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新しい馬車

王都に向かう前に新しい馬車を調達したいケン達。

そして・・・

 翌日、馬車職人の所へ向かうと馬車は完成していた。

 そう見えたのだが、職人は馬を繋ぎ走って見せろといい、それに従った。

 俺は馬車に乗っており、衝撃の少なさや音の静かさに感動していた。

 だが、職人は何かが気に入らないようで

「明日の朝までに仕上げる」

 そう言って馬車は翌日に引き取ることになった。


 夕食時に今後の予定を話し合っていた。

「ゴーは王都までの行き方はわかるのか?」

 俺は地理もまったく頭に入っておらず、エータと別行動になっていたのを思い出した。

 今まで全てエータ任せだったが、この後合流できるのか?

 明日馬車を入手して旅立つことに不安になっていた。

「大丈夫ですよ。石畳の街道を進んでいけば必ず王都方面の看板は出ていますから」

 ゴーは当たり前のようにそう答えた。

 ま、まあ俺は文字が読めないけど、アレックスもエミカもいるから大丈夫だろう。

 エータはどうやって俺たちを見つけるんだ?まあエータこそ心配いらないか。

 そうして翌日、馬車を取りに行った。


 朝食を済ませ、宿の支払いをして馬車職人の元へ行った。

 しっかり仕上がったようで、もう見なくてもいいそうだ。

 馬を繋ぎ王都に向かった。


 曇り空だったが、風が心地よかった。

 王都方面に向かうなら食料もそれほどいらないとゴーに言われており、馬車は荷物も少なく軽快に進んでいた。

 途中、街道沿いの東屋で馬を休ませて食事休憩の時にゴーが

「おそらくですが、この馬車、馬が疲れにくいように設計されているような気がします」

 真剣な顔でそう言っていた。

 俺はシロンを引いて草を食べさせて「疲れてないか?」と聞いたけど、いつもどおりの無反応だったが元気そうだった。


 ゴーはエータお手製の地図を見ながら

「日暮れまでには次の街につけますが、少し早いですね。野営でもいいなら距離を稼げますが?」

 そう言って俺を見た。アレックスもエミカも俺を見る。ああ、何故かわからないけど、決めるのは俺のようだ。そういう事に決まっているので諦めよう。

「え、エータもどこにいるのかわからないし、急いだ方がいいのかな?ゴーはどう思う?」

「どうなんでしょう?エータ殿が合流するなら屋外の方がいいような気もしますが」

 ゴーにそう言われるとそんなような気もする。けど、ベッドで眠りたいのです・・・

「ど、どうなんだろう・・・アレックスとエミカはどう思う?」

「・・・なんでもいい」

「私はケンの決定に従う」

 いつも通りですね、ありがとうございます。

「じゃ、じゃあ女の子のエミカもいるし、宿に泊まろう!」

 ゴメンエミカ。言い訳に使いました。

「ケン。女子扱いしてくれるのは嬉しいのだが、私は野営でも良い。ケンが命じるなら寝ずに見張りもやる。私など過保護にする必要はない」

 何か怒らせちゃったっぽいです。女心どころか人が何考えてるかもよくわからないのです。

「ご、ごめん。で、でもエミカは将来子供を産まないといけないんだから、もっと自分を大事にしたほうがいいよ・・・いいと思います。はい・・・」

「・・・ケン。君はそこまで考えて・・・私が浅はかだった。謝罪する」

 頭を下げるエミカ。キラキラした目で俺を見るゴー。何か遠くを見ているアレックス。

 ど、どうしたらいいんだ?ジンナ助けてくれー!

