悪夢だったのか?
ジンナに予想外の対応をされたケン。
気が付くと・・・
気が付くと、俺はベッドの中。
寝汗がひどい。
いや、なんかいい夢見てたのに、急に悪夢になったような・・・
腕で顔を拭おうと思うと・・・
俺の腕を枕にジンナがこちらを向いて眠っている。
静かに「すーすー」と寝息が聞こえる。これは夢じゃないっぽい。
起こしたら悪いと思い、俺は出来るだけ静かに腕を抜く。
そっとベッドから抜け出そうと思ってベッドに座ると、ジンナが後ろから抱きついてきた。
「・・・ごめんなさい。あんなことするつもりじゃなかったの」
ジンナは俺に抱きついたまま泣き出してしまった。
俺はジンナに向き直り、頭を撫でた。
「あんな事言ったり、暴力をふるったらケンに嫌われてしまう。でも、ケンを誰にも渡したくなくて・・・うう・・・嫌いにならないで・・・」
泣きじゃくるジンナの額に唇をつけて
「大丈夫だよジンナ」
そう言ってからも、しばらく抱きしめていた。
ジンナも落ち着いたようで、少し話しをしてから部屋を出た。
ここはジンナの家で、どうやら朝のようだ。
リビングにはエミカがいた。
俺の姿を確認すると、エミカは俺に謝罪してきた。
「すまない。私は調子に乗りすぎたようだ。恩人に対してとる態度ではなかった。謝罪で許してもらえぬなら自害も厭わぬ。一族の悲願だけは何卒・・・」
「え?ちょ、ちょっと待って。そういうのやめてくれよ!」
ジンナが寝ているから、とりあえず場所を移そうと隣の家に移動した。
家ではアレックスとエルが朝食を取っていた。ヒロミスが持ってきてくれたようだ。
「おかえり兄貴、さすが色男は朝帰りですかい?」
エルはスルーして俺とエミカも朝食を取ることにした。
昨日、俺は途中で記憶がない事を告げ、内容を聞いたらジンナに一発KOされたようだ。
ジンナはすぐに落ち着いたらしく、慌てて俺を治療してエミカと二人でジンナのベッドに寝かせたようだ。
再度謝罪をしてきた。
「俺はまあよくないけど・・・いいとして、ジンナを悲しませたりするのは二度としないように。あと自害とかも禁止。ジンナにも謝罪すること」
そう言うとジンナには謝罪したようだった。
ジンナには「ケンを守って、助けてあげて」と言われたそうだ。
その後、何を思ったか、自分のウロコの一部を引きはがし、跪いて俺に差し出した。
「二度と貴殿には逆らわぬ。忠誠の証だ」
そう言われて受け取ったけど、どうするのこれ・・・
その後、俺たち四人は今後どうするか話し合いをすることになった。
俺は正直、もうすこしジンナのそばに居たかった。
「ここはベッド二つしかないし、もうひとつなら置けないか?」
俺は恥ずかしさとか、俺だけが自分の要望を言う後ろめたさもあって「ジンナと一緒にいたい」とは言えなかったが、まだここにいるつもりでベッドの話しをした。
「え?誰が寝るんすか?」
エルが不思議そうな顔をして俺を見ている。
「ふぁ?」
俺は理解できずに変な声を間抜けにも出した。
「ええと、俺・・・か?ああ、もう一ついるのか?さすがに狭いかな?」
「いや、ケンとジンナは夫婦なんだから遠慮しないで向こうの家で寝泊りしてくれ。私の分ということだろう」
「いや、さすがに姉さんは女子だし、兄貴の所か別のトコ借りれないんすかね?」
あ・・・エミカは女子だから別・・・って言うか、俺とジンナは夫婦・・・
「兄貴がクチ開けて動かなくなった。昨日奥さんに殴られた当たり所悪かったんすかね?」
エルは至って真面目な顔で俺を見ている。
「あーうん。寝る所はまた夜にジンナに聞いてみるよ。うん・・・」
俺は遠くを見ながら適当に答えた。
ジンナの家に泊まってもいいのかな?断られたらどうしよう・・・
「私は一刻も早く一族に報告に戻りたい。だが、この村は少し疲弊しているようだし、村の復興や豚人の駆除をしておいたほうがいいだろう」
