表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

114/167

逃走

ロスタルからの逃走を決めたケン。

その先に待つのは・・・

 どこを通っていて、どこを目指しているのかわからないが、俺たちはとにかく逃げた。

 夜間だったが、月明りが明るく、俺でも馬を走らせる事が出来た。

 エルやアレックスを頼りに、豚人がいない方いない方へと、とにかく逃げて馬を走らせた。

 空がうっすらと明るくなってきた頃、もう大丈夫そうだと歩を緩めた。

「少し休憩しよう。アレックスも怪我はないか?」

 アレックスは立ち止まり、周りを見まわした。

「な、なんかいるのか!?」

 俺はビビリを発揮して、小声で話しながらキョロキョロした。

「・・・服を洗いたい」

 俺は脱力して馬から落ちそうになった。

「はは、兄貴ビビったりぐったりしたり、相変わらずだなー」

 エルがふざけてるって事はここは安全なんだと思う事にした。

「エル、川とか近くにあるかわかるか?やっぱ無理があるか・・・」

 エルは何故か怒りだし

「砂漠育ちをなめてもらっちゃーこまりますぜ!」

 馬からひょいっと降りて地面に耳をつけた。

「あー案外近いかも。こっちですぜ」

 エルは馬を引きながら歩き出した。


 十五分程度で小さな川についた。

 深さがひざ丈くらいしかない。朝日が昇って水面がキラキラとしていた。

「おーすごいな!ホントにあった」

 そう言って俺は辺りを見まわした。

 周囲は木もまばらで、背の低い雑草しか生えていない。地面が赤く見えた。

「え?アレックス!ここってジンナの村の近くなんじゃないか?」

 振り返るとアレックスは既に全裸で服を川につけていた。赤い水が下流に流れている・・・


 河原で食事をし、馬にも水を飲ませて休息させながら、俺たちはこの後どうするかを話し合った。

 俺はここがジンナの村周辺の景色に似ているような気がして、ジンナが気になっていた。

 アレックスの見解では、ジンナの村はだいぶ南のようだが、ここから王都よりは近いっぽい。

 てか王都に行くにしても、どっちに行けばいいんだ?

「エルとエミカはどっちが王都とかローレン領とかわかる?」

 そう聞いてみた。

 エルはジト目で

「冗談で言ってるんスよね?いや、マジでマジなの?」

「逃げるのに夢中だったが、夜空の星は見ていないのか?」

 あ、あれ?エータがいなくても、情けない気分になっているのは何故・・・

 とにかく、次の目的地を決めないと。

「あ、アレックス。俺、俺ジンナの村に行きたい。ずっと心配なんだ」

「・・・お前が決めたらいい」

「あ、ほら、エミカの一族の件でもジンナに一回調べてもらおうって話しもしたし!」

「ケン。とりつくろう必要はない。妻が心配で帰りたいと言うのを止めるほど、私は薄情ではない」

 俺は恥ずかしいやら情けないやらで顔が上げられなかった。

 だけど、久しぶりにジンナに会えると思うと自然とニヤニヤしてしまった。

 こうして俺たちはジンナの村に向かう事になった。


 服を洗った小川を下っていくと、大きな川に繋がっていた。

 河原は以前、夜中に豚人の襲撃を受けた河原に酷似していた。

 やっぱりだ。ジンナの村に近付いている。俺はそう確信して嬉しかったが、過去に河原で起きた豚人の襲撃や、ロスタルでの惨事を思い出した。

「なんでこんな事になってしまったんだ。ジンナは無事でいてくれよ」

 そんな事を考えていたら見覚えのある景色が見えてきた。

 太陽に照らされた赤茶けたゴツゴツした地表を馬で進む。

 まだジンナの村は見えていない。

 けれど、遠くにいくつも煙が上がっているのが見える。

 俺の心臓はどんどん早くなり、馬の速度も上がっていく。

「ケン!落ち着け!」

 エミカがそう声を掛けてくるが、俺の体は既に嫌な汗がとまらず、

「は、早く行かなきゃ。アレックス!急ごう!」

「兄貴が行っても役に立たないんだ!旦那に見に行ってもらう方がいいんじゃないか?」

 エルの発言に、俺はカッとなって

「役に立たないってなんだ!」

 そう怒鳴ってしまった。

 エルは肩をすくめて口を尖らせている。

「いや、エルの方が冷静だ。アレックス殿、ケンの守護は任せて見てきてもらえるか?」

「エミカも何言って・・・」

 俺がそう言う途中でアレックスが

「・・・ケン。待っていろ」

 そう言って走り去った。

「ケン!心配なのはわかるが一旦冷静になるんだ」

 俺はソワソワしていたが、エミカの落ち着いた口調で言った言葉が、段々と理解できた。

「ああ、ありがとうエミカ。エル・・・ごめん」

「ああ、わかればいいんスよ、わかれば。兄貴が戦って勝てる相手ならいいんスけどね」

 俺はまた自分が情けなく、ジンナが心配で涙が出てきた。

「うう・・・」

「ケン!泣くな!まだわからないだろう!希望を捨てるな!エルも調子に乗りすぎだ!」

 エルもまさか泣くとは思っていなかったようで、慌てて

「あ、兄貴の事バカにしたんじゃないッスよ!戦いは旦那に任せて兄貴の安全を考えて・・・」

 そうしていたらアレックスがものすごいスピードで走って帰ってきた。

 俺の心臓は張り裂けそうだった。アレックスの口が開かれるのが怖かった。

「・・・皆無事だ」

「ふはぁ」

 俺は安堵から、涙を流しながら脱力して「はー」と息を吐いて、そのまま落馬した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