襲撃者との戦闘と白の変化
「はぁ~疲れた。でもこうしないと確実に倒せなかったし。夜陰教団の中でも強い方の奴だったのかなぁ。」
ディメンショナルクレアールとラオムディテクションを解き、元に戻ったシエルは伸びをしながらつぶやいた。
魔法による暴風の渦に包まれたペイルは既に消滅しており、その跡に目を向けた後シエルは白が戦っている方の音が気になっていた。
「白、苦戦してそうだなぁ。白が戦ってる相手ってフォルカスでしょ、行ってあげたいけど私が行っても足手まといになりそうだし...。ま、大丈夫か。私は早くお兄ちゃんの所に言って褒めてもらおっと。」
白のいる方向から目をそらし、褒めてもらうことを想像しながら嬉しそうにソイルのいる方へと歩いて行った。
初めに襲撃され、白と襲撃者は既に戦闘を開始していた。
「スパイラルフレア」
「滝撃、水纏:斬淌」
螺旋状の炎を放った襲撃者に対して中規模の水球を放ち相殺させると、大量の水蒸気が発生した。
その水蒸気に紛れながら何処からか出現した槍で攻撃を仕掛けた襲撃者に対して、その攻撃を水妖力を纏わせた刀で受け流しながら斬撃を放った。
しかし白が振った刀は先程とは違うが、突如出現した槍によって防がれてしまった。
互いに少し距離を取り、襲撃者は先程出した二つの槍以外に三つほど追加で槍を出現させた。
襲撃者は白の対応や攻撃に感心したように発言し始めた。
「流石は賢者か。だが私の敵になるほど強くはないようだな。」
「煽りですか?でも残念でしたね、私には勝てる未来しか見えていないので、効きませんよ。」
白は襲撃者の慢心したような発言を煽りと受け取ったが、ニヤリと笑みを浮かべて返した。
すると襲撃者は出現させた三つの槍を白に向けて放った。
正面からくる二つの槍を刀で左右に打ち払い、三つ目の槍を上空へと打ち上げた白は襲撃者に斬りかかった。
襲撃者は一つの槍で攻撃を受け止め、もう一つの槍を白の頭上から落とした。
頭上の槍に気付いた白は後方に回避した後、妖術を放った。
「波状水刃。水纏:蒼澄遊撃」
打ち払われた槍が自身に向かってきていたため、妖術を使用し自身を中心として球形に3度水の刃を放ったが、槍は妖術がまるで無かったかのようにそのまま白に向かってきた。
その為白は急いで水妖力を刀に纏わせ、自身に向かってくる攻撃を刀で斬っていった。
斬られた槍は消滅したが、槍が妖術に触れなかったことに対して思った疑問を、襲撃者に聞いてみることにした。
「私の妖術にその槍が触れなかったんだけど、もしかして特異能力だったりしますか?」
「...まぁよいか。そうだ、私の能力によって出現した槍は魔法や妖術、物質まで貫通させることが出来る、“貫鋭”というものだ。どうやらお前の刀には私の能力は関係ないみたいだが。」
2人は一旦攻撃の手を止め、襲撃者は白の疑問に対して素直に答えた。
自分の特異能力が効かない刀の方に、襲撃者は興味を持っていた。
相手が自身の能力について教え、手の内を明かした為、こちらも何か話そうかと思ったが、白は刀について分かることが無く、意図せず情報を相手に渡す事は避けられた。
「この刀は私が生まれた時に突然現れた物だって聞きましたし、何か特別な刀なのでしょうか。」
「持ち主ですら分からないのか。ではお前を殺した後でその刀について調べるとしよう。」
今度は先ほどまでの槍ではなく、巨大な槍を生み出した襲撃者は、その槍に炎を纏わせて白に向けて放った。
その槍を横に回避した白だったが、槍は急に方向を変えてこちらの方へと向かって来た為、白は刀で槍を防いだが、勢いが収まらずそのまま建物の壁に激突してしまった。
砂埃が舞う中、槍を打ち払った白は襲撃者へと距離を詰め、刀を振り下ろして攻撃した。
「水纏:一水」
「ネグロアルカ、イフェスティオ」
刀の攻撃を後方へ回避し、白を闇魔法による黒い箱のようなエリアに閉じ込め、その箱の下に魔法陣を展開させると、そこからまるで噴火のように上に向かって炎を放出させた。
しかし魔法が収まる前に襲撃者の背後から声が聞こえた。
「風纏:斬颲」
「クッ...バーストクリムゾン」
刀によって腕に切り傷を負わされた襲撃者だったが、後方に退避しながら白との間に、炎属性の赤い爆発を起こす魔法を展開した。
爆発の規模はそこまで大きくなかったが、互いの距離を離すには十分であった。
切り傷を負った襲撃者と爆発のダメージを僅かに受けた白は互いに構えると、それぞれ技を放った。
「コンフラグレイション」
「水纏:飛泉」
展開された魔法陣から前方の広範囲に放出された炎と、白が放った水を纏った斬撃は相殺された。
そして辺りは水蒸気に包まれ、視界不良の中四つの槍が白を襲ったが、先程と同じように槍を打ち払った。
「水纏:蒼澄遊撃、水纏:五月雨」
その後気配を感じた場所へ刀を一振りし、複数の斬撃で対象を攻撃したが、それは地面に刺さっている槍であった。
僅かな時間だが隙を生んでしまった白に対して襲撃者は魔法を放った。
「カースド・レイ」
背後から放たれた黒い光線により白の右胸が貫かれたが、白は咄嗟に背後に向けて刀を振り斬撃を放った。
しかしその斬撃は襲撃者に躱され、白はその場に膝をつき下を向いた。
