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施設内侵入

 瀬戸大輝は吹雪の中を進む。

 ごつごつした岩場と言って差し支えない程の整備もされていない地面を歩く。

 視界が悪いため普通ならゆっくりと進む。

 しかし瀬戸大輝は気にもせず、家の廊下でも歩くように歩いている。

 吹雪があるというのにそれも感じさせない飄々とした歩きだった。

 まるで吹雪も地面も全て見えているかのようだった。

 瀬戸大輝の装備しているゴーグルの機能の一つに、サーモグラフィがある。

 しかしそれはあくまでも温度分布を視覚化するだけで、根本的な視界不良を補うものではない。

 故に瀬戸大輝はそれを切っている。

 通常の視界の機能で行動しているようだった。

 そもそもサーモグラフィは起動時に独特の作動音が鳴ってしまう。

 隠密作戦行動には圧倒的に不向きで、かつバッテリー消費も激しい。

 どう状況が動くかもわからない現状では極力使わない事が望ましい。

 瀬戸大輝は真っ直ぐに歩く。

 見ると吹雪の隙間から遠くに光が見える。

 一キロほどか。

 瀬戸大輝は顔を上げる。


「止むな」


 歩き続ける瀬戸大輝。

 しばらくすると吹雪がゆったりと止んだ。

 瀬戸大輝の言った通りになった。

 彼は吹雪の流れに沿うように横に動き、突き出た岩場に身を伏せた。

 周囲に敵の姿はない。

 先程までの吹雪だ、徒歩での警戒は難しいだろう。

 しかし逆に言えば吹雪が落ち着きを見せ始めたこれからは外の警戒も現れるだろう。

 瀬戸大樹は振り返り、今歩いてきた足跡が吹雪で隠されていることを確認する。

 目標ポイントへもう一度視線を移す。

 先程確認出来た光は建物にあるサーチライトのようだった。

 そこに目を凝らして確認すると人影があった。

 窓から顔を出して周囲を確認している。

 その後、壁の扉が開き防寒着に身を包んだ、武装した者たちが姿を現した。

 吹雪で出れていなかった警戒を再開するのだ。

 彼は更に身を伏せて、しかし一気に歩を進めた。

 警戒と言えど基本的には施設周辺、かつ敷地内を回る。自然環境が厳しい状況ではあまり遠くまでは警戒を広げないのが鉄則。

 警戒人員が消息を絶つことが多く、それを把握することにも時間がかかるため警戒としては別の問題を抱える事になるからだ。

 故にそこまでは一気に接近すべきだ。

 体をくの字のようにして地面を走る。

 一キロ近い距離をその状態で走り抜け、施設直前まで移動する。

 大きな施設だった。

 何かの観測所のようだった。

 厳寒地域で観測するような物の多くがその環境だ。

 空、海、動物。

 ほとんどが自然の何かを見ているはずだ。

 その場合、危険視しなければならないのは定点カメラだ。

 動物などに反応するセンサー式のカメラなどによって敵に位置を悟られる可能性がある。

 そのカメラは温度検知の物もあるだろう、肌の温度が衣服などの他と違うだけで目立ってしまう。

 加えてこの手の施設の望遠設備は高性能な物も多く、カメラは避けられても施設内の人員による目視で発見される可能性もある。

 瀬戸大輝は、ため息をついて、足元に積もった雪をひと掴みした。

 それを徐に自分の頬に軽く叩きつけた。

 同じことを顔全体に行い、最後にもうひと掴みした雪を口腔内に押し込んだ。

 瀬戸大樹の表面体温が一気に下がった。

 瀬戸大樹の目がゴーグル越しに動く。

 カメラを探っている。

 雪の詰まった口で彼は呼吸をする。

 白い吐息は雪で防がれて外に出る事はない。

 冷気となって外に出るため、それは温度検知にも映らない。

 彼の足がゆっくりと歩きだす。

 大きな施設だ。

 歩いて一周するだけでも相応の時間がかかる。

 これだけ大きく、環境も過酷であれば警備にもかなりの穴がある。

 外からの侵入自体にはそこまで問題はない。

 軍事施設ではなく、元は民間または公的な普通の施設だったのだろう。

 高い壁もなく、金網や電気ショックの罠もない。

 瀬戸大樹は岩場を縫うように進む。

 警備を再開した警備兵らしき武装した者たちが散開し始めた。

 だが瀬戸大樹には気付いていないようで、談笑しながら歩いている。

 敵は、油断しているように見える。

 本来敵はもっと厳戒態勢であるべきだ。

