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ローレン卿との駆け引き

無事にローレン領についたケンたち。

ローレン卿に会ったが・・・

 予定より一日遅れた日暮れにローレン卿は戻ってきた。

 以前見た時よりも十歳くらいふけこんでいるように見えた。

「ローレン卿。お邪魔してます」

 俺は馬車から降りてくるローレン卿をベイツさんと並んでお迎えした。

「おお、ケンではないか!アレクシウスもいるのだな?すまぬが、少し立て込んでいてな。また夕食時に話しをしよう」

 そう言って足早に屋敷に入っていった。

 なんか結構やばいのか?

 地底人の集落が南部で、東部を抜けてジンナの村に行こうとしていたら豚人との闘争が始まっていて、南部の都市では暴動が起きていた。

 南都の周囲でも戦乱の噂はよく聞いていたが、王都ではそんな事はまったく感じなかった。

 それが北部にまで・・・急にジンナの事が心配になって俺はオロオロしていた。


 長いテーブルでの夕食時には、ローレン卿はさっきよりも元気に見えた。

「やはり我が家は落ち着くな」

 上機嫌に見えるローレン卿はアレックスをはじめ、エミカやエルにも挨拶をしていた。

「ベイツからそれとなしに話しは聞いているぞ、ケン。そこのエミカの一族の力になりたいのだな?その為に領土内に居住の許可を取りに来た。そうだな?」

「そうです。豚人の件でお忙しい所申し訳ないのですが・・・」

 俺がそう話している途中でローレン卿は俺の隣まで席を立ち歩いてきた。

 俺は何か失礼な事をしてしまったのかと思い、ドキドキして過呼吸になりそうだった。

「ケン!私と君の仲ではないか。許可する!居住地や家屋も準備しよう。屋敷のそばならお互いに協力できるし、それでよいかね?」

 俺はローレン卿に肩を叩かれた瞬間に強く目を閉じていた。ゆっくりと目を開けてローレン卿とエミカの顔を見比べた。

 ローレン卿の提案を聞いたエミカの目に、一瞬、涙が浮かんだ。

「我が一族の希望を守ってくださるご厚情に、心より感謝します」

 その声は震えていたが、確かな決意に満ちていた。

「しかし、ケン。ひとつ貸しだ」

 そういってローレン卿は長テーブルの狭い辺の席に戻った。

 ワインを一口飲んでから、机の上で指を折って手を組んでから

「そこで、頼みがある。ゴールアをしばらく貸してくれぬか?」

「・・・え?」

 俺はイマイチ理解できなかった。エミカの一族に協力する変わりにゴーを貸せって事か?

 エミカの件は確かに俺からのお願いだけど、ゴーをどうこうするのは俺が決めていい事じゃないと思う。

「ろ、ローレン卿。ゴーがどうするかは俺には決められません」

「それは?断るということか?」

 ローレン卿の目が俺を鋭く見据えた時、俺は体が硬直して動けなくなった。ゴーはどう思っているのだろうか。顔には出さないが、何か言いたそうな気配もある。

「あ、い、いえ。ゴーは俺の所有物とかじゃないんで・・・その、ゴーがどうするとか決めるのはゴー自身です・・・はい」

 俺はビビりながらもそう答えると

「なんとも・・・自主性を尊重してくれるのだな。鉄腕のゴー。君はどうしたい?」

「はっ、閣下。ケンに従います。ですが、閣下のおっしゃる内容によって相談したいと思います」

「うむ、では少し胸襟を開くことにしよう。ローレン家の兵と王都軍の合同部隊が出来るようなのだ」

 そこで真剣な表情のローレン卿はまた間をおいてワインを一口飲んだ。

 俺もつられてワインを一口飲んだ。隣に座るエルはあくびをしている・・・

 アレックスはローレン卿の隣で目を閉じてワインを飲んでいる・・・

「この場では詳しい説明は省くが、とある派閥の動きが不穏で、その息のかかった者たちがその合同軍に参入してくるようなのだ」

 ローレン卿は俺を見てからゴーに視線を移し

「そこで内部調査をしてほしい。戦乱に乗じて何かをしでかす前に防げるのならそうしてほしい。軍部の動きや豚人の情報も得られるから悪い話しではないと思うのだが」

 そしてまた俺に視線を戻し

「ケン、私はこの国の未来を案じているのだ。そのためには、信頼できる者が必要だ。だからこそ、君の右腕ともいえるゴールアを借りたい。これは私自身、そして領民の命運に関わる話だと理解してほしい」

 ローレン卿は再度ゴーの方を向いた。

 僅かな間、無言で見つめあっていた。

「・・・ケンと相談してからで構いませんか?返事はいつまでに?」

「うむ、ゆっくりと考えてくれ。と言いたいが、私は明後日には出立する。だからそれまでに決めておいてほしい。もし可能なら私の護衛として付き従い、頃合いを見てどこかの部隊に編入する手筈は整えておく」

