貧民街
王都に侵入したケンたち。
移動した先に待つものは・・・
ゴーとエルに連れられてかなり歩いている。
王都の城壁内だが、最初は住宅街を抜けていたようだが、段々と人気が無くなり、手の入っていない家々が目立つようになり、大きな城壁が間近に迫る所まできた。
周りは崩壊した家や、無理やり素人が増改築したような建物ばかりだ。
地面も僅かに石畳が残る泥水のたまる荒れた道。ヨタヨタと歩く痩せた野良犬と地面に寝転んでいる半裸の老人が目に入る。
一件の廃墟に入り、ゴミが放棄されているのか、何かよくわからない物をかき分けて奥に進んで軋むドアを開けた。
「ケン!無事に合流できたな!」
地面に座るエミカは、明るい声で俺を見上げていた。
室内には灯りはないが、壁に開いた穴から外の光が入り十分に見渡せた。
物の無い穴の開いたフローリングの部屋は案外広く感じた。
「エミカ・・・ここは誰かの家なのか?」
俺はエミカにそう聞いたが、下の方からエルが答えた。
「ここはあっしが交渉して手に入れた部屋ですぜ!」
胸を張って答えるエルをゴーは無言で睨んでいる。
「エータは?」
「まあ狭い我が家ですが、くつろいでください。座って座って」
エルにそう言われて俺たちは部屋に入り、地面に座った。
「ここは王都の貧民街です。街の掃きだめのような所です・・・」
ゴーは苦虫を噛むような顔でそう告げてきた。
エルとエミカの話しも交えた情報をまとめると
エルとエータはここの近くの枯れた井戸が王都の城壁外に繋がっている事を発見し、それに連なる地下道があった。
おそらく、過去に違法薬物などが王都で蔓延した時などに利用していた秘密の通路のようで、その時からこの周囲は廃れていったようだ。
エルが「交渉で入手した」と言っていたこの家というか部屋は、残骸に埋もれた廃墟を勝手に出入りできるようにして居座っているだけだった。しかも実労はエータ。
ゴー曰く、ここに住んでいる人は後ろめたい人しかいないとの事だった。
「当面はここを拠点に地下道付近にある遺跡の探索をするようです。エータ殿は遺跡の下調べをしてくるので、私とコイツがケンを迎えにいったのです」
「ゴーの旦那!なんであっしだけ、いつまでもコイツ呼ばわりなんすか!?」
俺はなんだかんだ仲がいいと思っている二人はワイワイと言い合いをしている所でエータが返ってきた。
「合流できたようだな。それでは今後の計画について話し合おう」
俺はエータに再会できてほっとしていた。
エータの説明では、地下通路の分岐の先に遺跡があるのは間違いないようだ。
しかし、先に続く通路は崩落しており、他の侵入経路も無い。
地下を地道に掘り進むしかないとの事だった。
「大きな岩盤もあるようだ。掘削して進む事は可能だが、掘った瓦礫をどこかに廃棄もしなければならない。通路自体は人がすれ違える程度の広さしかない」
そこで言葉を切ったエータは俺を見た。
「君に何か案はあるかね?提案なのだが、吾輩一人がここで掘り進めている間に君たちはエミカを連れてセバスチャンに交渉に行くのはどうかね?」
俺は少し首を傾げて考えた。
「ええと?俺たち全員で掘り進むよりも、エータ一人でやったほうが効率がいいとか?」
俺が、なんとなくで答えた答えにエータは俺の肩を「バン」と叩き
「その通りだ。まさか君が的確な回答を導き出すとは思わなかった」
俺は褒められてるのかけなされてるのか、わからずに神妙な顔をした。エルが見上げて笑っている。
「多角的に計算し、君たち全員の業務の分散なども配慮したが、昼夜問わず休息や食事も不要な吾輩に勝る労働力は無いとの結果だ」
確かにエータが単純作業した場合、勝てる存在なんて産業用のロボットくらいだろう。
でも、エータ抜きでローレン領に言ってちゃんと地底人の事を説明できるか、不安になってきた。
「エータがローレン卿に話さないで大丈夫かな?俺はうまく説明できないよ・・・」
「心配は不要であろう。君はエミカを紹介すれば、彼女は君より論理的且つ建設的に会談を進めるだろう」
エータの的確な判断で、俺は喜んでいいのか、落ち込んだらいいのかを悩んだが
「じゃ、じゃあエータを残してみんなでローレン領に行って、地底人の話しをして、それからここに戻ってくればいいのか?」
「そうなだが、ローレン領に赴くのが必須なのは君とエミカだけだ。護衛や通行の融通を考えてアレクシウスが同行すれば事は足りる」
「え?じゃあゴーとエルは?」
俺はゴーとエルを見た。
「彼らには事前に伝えてある。吾輩と共に王都に残り情報収集するも、君たちとローレン領にいくのも自由意志でよいと」
「あっしは兄貴についていきやす!」
エルは元気よく手を上げていった。その後ろのゴーは暗い顔をしている。
「王都の情勢や軍の動向が気になりますが、私も同行します」
そうしてエータだけを残して王都を出る事になった。