 連中は米国政府を脅迫し、交渉しているのだから反撃に備えて部隊を展開させておくべきだ。

 だが敵はそうはしていない。

 もちろん先程までの吹雪の影響もあるだろう。

 悪天候は、特に離島ではかなりの影響を及ぼし、接近を困難にさせる。

 航空機や無人ではまず接近は出来ない。

 船での接近も、この厳寒の環境では本来厳しい。

 接岸出来たとしても、姿を完全に隠して広大な島を歩き進んで施設まで辿り着くことは困難だ。

 部隊として動いていたなら、の話だ。

 一人というものはそれだけで危険だ。

 だがメリットが存在する。

 それは発見のリスクを極端に減らす事が出来ることにある。

 加えて敵もまさか一人で潜入しているとは考えまい。

 敵も接近の可能性を考えてもいない。

 敵の保有しているという核兵器の事も考えると本来は不用意に潜入など出来ない。

 敵もそれは理解している。

 交渉をしてくるものとしか考えていない。

 だからこそ、上は瀬戸大輝を動かしたのだ。

 少しずつ接近する。

 岩場に巡回する敵の兵士も現れだしたため彼は地面に腹這いになった。

 体を極力地面に押し当て、薄くなるイメージで張り付く。

 顔も横に向けて、腕も地面にぴったりと貼り付ける。

 その姿勢のまま移動する。

 指先の動きだけで体を動かす。

 全身は極力動かなず、一部の動きだけで体を動かしていく。

 指だけではどうしようもない部分では足で同様のやり方で、それでも厳しいのであれば体を波打たせるようにして。

 さながら蛇のようだ。

 その動きを、極めてゆっくりとした速度で行う。

 隠密行動の基礎だ。

 動きを小さくすること以上に、ゆっくりと行う。

 動いたか動いていないか自分でもわからなくなるくらいの速度を徹する。

 音もなく、足跡もなく、接近する。

 時間はかかる。

 腹這いで移動すれば長時間続けた場合は衣服越しでも皮膚が擦り減る。

 だが、瀬戸大輝のみならず多くの軍人がこの動作の重要性を理解し、実行する。

 隠密の、最重要ポイントとも言えるだろう。

 彼はそれを、十分以上に理解していた。

 暫くその動作を続ける。

 その甲斐在って彼は施設まで誰にも気取られずに接近で来た。

 巡回のタイミングまで待機し、それが通り過ぎたのを確認する。

 無線は使えない。

 敵の通信機に傍受されれば彼の侵入に気取られる。

 彼はここから数十時間は、味方との交信が断たれることになる。

 担当管制官がいた所で、通信が出来ない環境の方が多いのだからメリット自体は少ないと言えるだろう。

 現に、彼女はずっと無言だ。

 それ以外からの通信が入ることもない。

 向こうも、不用意のお喋りが危険でしかないことをしっかりと理解している。

 故に、彼は、誰に断るでもなく岩場の陰に立ち上がった。

 施設から出入り人員のパターンを数度確認し、接近。

 扉が見える位置で止まり、そこからは速度を落とす。

 次に巡回が来るタイミングを扉横に置いてあった金属製の箱の陰で待つ。

 口内に突っ込んでいた溶けかけの雪を吐き出して、足元の手頃な石を拾う。

 十分ほど待ち、扉が開いた。

 吹雪や突風対策なのだろう重厚な扉がゆっくりと開き、中から武装した兵士が現れた。

 瀬戸大輝には気付いていない。

 兵士は振り返り、重い扉を閉めようと扉の硬いレバーに触れた。。

 その時に瀬戸大輝は他の所に置いてある金属の箱に向かって拾った石を放り投げた。

 小さい金属音が鳴った。

 箱の中身は相当な量のようで、音はあまり響かなかった。

 だが音に反応した兵士はレバーを引く手を止めて振り返った。


「……。こちらGN4。異音を確認。確認に向かう」


『こちらCP、了解。周辺で侵入者の痕跡は発見されていないが、十分警戒しろ』


「GN4了解。確認後に持ち場に移動する」


 兵士はレバーから手を離して、体の向きを変えた。

 その一瞬だった。

 瀬戸大輝は流れるような動きで音もなく扉の中に入って行った。

 その動きは扉が開いた瞬間に流れで外に出る飼い猫のような動きだった。

 今回は、侵入だが。

 瀬戸大輝は難なく施設への侵入に成功した。

 あっけもなく。

 何のトリックもなく。

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