

 しかし、目の前には豚人の集団、一個小隊程が隊列を組んでいる。

 いつのまに現れた?こいつらは気配の消し方がうまいから侮れん。

「数は百人ほどか?主戦場の方が友軍が多いはずだ。機動力を活かせ」

 俺たちは反転して戦場の方へ向かった。

 どのみち敵の増援だが、主戦場の部隊に押し付ける形になってしまう。

 背に腹は変えられない。目的を取り違えるな。

 私は自分にそのような言い訳を聞かせて馬車を走らせた。

 豚人は隊列を崩さずついてくる。速度で勝っているので追いつかれない。

 ほどなく戦場が見えた。馬車は密集している側面へ向かった。

「豚どもの増援だ!」「我々の増援も向かっている!しのぐぞ」「槍兵、前へ」

 兵たちの士気は高い。練度も高い。十分勝てるはずだ。

 しかし、静かについてくる不気味な豚人は戦場に目をくれず、私たちを追っている。


 何か違和感をおぼえた。


 戦場を背に街に進む馬車の正面に、また別の豚人の集団が隊列を組んでいた。

「まずいな。我々が逃げても戦場では挟撃を受けてしまう。どうするか・・・」

「隊長!我々が血路を開きます!」

 騎馬のクライトンとケリーは武器を構えて前に躍り出た。

「待て、さすがに厳しい。本体と合流しよう」

 私は馬車を反転させ、周囲の兵達に後方にも敵がいると叫んだ。


「こうなってしまっては仕方がない。この隊と一緒に応戦するぞ」

 馬車を止めて下車しながら俺がそう叫ぶと、ナカニス達は無言で頷いた。

 挟撃を受け、部隊は混戦になり指揮系統はもはや機能していない。

 派手に戦い敵味方から注目を集めれば、私の指示は通るはずだ。

 そう考え、剣を抜き放ち単騎で豚人へ突撃する。

 前方から三本の槍が同時に突き出されるが、穂先を切り落とし間合いを積める。

 穂先の切られた槍が体を突くが死ぬ事はない。

 歯を食いしばり、短く息を吐き、大きく横に振りかぶった剣を力いっぱい振りぬく。

 同時に五体ほどの豚人が倒れる。

 しかし、それで終わりではない。

 私の顔を目指して伸びてくる槍をしゃがんで躱し、しゃがんだ勢いのまま、目の前の茶色い足を縦に剣先が割く。

 前のめりに倒れる豚人の後ろからさらに槍が伸びる。

 しゃがんだまま体を半分ひねり、突き出された槍を掴んで立ち上がりながらあごの下から剣を突き上げる。

 一息の動作でそこまでやると、さすがに苦しくなって息を吸う。

 何体の豚人を倒したかわからないが、周りの兵士たちが「わっ」と湧くのがわかった。

 しかし、休んでいるヒマはない。

 再度歯を食いしばり息を吐こうとした瞬間


 キーーーン


 耳鳴りのような不快な音が響く。

 一瞬意識がとられるが、ここは戦場だ。

 息を短く吐いて、固まっている目の前の豚人の目を突き、少し離れた位置の豚人に向かい踏み込んで剣を振る。僅かに身じろいだ豚人の手首を槍ごと切り離した。

「剣の切れ味が鈍りだした」

 そんな事が頭をよぎった時に、背後から突風と悲鳴が響き渡る。

 俺は振り返る余裕は無く、目の前の豚人を切り刻む。

「目の前の敵に意識を集中しろ。まだやれる」

 集中力を研ぎ澄まし、豚人どもを見ると、その顔は私を見ていない?

「隊長!ゴー隊長!」

 私の体はナカニスに足首を掴まれて転倒した。

「何をする!ナカニス!」

 そう怒鳴った時に、倒れる俺の上を影が通過した。


 地面すれすれで滑空しているそれは、豚人や兵士のもつれている集団に飛び込んだ。

 大きな翼をはためかせ、クチバシとかぎ爪を振り回し、血肉の雨を振らせている。

「な、なんだあれは・・・」

 呆然と見つめる俺を、自らの肩を押さえながらナカニスは手を引き立ち上がらせた。

「退避を!」

 無表情だったが、その声は切羽詰まっていた。

 私は馬に乗ったほうが良いと考え、馬を探した。

 視界の隅に映った数頭の馬は怯えている。自力で走るより馬に任せて逃げたほうが生存率は高い。

「ナカニス!馬だ」

 手短にそう告げて走り出そうとした時、

「危ない!」

 その声と共に突き飛ばされた。

 走ろうとする姿勢で背中を押され、バランスは崩したが、転倒せずに振り返る。

 私を突き飛ばしたナカニスは腹を貫かれている。

 腹を押さえながら、倒れずに踏ん張っている。

 刺したのは・・・ケリーだ。

 ナカニスは荒い息をしているが無表情で、対峙しているケリーも表情はない。

 私は咄嗟に腰のナイフをケリーに投げつけ、同時に一気に距離をつめ袈裟に切った。

 ナイフを自身の剣の腹で受けたケリーは私の剣を防げず、肩口から胸半ばまで切断され「がはっ」と血を吐いて倒れた。

 同時にナカニスも倒れた。

 私はナカニスの元に近寄り、しゃがみこみ傷を見た。

「まだ助かるかもしれん。しかし、何故・・・」

 周りは豚人と兵士が入り乱れ、逃走し始めている。

 近くで大鷲が暴れているようで、頬に誰かの血が飛んできた。

 メガネを落としたナカニスはうつろな目で私を見ているが、目を見開き近くに落ちている剣を片手で掴んで立ち上がろうとしている。

「おい!無理をするな!出血が多い・・・から・・・何?」

 しゃがむ俺の頭上に剣を振り上げたナカニスが何かを切ったのと同時に俺の胸から剣の切っ先が見えた。

 仰向けに倒れたナカニスのとなりにうつ伏せに倒れた。

 足元にも誰かが倒れたようだ。

 筋骨隆々とした短髪の男は呻きながら「お前達が、ナカニスが内部の調査など・・・」力尽きたようだ。

 ナカニスは私の顔を見つめて

「・・・隊長・・・間に合わなくて申し訳・・・」

 そうつぶやいたのがかろうじて聞こえた。

 目を開けたままのナカニスはそれ以上何も言わなかった。

 私の記憶もそこで消えた。

次からはまた、ケンの視点へと戻ります

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