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王都を目指して

豚人と軍の争いで進路変更を余儀なくされたケン達。

王都を目指し、南都に入ることになるが・・・

 俺たちは北上する街道を進んでいる。

 王都を抜けて北部に位置するローレン領を目指している。

 段々と雄大な自然の風景減り、人の手が入った畑が多くなり、風車や水車や大きな倉庫などもちらほら見て取れるようになってきた。

 あらかじめエータから「王都に近付くほど人外を受け入れない」と聞いていたので、俺は不安だったのだが、異世界のきらびやかな都市というのが楽しみになっていた。

 なのだが・・・


 太陽が傾き、空が赤くなる頃に俺たちの馬車は城壁に囲まれた大きな街に入る事になった。

 門があり、門番がいるのでエルは先行せずに入門の手続きを行う列にならんだ。

 馬車は30台ほどならんでおり、大きな荷物を持った徒歩の人もちらほらと見かける。

 門の前には長い槍を持った兵士が数名おり、人だかりもできている。

「な、なんかすごい並ぶんだね。やっぱり都会は違う・・・」

 俺は御者台のゴーの隣に座ってそうつぶやいた。

「おかしいな・・・夕刻は確かに混雑するが・・・不穏な気配がする」

 ゴーの返事に俺はビビり、小さな声で

「な、なにが不穏なんだ?ご、ゴーはここには来た事あるのか?」

「ここは南都ナリシア。別名花の都などと呼ばれる美しい街だったはずです・・・」

 ゴーは口では返事はしたが、顔は前を向けたまま目を細めて門の方を探るように見ている。

「進んでいない・・・門を閉じようとしている?」

「え!?ご、ゴー!逃げよう!」

「いや、ここでおかしな行動をした方が怪しまれます。しばらく待機して・・・」

「ちょっと様子を見てきますぜ!」

 御者台に座る俺とゴーの間にいつの間にか座っていたエルはそう言って馬車を飛び降りて前に並ぶ馬車の列をすり抜けて走っていった。


 俺はゴーと並んで上の空の会話をしながら、そわそわしてエルが戻るのを待っていた。

「戻りましたぜ兄貴!」

「あひぃ!?」

 俺は座った姿勢のまま飛び上がった。

 何故か後ろから馬車の幌をそっと開けて声を掛けたエルにビックリしたのだ。まだ心臓がドキドキしている。

「へへ、いい驚き方っすね!」

「え、エルお前!わざと脅かしたな!?」

「まあ緊張もとれたなら後ろでエータの旦那も混ぜて報告しますんで」

 そういうエルに一瞬怒りそうになったが、「いつも俺だけがビビっている。エルもしっかりと自分の役目をはたしている・・・」そう思うと落ち込むと同時に冷静になれた。


 エルの話しでは、街の中ではもめごとが多いらしい。

 事の発端は商人の品物を買いたたく兵士達と安く売りたくない商人たちとで口論になったが、次第に大きくなっているようだった。

 まだ暴動や刃傷沙汰にはなっていないようだが、商人たちが傭兵を雇っているなどの噂もあり、入門が厳しくなり、そこでもまたもめているのだとか。

「南部は過去にも王都にたいして反乱を起こしたりと気質的に王都をよく思っていない人も多いですからね」

 ゴーは神妙な顔でそう言ったので、俺は

「あ、ゴーが昔に反乱の鎮圧とか言っていたのはここなのか?」

「ここではありませんが南部です。南部では頻繁に武力蜂起はありますね。豪族だったり大商人だったり、時に街人が団結して決起したり」

 俺はものすごく不安になった。だ、だれだこっちに来るって決めたヤツは!俺だった・・・

「豚人との戦争が大きくなると予想した王都軍は各地でこう言ったことをしているのでしょう。私も軍に所属している身としては『命をかけて民を守る為なのだから協力して当たり前』だと思っていたのですが・・・」

「同族の危機に同族同士で争うなど、敵の利益にしかならないではないか。君の考え方は間違っていない」

 神妙な表情のゴーに、エミカはそう言っていた。なんか合理的すぎてエータみたいなんて思っていたのだが

「エミカのいう通りだ。地底人のように合理的な思考を持たず、団結できない地上人など実に愚かだ。自己の利益しか考えない商人。当たり前のように奪う盗賊のような兵士。いっそまとめて滅ぼしてしまうのはどうかね?」

「え、エータ!それは無しだ!い、今はこれからどうするかを考えよう」


 俺たちが馬車の中で話し合いをしていたが、馬車の列はまったく進んでいなかった。

 もう日も沈みかけている。

 数台の馬車は列を離れ、街道も戻っていったり、少し離れた所で野営の準備を始める人たちも出始めていた。

「待っていても進まないし、引き返すか、この辺で野営してからまた明日の朝に並ぶか・・・」

 俺はそう言ってからふと

「街に無理してよらなくてもいいんじゃね?」

 そう思った。目的地は王都でもこの南都でもなく、北部のローレン領なのだ。

「え、エータ。わざわざここでもめごとに巻き込まれるよりも、回避して遠回りでも進んだ方が早いんじゃないか?」

「君にしては合理的な思考だ。食料の補給をしたかったのだが、狩猟や採取をすれば無補給でもローレン領にはたどり着けるな」

 俺は前に食べた昆虫の煮物を思い出して、苦い味が口に広がった。

「補給はできる時にしよう。とりあえず今日は野営しないか?」

「そうであるな。ここでは吾輩やエミカの姿を見られる可能性が高い。よって少し移動しよう」

 そう決まり、御者台にゴーは戻り馬車を移動しようとした時に

「そこの兵士!」

 外から大きな声がかかった。ゴーは常に兵装なのだった。

 俺はビビりながらも馬車の幌をちらっと開けると6・7人くらいの茶色い革鎧の人が槍を持って近付いてきた。

 おそらく兵士たちは巡回か何かで馬車の列を見て回っている途中でゴーの姿を見つけたようで集まってきた。

「貴公は兵の補充か?兵站の輸送か?」

「どこの所属だ?」

「ま、まて・・・俺見たことあるかも」

 兵士達が騒ぎ出したから、周りの馬車からも顔を出して見ている人が出始めてしまった。

「私は東方師団のゴールアと申す。特命を受け貴人の移送を承っている」

 ゴーは手短に堂々と応えた。それを聞いた兵士の一人が

「東方師団のゴールア・・・鉄腕のゴー分隊長では?」

 それを聞いた兵士は一斉に敬礼をして挨拶をはじめだした。

「ゴー隊長!申し出てくれれば、このように並ばなくてもよかったのですが・・・ものども!道を空けよ!」

 馬車の列を強引に開き、俺たちの馬車は城門の中に誘導されてしまった。

 なんか嫌な予感しかしないのですが・・・


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