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連れ去られるエルと乗馬の練習をするエミカ

東方を諦め、王都を抜けて北方を目指す事に決まる。

偵察を待つ間、ケンは・・・

「あ、兄貴!た、助けてください!お願いします!」

 エルは鼻水と涙を流しながらエータに担がれている。

 俺は目を逸らし「が、がんばってくれ。き、気を付けて」と言って見送った。

 エータとエルはあっという間に見えなくなってしまった。がんばれエル・・・

 そうして見送りを済ませた俺はシロンの元に来ていた。

 ゴーのテツやエルとエミカを乗せたアミもブラッシングをしてから、順番に柵の外にだして草を食ませていた。

 ゴーとエミカは食料の採取や保存食の作成をすると森に入ったり何かを作ったりしていた。

 アレックスは意外にも小屋の掃除や穴の補修などを手慣れた手つきでしていた。


 昼食時にゴーは馬具を整備すると言っていたのだが、エミカが

「馬の乗り方を教えてほしい」

 とゴーと俺に頼んできた。

「人に教えるのは自身の知識や技術の向上にも繋がりますよ」

 ゴーにそうそそのかされて俺はエミカに乗馬指導することになった。

 正直教えられる技術も知識もないんだけど・・・アレックスも隣で見守ってくれているのでやってみることにした。


 木々のある細い道だったが、鞍を付けたアミにエミカを乗せた。

 アミにまたがるエミカは明らかに緊張して、全身に力が入っていた。

 手綱を握る俺は下から見上げて「ああ、俺も最初はこんなだったのか」なんて思い、自然と笑みが出てしまった。

「・・・力を抜け。馬にまかせてしまってもよい」

 アレックスは木立で腕を組んでそう声をかけていた。

「エミカ。緊張すると馬も不安だから、アレックスの言う通りリラックスして」

 アミの顔を撫でながら

「この子は優しい子だから大丈夫。少し綱を引いて歩いてみよう」

 声を掛けながら一緒に歩いていると馬もエミカもリラックスしてきたのがわかった。


 しばらく綱を持ったまま一緒に歩いていたが、もう大丈夫だと思い

「少し一人で操作してみて。手綱は一気に引かないでじわっとゆっくりと」

 そうして簡単に操作を教えたらすぐに乗れるようになってしまった。

 もう細い道を行ったり来たり走っている。様子を見に来たゴーが

「上達が早いですね。ケンの指導がうまい」

 そう言っていたが、俺はエータに言われた「才能が無い」と言う言葉を、短期間で馬を乗りこなすエミカを見て、思い出して少し落ち込んでいた。

「しかし、エミカが一人で馬に乗れてしまうと、エルは本当にエータ殿に走らされるのではないか?」

 何故か嬉しそうにそういうゴーの顔を見て、エルがかわいそうと思いながらも今朝のエルの顔を思い出して笑ってしまった。


「あまり馬を疲れさせたら・・・」

 そうしてエミカの乗馬練習は終わった。

「だいぶ乗れるようには感じたが、思った通りに動かせないものだな」

 アミの顔を撫でながらエミカはつぶやいた。

「いやぁ、十分上手だよ。俺は初めて乗った時に落馬してエータに怒られて、それでも全然上達しなくて・・・」

「け、ケン!!泣かないでくれ!君の的確な指導があってこそだ!」

 涙ぐむ俺の頭をアレックスは乱暴に撫でて、エミカに慰められて俺は余計に情けなくなった。

「・・・おーい!」

 そんな中で遠くからエルの声が聞こえた。道の向こうからすごいスピードで背の高い人影が迫ってきた。

「あはは!コイツはすげえや!馬どころじゃない!」

 エータに肩車されてエルははしゃぎながら帰ってきた。

「君はバランス感覚に優れているから吾輩も負担無く速度を上げることができた。これは大きな収穫である」

 エータは満足げに頷いていた。その肩からエルは軽快にひらりと飛び降りて

「もどったぜ兄貴!あれ?また泣いてたのか?はは」

 テンションの高いエルは俺の顔を指さして笑い出した。

「ケンは私に馬の乗り方を教えてくれていたのだ!笑うな!」

「・・・ケンを侮辱したら殺す」

 エミカとアレックスは俺とエルの間に入ってそういった。

 エルは泣きそうな顔になっていたが、過保護にされている俺も悲しい気分だったが、なんとかしないとエルの生命の危機になりそうだ。

「お、おかえりエル。二人とも俺は大丈夫だから、そんなに怒らないであげて」

 俺がエルに近付くとエルは二人から俺の影に隠れて顔を見上げて

「あ、兄貴!?な、何かあったんすか?そんなに殺気立たなくても・・・ねえ?」

「茶番は済んだかね?今後の予定を説明するので皆集まってほしい」

 エータは淡々と言い放った。俺たちはエータに続いて小屋に向かった。


「この先の集落で馬車が出に入る算段がついた。ただ、整備や調整をするので二日ほど猶予が必要との事だ」

 エルとエータの補足説明では、ここから50キロ強の距離にある街道沿いで、それほど大きくない街だそうだ。住民の間で豚人との戦争や、南都での反乱などの噂は既に広まっており、街の警備増強や兵士の駐屯を国に要請しているとの噂もあるらしかった。

「実際には兵を増員することはないでしょう。前線を優先するはずなので。ですが、警戒はしておいたほうが無難ですね。警備網はどこにあるかもわからないし、いらぬ争いはさけましょう」

 ゴーの意見は兵士側の視点なので、わかりやすかった。

「馬車を手に入れた後なのだが、王都の西側は警戒が薄い可能性が高い。街道の整備状況や物資の補給を鑑みると王都を経由して北上するのが効率的だと思うがどうかね?」

 エータは既に次の段階まで考えて計画を練っているようだ。

 だけど、「どうかね」と言われても俺にはわからないのです。みんな期待した顔で俺を見ないでください。顔の横を汗がつたうのがわかった。

「う、うん。エータの計画には間違いはないと思うからそれで行こう・・・」

 俺は自信なさげにそう答えたが、エルとエミカは「王都が見れる」と喜んでいた。

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