ジンナの愛情 愛憎?
ジンナとエミカの会話を意図せず聞いてしまうケン。
しかし・・・
ジンナが落ち着いたので、エミカを一度診察してもらうことになった。
「俺たちは外で待ってるよ」
そう言って診察部屋から出た。
「もう眠いから先に帰って寝とくっす」
エルはそう言って家から出ていった。気を効かせたのか、本当に眠たいのか・・・あくびをしていたし、多分眠たいんだろう。
俺は待っているのも手持ち無沙汰だったので、ジンナの食器を洗おうとした。
水瓶を見ると半分くらいだったので、食器と桶を持って井戸に水を汲みに行った。
ジンナの家を出ると、隣の家の灯りは消えていた。エルとアレックスはもう寝ているのか?
そういえば、あの家ってベッド二個しかないんじゃないか?
もう一個くらいベッドを置くスペースが寝室にあるから、明日長老に相談してみよう。
ジンナはエミカの診察をちゃんとしてるかな?エミカがまた「二番目の妻」とか言っていなければ良いが・・・
そんな事を考えて井戸の要件を住ませてジンナの家に戻った。
ジンナの家のドアを開けようとしていたら、家の中から笑い声が聞こえてきた。
ドアを開けようとしたが、中から「それで、ケンがあの時・・・」と言った会話が聞こえてきて、俺はドアに手をかけたまま固まった。
「ケンは、その後に泣き出してしまって。事ある毎に泣いては『ジンナに会いたい』と言うのだ。最初は私も男のクセに情けないヤツだとは思っていたのだが、段々と涙を流すほど真剣に考えているのだなと思うようになった」
そ、そうか・・・俺はエミカの中で最初は「情けないヤツ」だったのか・・・なかなかショッキング。
「うん、それは私も思った。小心者ですぐにビビって、怖がりで痛がりで・・・」
じ、ジンナさん・・・もうやめてください・・・俺のHPはゼロです・・・
「でも・・・ケンより優しい人なんていない。私なんかに優しい人なんて、この世界にケン以外いない」
「そうだな。ケンほど優しい人は見たことがない。でも君は間違っている」
「え?」
「悪い意味で取らないで欲しいのだが・・・いつのまにか私もケンに惹かれていた。しかし、彼が私に振り向く事はない。何故なら君のような魅力的でかわいい妻がいるからだ、ジンナ」
「・・・そんな・・・私・・・エミカから見て私は気持ち悪くない?だって・・・」
少し言葉に詰まったジンナは震える声で「私は・・・私の体は・・・醜いミミズなのよ?」そう言った。
「それなら私はトカゲか?君は私を見て『トカゲのようで気持ち悪い』と思うのか?」
「思わない!エミカは頭もいいし、強いし、美人だし、ケンと一緒に外に出れる・・・けど、私は・・・」
「はは、君は私を美人と言うのか?これでも地底人の中では輝く宝石のような滑らかなウロコの持ち主としてモテるほうではあるがな。やはり君には完敗だ。先ほど言った『二番目の妻』の件は忘れてくれ。悪かった」
「え?で、でも、それはケンが決める事だから・・・」
「それだ。私は自分が良ければと考えてしまうが、君は第一に『ケンが幸せなら』と考えている。愛情の深さというのか。それが私には勝てない理由だ。自信を持て、ジンナ。君は美しい」
俺はそっとドアから離れて井戸に戻った。
涙が頬をつたう。俺は盗み聞きなんてするつもりは無かった。
けど、ジンナの優しさや愛情を知ってしまい、涙が止まらなくなってしまった。
「ジンナ・・・ありがとう!必ず幸せにする!」
少し落ち着いてきて一度深呼吸をし、顔を洗ってジンナの家に戻った。
俺はなんとなく気まずい気分ながらも明るい表情を作ってジンナの家のドアを開けた。
「た、ただいま。エミカの診察はどうだった?」
二人は俺の顔を見た後にお互い見つめあって笑っていた。
「な、なんで笑ってるんだ!?」
俺は泣いたのがバレたのかと思い、背中を向けて桶の水を水瓶に入れてから両手で自分の顔をこすった。一度深呼吸をして、冷静を装いジンナの隣に座った。
「・・・で、エミカの件は・・・」
「やっぱり子供はできにくいみたい。でも私が治療していけばよくなる・・・と思う」
「ほ、ほんとか?よかったなエミカ!」
「ああ、ジンナには感謝してもしきれない。一族総出で謝礼にこなければならん」
「あ、でもエミカには説明したけど、鳥とか豚とか違う動物のお肉を使って・・・一応エミカはそれでいいって言ってくれたけど、一族の人にも聞いたほうが、ケンもいいと思うよね?」
俺はジンナの治療を思い出し、自分の右腕を思い出し、狼人を思い出していた。
「ケン?聞いてる?どうしたの?震えてる?」
「ああ、きっとローレン領のメイドさんでも思い出しているのだろう」
エミカは何を言ってる?ローレン領のメイドさん?ああ、あの人美人だったな。
ジンナのミミズの手が俺の左手に巻きついた。
「ケン・・・ケンは女ったらしなの?メイドさん美人らしいわね」
ジンナの目を見ると、何故か黒目しかないように見えた。
目に光がなく、真っ黒に見える。
「狼人の女の子だけじゃなくて、エミカやメイドさんまで・・・私じゃなくても誰でもいいの?」
「え?違!ちょっとエミカ!助けてくれ」
真っ黒の目で俺を見つめるジンナ。さっきまでのエミカとの会話はなんだったんだ・・・
「ケンはひどいヤツだ。メイドさんに対してデレデレするし。そのくせ私には冷たい。私との子作りを断り恥をかかせた」
「おい!エミカ何言ってんだよ!」
俺はそう言うと
「少し意趣返しだ。ははは」
そう言って笑うエミカの声と同時に俺の左腕から「ボキリ」と言う音が響いた・・・