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ジンナとの再会

無事にジンナの村まで逃げてきたケン達。

そこでは・・・

 俺は気分ではまだ焦っていたが、シロンをゆっくりと進めてジンナの村に入った。

 村に入る前から、数人が俺に気が付いて手を振っていた。

 ロイ他数人がすぐに出迎えてくれた。

「よく戻った、わが友よ!」

 俺が馬から降りると、そう言って肩を叩いたり抱きついたりしてくれて、恥ずかしかったけど嬉しかった。

「みんな無事でよかった」

 俺がそう言うとロイ達は顔を見合わせて

「豚人どもに負けるはずないだろう?ここには俺たちがいるし、長老もいる」

 そう言われると、ここは安全なんだと今更思った。

「みんなにも顔を見せてやってくれ。長老は村のはずれで豚人を焼いている」

 不穏な言葉だったが、ジンナはまだ寝ているかと考えて村を見て回った。


 村はずれでは、豚人の死体を集めて燃やす作業が黙々と続けられていた。

 村人たちの動きは慣れたもので、豚人の遺体を無駄なく運ぶその姿と、煙の中に漂う焦げ臭い匂いが、村の日常を物語っていた。

 ひときわ大きな体の人が、右手と左手それぞれが足首を掴んで二人の遺体を引きずっていた。

 俺たちに気が付いた大きな人は遺体を放置して俺たちの方にやってきた。

「アレクシウス様、ケン殿!出迎えもできずに申し訳ない」

 長老ガイウスはそういって挨拶を交わした。

「一旦私の家に来てください。詳しい話しはその時に。後の事を頼んできます」

 そうして俺たちは長老宅に向かった。


 長老宅でテーブルを囲み、エルやエミカの紹介をした。

「ここは以前より豚人がたびたび来ていたのですが、最近は数が多くて死体の処理が間に合っていないのです」

 そんな説明をしてくれていたが、戦力的にはやはり問題ないようだ。すごいし怖いけど安心。

「人間の街からも往来がなくなり、このままではいかんとは思うのですが・・・元凶を断とうにも村の守りに人手を割かねばならなくて・・・」

 なんとかしてあげたいし、ここにはジンナもいるし・・・

「エータと合流したら、なにか出来るか聞いてみますね」

「おもてなしもできず、村の救い主のケン殿に頼るようで申し訳ありませんが、よろしくおねがいします」

 その後も、ここ以外の人間の街も襲撃が多いとかこれまでの旅の話しをしていたら、バンっと玄関が勢いよくあいた。

 ヒロミスが俺に抱きついてきた。

「ケン!無事に帰ってきたんだね!あたしゃ心配で」

「あ、ああ、ただいま。ヒロミスも無事でよかった。あ、あれ?」

 笑顔だったが、涙が頬を伝った。

 ヒロミスの声を聞いた瞬間、胸がじんと熱くなった。無事だという安堵と、心配してくれていたという想いが、心の底から込み上げてきたのだろう。


 その後はヒロミスも交えてお茶を飲んでいた。

「あたしゃヒロミスだよ。ケンの母親みたいなモンさ。アンタらは?」

 相変わらずのぶっきらぼうな口調だ。

 ヒロミスはどっしりと椅子に座りながら、お茶を口にして不意に笑い出した。

「ケン、あんたまた何かやらかしたんじゃないかい?」

 エルとエミカの自己紹介を待たずに、ヒロミスはエミカを見て

「アンタもケンに口説かれたクチかい?アタシもだよ」

 何故かそんな事を言い出した。エミカは何か言いたげだったが、ヒロミスは

「ケン!アンタ!この娘だけじゃなくて、こんな子供もかい!」

 それを見たエルは、泣くようなしぐさをした。

「アンタ!見損なったよ!」

 吐き捨てるようにヒロミスがキレだしたので、俺はなだめながら

「ちょ、な、何言ってんだよヒロミス!落ち着いて!エルも悪ふざけするな!」

 俺はヒロミスをなだめながら、「エミカが女子ってわかるのか?てか俺の母親代わりなのか?それより俺はいつヒロミスを口説いたんだ?」と突っ込み所が多すぎて頭が痛くなってきた。

