いざ、王都へ
王都を目指す事に決まったケン達。
馬車を調達することになるが・・・
翌日もここで休暇するのかと思っていたのだが、別動隊で行動する事になった。
馬車を売ってくれる人はなかなかの職人気質なようで、引く馬を見て調整すると聞かなかったそうだ。それで馬を連れてくるといい、俺とゴーとエル、エミカが先行するのかと思ったのだが・・・
「吾輩とエルロットは先行して王都周囲を把握してくる。ここを拠点にしてもよいが、馬車を入手した後ではここまで馬車は進入できないであろう」
俺は小屋の前の道を見て、確かに馬車が通るには狭いし、道はボコボコだ。
「状況から見て、事前に街道や馬車が通れそうな経路を確認しておくほうが効率的だと思うのだがどうかね?」
「え、あ?え?あっしは?え?」
何も聞かされていなかったエルはキョロキョロとみんなの顔を伺っているが誰も目を合わせない・・・
大きな荷物をアレックスが担ぎ、残りは馬に分散して積み、俺たちは出発した。
「馬車を手に入れたら街道を王都方面へ向かってくれたまえ。吾輩が補足する。合流予定は三日後だ」
そういって手を上げるエータの横で悲壮な顔のエルは手を健気に振っていた。
あらかじめ地図を渡されていたゴーについていくと案外すぐに街道についた。
さすがに街道で馬を走らせる横で大荷物のアレックスが爆走するのはまずいと思い速度を落とした。
昼前には街についたが、小さな街で馬車の整備をしている木工所のような所はすぐにみつかった。
お店の人との対応はゴーに任せておけばいいやと思っていたが、白いヒゲの生えたおじいさんは無駄な事は一切話さなかった。
「こんにちは。先日馬車の件で来た者の同行者ですが、馬車を売っていただけるのはこちらですか?」
職人は返事もせずに一度顔をゴーや俺たちに向けただけだった。
その後に三頭の馬の体をペタペタ触って
「この小さいのが真ん中でコイツが右でコイツが左だな」
「ええ、そうです。よくわかりましたね」
「金は前金で半分貰ってるが、残りは終わった時に言う。明後日またこい」
ゴーは渋い顔をしていたが、俺は「この人に任せれば大丈夫だろう」と思っていた。
その後、宿を取り部屋に入った。
特別に何かあった訳ではなかったが、俺は疲れていた。
久しぶりにベッドに横になってほっとしていた。
小さな街にありがちな宿兼酒場というか食堂のような所で、夕食時には食堂へ向かった。
テーブル4席とカウンターがあるこじんまりとした作りだった。
壮年の男二人だけが客でいた。
俺たちはテーブルで食事をしていたのだが、壮年の男が近付いてきてゴーに向かい
「あんた兵隊なのか?一杯おごるから少しだけ話しを聞かせてもらえないか?」
そう切り出してきた。
ゴーは「軍人ではないが、かつて兵に関わる仕事をしていた」そう言って断ったのだが、壮年の男は人数分のお酒を既に注文して店員にお金を渡していた。
「質問に答えてくれるだけでいい。イエスかノーか黙秘でも構わん」
そういって強引に話しを進めていた。
そのおじさんの話しはこうだった。
自分達の命に関わるかもしれないから、豚人との戦争や南部の反乱、それに伴って治安が悪化しているのではないか。知っている事を教えてほしい。だいたいそんな感じだった。
ゴーは「もういい年なのに、そこまで命が惜しいのか?」と聞くと、昨年孫が生まれたんだそうで、「俺はどうでもいいが、孫は無事でいてほしい」との事だ。
ゴーは一度俺に目くばせをして許可を求めていたから俺は頷いて許可をだした。
あんまり自信はないけど、多分そうなはずだ!多分・・・
あくまでゴーの見立てではと前置きをしてから
「豚人との戦争は長引くかもしれない。南部の反乱は真実で、場合によっては豚人の侵略を早める原因になり、戦火が広がるかもしれない。ここまでは今すぐどうこうはないが、逃げるアテがあるのなら逃げろ。治安は戦争次第で悪化する」
そんな説明をしていた。
話しを聞いていたおじさん二人組は溜息をついて
「やはりそうなのか。ありがとう」
そういって二人で話し込んでいたが、俺は怖くなってオロオロしていた・・・
俺は部屋に戻ってからゴーにさっきの話しを聞いてみた。
「あくまで個人的な見解ですけどね。私は一応東方で豚人を抑えるのが仕事でしたから。去年から豚人の動きは活発です」
「え?ど、ど、どどうしよう・・・」
俺は息苦しくなったように感じた。少しだけ手が震える。
「今すぐどうこうは無いから大丈夫ですよ。私がケンを守ります!」
ゴーは笑顔でそう言った。続けてエミカが
「私もケンを守る!この命に変えても!」
何故かゴーを睨んで言ってますが、色々と間違えてませんか?
何か対抗意識みたいなのがあるのでしょうか?「私だって・・・」とつぶやいていますが・・・
「・・・豚人を皆殺しにすればいいのか?」
何故かアレックスまで話しに乗っかってきた。
「あ、アレックス!そ、それは・・・いやそういう意味じゃなくて!」
俺は落ち着いて少し笑った。
「あ、いや、俺が小心者だから勝手にビビってるだけだから。なんか、ごめん・・・ありがとう」
そうだ、俺は弱くても頼れる仲間がいる。って言うかアレックスに前も守ってくれたし、大丈夫だろう!
そうして街での一日目は過ぎた。
明日にはまた別の出来事が待っているだろう、そんな予感を感じながら眠りに落ちた。