エミカはきっと俺とジンナに気を使ってそう言ってくれたのだろう。
「そ、そうだね。アレックスもエルもそれでいいかな?」
「・・・ああ」
「あーいいっちゃいいんすけど・・・」
エルはなにかはっきりしない返事をした。
「何かあるのかエル?」
「いや、ここの人たち、隙がないから落ち着かないんすよ。街の人やボンクラ兵士と違って」
俺は「ゴーが聞いたら怒りそう」なんて思ったけどスルーして
「じゃ、じゃあ長老に相談しに行こう」
そうして長老宅へ向かった。
長老宅へ行ったが不在だった。
また村はずれで作業しているのかもしれないと思い向かうとロイがいた。
「おはよう我が友よ!また村を救ってくれたようだな!」
「おはようロイ。俺は何もしてないよ。アレックスが戦ってくれたんだ」
「あーアレクシウス様の戦いはすごいってユリが言ってたな。長老より強いってすごいな」
いや、オタクの長老もあんた等も普通の人間や俺と比べたらすごいけど。
そんな話しをしながら、長老を探している、しばらく村にいるつもりだと言うと
「長老は村の周りのどっかにいるんじゃないか?村にいるのに許可はいらない。アレクシウス様やケンの友なら大歓迎だ」
そう言われて俺は嬉しかった。自分や仲間が認められたようで。
この村のメインとなる入口は先ほどロイがいた方と、俺たちが入ってきた入口の二か所だ。
他にも柵に穴があったり、人が通れたりする場所もあるにはあるが、随時整備しているようだ。
俺たちはもう一方の入口の方へ向かうと数人の人だかりがあり、その中に長老がいた。
「あそこはもうダメかもしれない。全員こっちに逃げられたけど・・・」
「命があれば再起できます。豚人の襲撃は波があるし、落ち着けば取り戻せる。とりあえず誰か彼らを私の家に案内して休ませてあげなさい」
皆フードを被ったり布を顔に巻いているので区別がほとんどつかない。見たことのないような気がするけど自信はなかった。
「おはようございます。挨拶が遅れまして」
長老はそう言って声をかけてきた。
「何かあったんですか?」
俺がそう聞くと、長老は少しだけ虚空を眺めて思案してから
「我々の力不足なのでしょうが、村の外に石切り場があるのです。森で伐採した材木も保管しているのですが、豚人が来たようです」
話しを聞くと、単に豚人が襲撃してきたのではなく、王都の軍と豚人の戦いが近くで起きている余波で豚人が流れ込んできているみたいだ。
場所はここから王都方面の森の近くのようなので、ここと比じゃない数が動員されている可能性もある。
エータやゴーがいれば、もう少し詳しくわかるような気もするが、いないものは仕方ない。
「王都方面だと豚人も多いかもしれないから、今すぐ奪還は厳しいかもしれませんね」
「そうなのです。さすがケン殿は慧眼をお持ちですね。しかし、駐在していた者は皆無事に逃げてこれたのが幸いでした」
俺はイマイチ慧眼の意味がわからなかったが、たぶんいい意味だと思いわかったフリをして
「話しが変わるんですが、俺たちはしばらくこの村に居てもいいですか?それと他に空き家とか借りたりとかできませんか?」
「居るのに許可は不要です。好きなだけ滞在しても、永住しても問題ありません。ですが・・・」
長老は一度言葉を切って思案して
「空き家に関しては申し訳ありませんが、先ほど受け入れた者たちに先に割り振るように伝えてしまっていて。私の家にも数人同居するので余裕がないのです。以前より新たな家を建築している最中なのですが・・・申し訳ありません」
頭を下げる長老に俺は慌てて
「い、いえ、突然押しかけて無理を言ってしまい、謝るのは俺のほうです。家の方はなんとかします。何か手伝える事はありますか?」
「ケン殿・・・なんというかこう、立派になられましたな」
何故か長老は俺に微笑みながらそう言ってくれた。悪い気はしなかったが、俺の本質はビビりなのは忘れないでください。