 ゴーは立ち上がり、靴を鳴らして「ハッ」と敬礼をした。


 食事が終わり、部屋に戻るとすぐにゴーがやってきた。

 ゴーが椅子に座り話し出す前にエミカとエルも当たり前のようにやってきて、エルはベッドに腰かけた。

 俺もベッドに座り、エミカは立ったまま口を開いた。

「私のせいで不利益を被る必要はない。元々我が一族の問題にケンやゴーを巻き込んでしまっては申し訳がたたぬ」

 そう切り出したが、ゴーは

「閣下はエミカの件が無くてもおそらく依頼してきたでしょう。それに戦場の情報を入手できるのはかなり有力です」

 俺は少し酒が入っていたのもあったが、以前から感じていた事をゴーに告げる事にした。

「ゴーは立派な軍人だし、この機会に軍に戻ったらどうだ?俺なんかに仕えるってどう考えてもおかしいだろ。責任感も正義感も強いゴーが」

 ゴーは俯いて押し黙ってしまった。

「ケンにとって・・・私はもう必要ありませんか?」

 顔をあげたゴーは目に涙をためていた。

「え、いや、そうじゃなくて!そのいらないから出ていけとかの意味じゃないから!」

 俺は必死に弁明したが、エルが笑っているのでげんこつを落として黙らせた。

「そ、その、ゴーならもっとちゃんとした生き方が出来ると思ったんだ。ほら、アレックスやエータと一緒だと兵士もたくさん、こ、殺しちゃうし」

「それはそうですが、命の恩人であり、友人であるケンに付き従うと決めたのです。軍ではいいこともあったけど、イヤな思い出の方が多いのでもう戻りたいとは思えません・・・」

「そ、そうか・・・じゃ、じゃあローレン卿の件はどうする?確かに情報は欲しいし、ジンナの事も心配だから、そっちの方の話しとかも聞いてほしいけど・・・ゴーの意志を優先するよ!」

 ゴーは一瞬ニコっと笑ってから真顔になり

「軍や残した部隊が気にならないと言えば嘘になります。その確認や今の王都軍の様子などは私の中の問題なので、それを解決させたいです」

「じゃ、じゃあ行くんだな?」

「はい。しばらくお別れですね。ある程度戦線が膠着すれば離脱できると思うのですが、王都のエータ殿の所にいればまた再会できますね」

「そうだな、エータの所で・・・再会は王都だな」

 俺とゴーはそう言って握手をした。

 ゴーの手の温もりを感じた時、胸が詰まった。簡単な別れじゃない。だけど、また会える。その約束だけが、今の俺たちを支えている気がした。

「すまない、感謝する」

 エミカはゴーに対して頭を下げた。

「これで閣下も地底人の移住を断れませんね。閣下流に言えば、エミカにひとつ貸しだ」

「ああ、私や我が一族が出来る事ならなんでも言ってくれ」

 そういって笑顔の三人で固く握手をしていたが、エルは俺のベッドで静かな寝息を立てていた。だが、半目を開けて「ゴーは真面目過ぎるんだよー堅物がー」と言って目を閉じた。




 翌朝の朝食時には、既に屋敷内にゴーとローレン卿の姿は無かった。

 もう何かが動き出しているのかもしれない。

 俺に出来るのは、ローレン卿とゴーを信じて無事に再会できるのを祈るだけだ。

 いなくなってみて、ゴーが頼りない自分を支えてくれていたんだと実感した。

 ゴーが自分で選択した事だったが、俺自身がその手を手放してしまったような感覚がして、心が締め付けられるようだった。

 ちゃんとお礼を言っておくんだったな・・・

 俺はいつも肝心な時は言葉が出なかったり足りなかったり・・・

 でも、また会える。そう信じて俺は顔をあげた。


 食後、当たり前のように俺の部屋に集まった面々を前に、今後の予定の相談をする。

 てかなんで、メンバー変わっても俺の部屋なの?

「と、とりあえず、ローレン卿に地底人の事は約束してもらえたし、この後どうしよう?」

 椅子にかけていたエミカが立ち上がり、頭を下げた。

「こうも簡単に取り付けるとは思っていなかった。無理難題を申しつけられる覚悟はしていたが、一族を代表して、ケンの手腕に感謝する」

「あ、うん。も、もうお礼は大丈夫なんで・・・俺特に何もしてないし、ゴーが頑張ってくれると思うし・・・」

「ゴールア殿にも感謝と謝礼をせねば」

 エミカは遠くを見ている・・・。

 俺の隣でベッドに腰を掛けているエルが

「エータの旦那は仕事が早いから、もう王都で待ってるんじゃないっすかね?」

「あーやっぱり王都に戻るのがいいかー」

 俺はぼんやりとした気分でそう答えたが

「では準備をして出発しよう」

 エミカとエルは席を立って部屋を出ていった。

 アレックスは目を閉じて座っている。

「あ、アレックス。なんかいつも俺が決めてるけど、これでいいのかな?俺不安で・・・」

 目を開けてアレックスは俺を見て

「・・・お前の選択をお前が信じなくてどうする?」

 うーなんか胃が痛くなってきた。

 アレックスは俺の頭を乱暴に撫でて

「・・・お前の『仲間』はお前を信じている。俺もだ」

 そうだ。俺はこんなだけど、みんなが助けてくれる。

「そうだね。じゃあ準備しよう」

 俺は笑顔で立ち上がった。


 ちょっと早かったけど、もう準備しているので昼食を食べて行ってくださいとベイツさんに促されて、食事を取ってから出発した。

「エミカさまはじめ、地底人の方々がいつ来てもいいように準備を進めておきます。ですので、皆さまご無事でまたお戻りください」

 そう言って見送られ、俺たちはローレン領を後にした。

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