「大人数だし、夕飯はここでいいね、長老。アタシが準備しとくからね」

 ヒロミスは強引に長老も巻き込んで、一旦解散になった。

 長老に以前の俺たちが寝泊りした家を借りようと申し出ると

「あの家はもうケン殿の家なので自由に使ってください」

 いつのまにか俺の家になってしまった。


 ジンナの隣の家についた。

 以前の拠点に使っていた家だ。

 中は掃除してくれているのか、キレイな状態だった。

 俺は気分的に疲れたのと、みんなが無事そうで安心して

「はー」

 と溜息をついて椅子に座った。

 ジンナの家の近くを歩くたびに、彼女がまだこの村で健やかに過ごしていることを確認したくて、胸が高鳴った。彼女の笑顔を思い浮かべながら、俺は静かにその時を待った。

 エミカとエルには事前に「ジンナは日が沈んでからじゃないと会えない」とは説明してあったので、隣の家が彼女の家とだけ紹介した。

 もうすぐ夕方だけど、食事会が終わってからになるだろう。早くジンナの顔が見たかった。



 ゆっくり出来ると思っていたのだが、村人が頻繁に挨拶に来ていた。

 ロイをはじめ、以前に俺が助けた・・・人を殺して助けた親子も挨拶に来たりと忙しくしていたら、夕飯の準備が出来たと迎えの人がきた。

 俺自身が人を殺したというのが、遠い昔のような感覚になっていた。

 罪悪感はあるが、薄れている。そんな自分に少し不安を感じていた。


 その人に連れられて、俺たちは長老宅に向かった。

 夕暮れの中で俺やアレックスに深々と頭を下げるフードを被った数人に俺は軽く会釈をしたが、アレックスは我関せずで素通りしていた。

 長老宅に着くと、長老やヒロミス以外にも数人の人がいた。

 ユリと他数人・・・以前に柵の補修をしたときに見たことがあるようなないような?

「我が友よ、よくぞ戻った。我々は夜警に行くのでゆっくりしていってくれ。」

 そんな簡単な挨拶をして出ていった。なんとなく、俺はその言葉に安心して「帰ってきたんだ」そう思えた。


「ほら、アンタ達。ぼさっとしてないで座んな」

 ヒロミスにそう促されて席についた。

 長老とヒロミスに今までの事やエルやエミカの事を紹介しながら食事をしていた。

「アレクシウス様とケン殿はこの村に何か要件があるのですよね?今の我々に何かできることはありますか?」

 長老は何かを察していたようで、そう切り出してきた。

 俺はエミカの一族の件を簡単に説明して

「ジンナに一度、エミカの事を調べてもらおうと思っています」

「なるほど。ジンナの力なら何かわかるかもしれませんね」

 深く頷いている族長に、俺は続けた。

「もし可能なら彼女の一族の数人をこの村で住まわせる事は可能ですか?環境を変えるのも有効かもしれないので」

「その程度でいいならお安い御用です。アレクシウス様やケン殿に報いる為にも是非」

 そう快諾してくれた。

 エミカは立ち上がり頭を下げた。

 彼女の瞳には、過酷な日々を乗り越えた者だけが持つ強い意思が宿っていた。

「ありがとうございます。我々は戦いも望むところです!戦力としても貢献します」

「おお!それはありがたい。こちらとしても人手は多いほうが助かります」

 長老とエミカはうまくやっていけそうだと思い、俺はほっとした。

 だが、俺は日が沈んでいる窓の外を見てソワソワしていた。

 ジンナに会いたい。

 そんな俺にヒロミスは食事を包んだ物を俺に押し付けた。

「ほれ、これを持って行きな」

「あ、ありがとうヒロミス」

 俺はそう言って、みんなを置き去りに長老宅を飛び出した。


 ジンナの家まで小走りで向かい、玄関の前で深呼吸する。

 気持ちが少し落ち着いた。ドアをノックして開ける。

 部屋の中は薄暗く、テーブルの上にはろうそくが一本だけ灯っていた。その揺れる炎が、静かな空間にやわらかな影を落としている。俺はジンナの姿を探して部屋を見渡したが、どこにもいない。

「ジンナ、起きてる?」

 俺の声が部屋に響く。次の瞬間、背後から何かが胸に飛び込んできた。ジンナだ。彼女の腕が俺を強く抱きしめる。声にならない嗚咽が、俺の肩に震えながら伝わってきた。

「ただいま、ジンナ」

 俺はそっと彼女の背中に手を回しながら言った。落としかけた包みをテーブルに置くと、彼女の涙で濡れた顔が見えた。

 ろうそくの揺れる炎に映る彼女の涙を見たとき、俺は、この再会がどれほど彼女にとって重要だったのかを痛感した。

「本物のケンだ・・・!うわーん・・・!」

 その言葉とともに、また彼女の涙が溢れ出す。俺はただその姿を見守ることしかできなかった。でも、胸の中にあったわずかな不安が、その涙と一緒に流れていくような気がした。こんなに待っていてくれた彼女がいる。それが俺にとって、何よりも大切なことだった。

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