「と、とりあえず街を目指そう。うん。出発しよう」

 俺は目を泳がせながら馬車に乗り込んだ。


 しばらく街道を進むと外壁に囲まれた街についた。街と言うか砦みたいに見える。

 俺は御者台のゴーの隣に座っていた。

「城塞都市ですね。王都の周りには多いです。私もここには初めてきますが」

 街に入るのに通行税がかかるらしく、お金を払って城門をくぐった。

 物々しい城壁や門だったけど、街中は案外平和そうに見えた。

「思ったよりも普通の街でよかったー」

 街中の大通りを進みながら俺がそうつぶやいたが、隣のゴーは険しい顔をしていた。

 俺はその顔にビビって小声で「ど、どうしたんだ?」と尋ねると

「兵士が少なすぎますね。南都の鎮圧と東部へ戦力を送っているのでしょう」

「な、南都は・・・反乱か。やっぱりゴーは東部が気になるのか?」

 俺が聞いてもしばらくゴーは黙っていた。

「気にならないと言えば嘘になります。ケンについてきた事は間違いではないと思っていますが、しっかり任務を引き継いでこなかったのが心残りです・・・」

 俺についてきたのは間違いでは・・・そんなこと神妙な顔のゴーの前では言えない・・・

 ゴーは真面目だし、強いし、頼りになるし、いなくなるのは困る。ちょっと脳筋なのがアレだけど。

「も、もし、戻る機会があるなら戻っても・・・」

 俺がそう言いかけたら、こちらを向いて「ニカ」っと笑い

「かつての部下を信じます。私の使命はケンと共にあることです!」

 何か胸に右こぶしをあてがいポーズを決めています。名前をつけるなら「誓いを新たに」みたいな感じです。暑苦しいです。

「あ、うん」

 俺は前を向いて適当に返事をしておいた。


 馬車を預かれる大きな宿に入り、俺たちは夕食をすませてくつろいでいた。

 荷物を整理したり、ゴーとエミカは武器の手入れをしていた。

「・・・エータが来た」

 突然アレックスがそう言ったので、俺は椅子から立ち上がり、ドアの方を見た。ゴーとエミカも見ていたが、窓からエータは進入してきた。

「君たちは感知能力がないのかね?私が刺客なら死んでいる」

 いや、エータが刺客だったら倒せない相手はアレックスくらいじゃないのか?

 そんな事を考えて挨拶もせずにエータは本題に入った。

「王都に進入できるルートを見つけた。王都は人外に対して排他的なので避けていたのだが、存外警備は緩いのだな。僅かなシグナルを王都地底部よりキャッチした」

 少しゴーがムッとしていたが、俺はエルがいないのが気になった。ま、まさかとは思うけど・・・

「え、エータ。エルは一緒じゃないのか?」

「エルロットには任務を与えておいた。既に王都内部に潜伏しており、活動拠点の確保と情報の収集に当たらせている」

 ほっとして椅子にへたり込んだ。

 エータは全く気にせずに話しを続けた。

「吾輩とエミカは正規ルートを使わない方が良いであろう。アレクシウスを介して馬車をセバスチャンの王都邸宅に預けるのがいいと思うがどうかね?」

 排他的な王都では地底人のエミカは迫害を受けるのだろうか?

 王都に入るのは厳しい取り調べがあるのか?

 俺は気になったけど言葉にはできなかった。

 あれ?またみんな俺の事を見ている?

「何か質問があるのかねケン。疑問は晴らしておいたほうが後の行動が迅速になる」

「え?ええと、王都に入るのに何か厳しい取り調べがあるのか?」

「この街に入るのと同じだ。通行税を払い、要件を伝えれば入れる」

「え?じゃあエータもエミカも一緒に馬車に乗っていけばいいじゃないか。それと、ローレン卿の家?があるならそこを借りられないのか?」

 エータは首を傾げ俺に一歩近付いた。何か既に怒られている気分がする・・・

「ふむ。君は忘れたのかね?君はどうやってこの世界の言語を理解したのかね?」

 俺も首をかしげて思い出した。エルフの魔法使い。エータ曰く「異能者」だ。

「異能者がいて人間以外を見つけられるのか?」

「君の記憶障害の疑念が晴れてよかったよ、ケン。おおむね各門に異能者を配置しているとみて間違いない。三百年程前の指名手配犯の取り締まりはしてないであろうが」

 やっぱりそうなのか。三百年前の話しは多分エータが何か事件を起こしたのだろうからスルーしておく。

「それとセバスチャンの家屋から出ないのなら、君の言う案も悪くはない。行動を起こすと何かしらの実害をセバスチャンが被る可能性は高い」

「あ・・・」

 ローレン卿の家に出入りして、何か問題を起こすとローレン卿に迷惑がかかるのか。

 俺は自分の考えの浅はかさに情けなくなった。いつも自分の事しか考えていない。人に頼る事しかしない。

「後の事を考え、馬車と馬だけを預けるのが最適だと思うがどうかね?宿やうまやの利用も同様の理由から鑑みて、利用を避けるべきであろう」

 俺は俯いた顔を上げれなかった。いつも理論的に考えて最適解を出すエータの顔が見れなかった。

「しかし、君との質疑でゴールアやエミカも理解したのは今後の行動が迅速に進むであろう。理解したな、ゴールア、エミカ」

「ケンと別行動になるが、致し方ない。ご武運を」

 エミカは足を揃えて敬礼した。い、いや今すぐ別行動じゃないんだけど・・・

 俺は顔を上げてエミカの顔をまっすぐ見て返事をしようとした。

 隣のゴーの顔を見て噴き出した。

 何故かうつろな目で口を半開きにして、すこしよだれが出ているように見える。

「ぶっ!ご、ゴー!しっかりしろ!なんだその顔」

「・・・はっ!?あ、いや、エータ殿に理解したかと言われたのですが、何がどうなのか・・・」

「あ、ああ。いつも通り馬車を指示通りに進めてくれれば大丈夫だ」

「はっ!ケンの指示通りに行動します!」

 キリッと敬礼するゴーに唖然とした。

 コイツ軍略とか地図とかすぐ理解できるのに、なんかたまにボケてる・・・さすが脳筋。

「ま、まあよろしく頼んでおきます。で、出発はいつするんだ、エータ?」

「さすがに夜間は馬車を出せないし門も閉じている。明日の朝準備が出来次第でよいであろう。王都には日没前くらいに到着するのが理想ではあるな」

 細かい指示は移動中に個別に伝える事になり、その日は就寝した。

 きらびやかな異世界の王都を想像して、楽しみだった。

 けれど、またエータが別行動でエミカもいないと思うと不安がこみあげてきた。

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