白の斬撃を交わした際に離れていた襲撃者が白へと近づきとどめを刺そうとした時、白が妖術を展開させた。
「渦蒼球」
油断していた襲撃者はその巨大な水球によって吹き飛ばされた。
白は血を流しながらも立ち上がり、刀を強く握り直して風妖力を纏わせると、襲撃者を吹き飛ばした方に刀を振った。
「風纏:白疾風」
放たれた斬撃は凄まじい威力で瓦礫の山となった物を吹き飛ばしていき、その場所にいるであろう襲撃者と共に建物をいくつか破壊していった。
しかし白の息は荒くなり、目の前も歪んで見えていた。
すると瓦礫の方から腹部に大きな切り傷を負った襲撃者が歩いてきた。
「カースド・レイによる呪いを受けた状態でそこまで動けるとはな、油断しすぎたか...。だがもう限界だろう。」
「はぁ、はぁ...。呪いって妖力を使うと体中に痛みが来るこれの事ですよね。この程度で私を止められると思ってるんですか?私はまだ全然動けますよ。」
白を睨んでいる襲撃者に対し、自身にかけられた呪いの事を理解すると同時に余裕の笑みを向けた。
再び刀を握る手に力を入れて構え、襲撃者は魔法を展開した。
「コンフラグレイション」
「巫」
無数の火球が放たれ、白は自身を強化して襲撃者に距離を詰めていった。
白は自身に当たりそうな火球を刀で捌いていきながら、襲撃者に近づいて行く中、襲撃者は魔法を発動させながらあることを考えていた。
「(あの刀には妖力が纏われている。おそらく先程の術によって増加した妖力をそのまま刀に纏わせたのだろう。元々の妖力を使用していないため呪いの効果を受けていないという事か。)」
「はぁぁぁぁ!!」
襲撃者へと近づいた白はそのまま刀を振り攻撃を仕掛けたが、襲撃者はすかさず槍を出現させてその攻撃を防いだ。
槍で白の刀を防いだ後に弾き、そのまま槍で突き攻撃を仕掛けた。
その攻撃を躱した白は刀で攻撃をして襲撃者に擦り傷を負わせ体勢を崩させると、追撃でとどめを刺そうとした。
しかし襲撃者が槍による薙ぎ払い攻撃をしたため追撃ができず、後ろに引いて距離を取るしかなかった。
「(接近戦では今の奴と私は互角といったところか。であれば...)槍よ...」
襲撃者の呼び声に応えた槍が5つに分裂して白の方に矛先を向けた。
そして槍の先端に魔法陣が展開されると、その魔法陣が次第に融合していき、一つの大きな魔法陣となった。
「この辺り一帯ごと消してやろう。バタリオンインフェルノ!」
そうして放たれた無数の黒炎球は周囲の建物を破壊しつつ白に襲い掛かった。
しかし白は周りを気にせずに襲撃者へと距離を詰めに行った。
「その程度で私の気を引けると?」
そう言った後、魔法を避けながら白は妖術の詠唱を始めた。
急な妖術の使用に襲撃者は驚き、思考を巡らせた。
「水源よ集え...」
「(詠唱だと⁉あやつ、肆式妖術を使うつもりか...)」
「我が力に応答し...」
「(いや、あり得ぬ。肆式妖術など聞いた事はあるが、最上級魔法と同程度の妖術を呪いがある今の状態で使う訳が無い。そのようなことをすれば守るはずの人間にも被害が出るお可能性がある。)」
「大海を統べる龍と成り...」
「(そのためおそらく妖術は囮。本命は私に高位の防御壁を張らせ、背後からの急襲であろう。それならば正面には中位の防御壁を張り、思い通りになったと思わせ、背後に来たところを刺す。」
「撃攻せよ...」
「(槍で魔法を放っている今、防御壁を張った後に槍を使うとは考えないであろう。さぁ来るがよい賢者よ...)」
襲撃者は今まで使用していた魔法を解除し、槍を操作できるようにした後、自身へと迫ってきた白に対して防御魔法を展開した。
だが白は関係ないと言わんばかりにそのまま妖術を放ったのだった。
「ファイヤープロテクト」
「肆式妖術:螭」
「っ!?」
放たれた妖術は襲撃者を飲み込み、幾つもの建物を破壊していき、やがて城壁まで破壊し、城外にある森の木々をなぎ倒していったところで、白の妖力切れにより妖術が消えていった。
白はその場に力なく倒れており、妖術の直撃を受けた襲撃者は体が部分的に消滅し倒れていたが、最後の力を振り絞り、白の近くに刺さっている槍を操作した。
「読み間違えたようだ...だがせめて相打ちとなれば、あの方の役に立ったと言えるだろう。死ぬがよい...」
そして操作された槍が白の方へと向かいコアを刺し、命を絶った...と思われたが、その瞬間白は謎の黒いオーラに包まれると、その槍も飲み込まれていった。
黒いオーラが晴れると、白の傷は治りその場に立ち上がった。
その見た目も変わっており片目が金眼、髪が黒と白のツートーンカラーになっていた。
そして何より、襲撃者だけでなくかなり距離の離れたエンスタシナ王国にいるイリスにすら感じ取れるほどの力を持っていた。
その白は妖術によって吹き飛ばした襲撃者の方へ刀を一振りすると、放たれた斬撃は襲撃者を切断し、斬られた襲撃者は何が起きたのか分からないまま消滅していった。
白から黒い人魂のようなものが出てくると、姿が元に戻っていた。
「あれ、私...」
白も同様に何が起きたのか分かっていなかったが、白の横に在る黒い人魂のようなものから自身と同じくらいの年代の女性の声が聞こえた。