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For My LOVELINESS  作者: kirara
8/21

episode7 激辛ッシュ(MAXIMUM)

「すっげー可愛いそのコ!

 なあ、ダニエル。あのコ誰なん? 新人さん?」


 珪汰は荒々しく立ち上がり、千秋を指差して大声で捲し立てた。


 ダニエルは無言で未沙希に目配せすると、


「アンタうっさいよ」


「おぐっ……!」


 すかさず、珪汰の脇腹に強力なチョップを入れて鎮めた。


「千秋、丁度いい。皆さんに自己紹介してくれ」


 それだけ告げてやる。


 千秋は居並ぶ一同を見回して、集会の内容が理解できたようで頷いた。


 そして居住まいを正して話し始めた。


「瀬崎千秋と申します。そこにいる、瀬崎柊也の妹です。

 よく、大人びて見える、とか言われますが、私はまだ16歳ですので勘違いのないようにお願いしますね。

 不束者ですが、これから同じ建物の下で暮らす皆さんと快く過ごせるよう、精一杯の努力を惜しまないつもりです。

 どうか宜しくお願い致します」


 最後に深く腰を折って締め括った。


 おー、パチパチパチ、と自発的に拍手が漏れる。


 千秋は、堅すぎたかな、と照れ笑いをして、またそれが何とも愛らしくて目を見張ることになる。


 全員が千秋に注目しているところで、


「じゃあ今日はこれで解散。次の指令があるまで各自自由」


 そう言い残して、ダニエルは去っていった。


 ダニエルがホール出口を抜け、自動扉が閉まったと同時、よく分からない沈黙を保っていた空気が爆発した。


「チアキ、チアキ! アンタら本当に兄弟? 全然似てないんだけどー」


 未沙希が柊也と千秋の顔を見比べながら言う。


(何とも失礼なやつだ)


 千秋は「実は血が繋がってなかったりして」、なんて冗談を言っている。


「柊也ぁ、お前あんな妹隠しやがったのかよ! オレと兄貴役代わってくれ。な、いいだろ?」


 今度は桂汰が柊也に掴み掛からん勢いで迫って来た。


「別に隠してはないだろ……。大体代わってどうするんだよ。言っとくが、兄妹だからって何もできやしないからな」


「そ、そうなのか……。やっぱいいわ。このままいく!」


「一体何の話をしてるんだ……。

 というか、下の名前で呼ぶのな」


「何言ってんだよ。瀬崎って2人いて紛らわしいじゃんか」


(なるほど……)


 ちらりと栞の方を見る。


 栞は千秋を見て、何を考えているのか、眉を寄せて難しい顔をしていた。


(ん?)


「桂汰。水野さんは?」


「あぁ? あの人ならさっさと部屋に戻ったと思うけど」


「そうか」


 あの人とは一度話をしてみたいと思っていたんだが、いないのなら仕方がない。じゃれ合うのは好かない性質たちなのだろう。


「なあ、みんな。そろそろ部屋に戻らないか?」


 いい加減質問攻めされている千秋がかわいそうにもなってきての救済発言のつもりだったのだが、この連中はそんなに簡単にはいかないらしい。


「よーし! じゃあシュウヤの部屋で歓迎会ね!」


「おう、いいな。じゃあオレは部屋から菓子とジュース持って来るわ」


「なっ……」


 思わず絶句してしまった。


 意味が分からない。思考の経路が分からない。


 歓迎会? いや、それはいいにしてもだ。


 ”今すぐ”、しかも”俺の部屋で”行うなど、非常識にも程があるだろう。


 別にやましい物など1つも置いていないが、客を招くなら部屋掃除や、その他諸々するべきことがある。


「ちょっと待っ――」


 言い掛けて気が付いた。


 ふふ、そうだ。この施設の部屋には個人のカードキーが無いと入れないんだよ。残念だったな、お前ら。


 すぐに引き返して泣きついて来るに違いない。


 そう見当をつけて、内心で嘲笑っていると、


「チアキ行こー」


「うん。兄さんも早く来てよ。カードキー無いと部屋入れないんだから。

 え、どうして未沙希持ってるの?」


 ちょっと待った。


 恐る恐る上着のポケットに手を伸ばす。何故か、ファスナーが開いている。


 すっと手を中に差し入れると、あるはずのカードキーの感触が、どこにも無い。


 ウイーン……。


 自動扉の開閉音がしてその方向を見ると、カードキーを手にした未沙希が柊也の部屋を開け、彰文を除いた面々がぞろぞろと侵入していくところだった。


「終わった……」




    †




「あはははははは! まーたあたしの勝ちー!」


「俺もあがりっと」


「私もです」


「また貧民じゃねえか、ちくしょおおおおお!」


 未沙希、柊也、栞、桂汰の4人は、どういう流れか、トランプで大富豪をしていた。


 今回で3ラウンド目、そして桂汰の3連続貧民が決定した。


「じゃあ3回にちなんで、3つ、行ってみよっか?」


 悪魔の微笑を貼り付けた未沙希が持っているのは、”激辛ッシュ(MAXIMUM)”。


 一昔前、そのお菓子離れした辛さゆえに、MAXIMUMの一気食い禁止のCMが全国放送で流れていた程だ。


「3個はまずい! ホントに死ぬから!

 あっ……むぐっ!?」


 未沙希は頑なに口を閉じ続ける桂汰の鼻を摘んで、無理矢理開かせ、容赦ない一撃で激辛ッシュを投げ込んだ。


「はーい、噛んで? しっかり噛まないと、さらにぶち込むよ?」


 にやり、と未沙希は次弾を構えて桂汰に迫る。


 桂汰は声にならない悲鳴を上げ、ぼりぼりと必死の形相で噛み砕き、何とかそれらを飲み込んだ。


 最後に「ごふっ」、と気持ち悪い断末魔の声を漏らして床に倒れた。


 と、思ったら震える右手を伸ばして、


 くいっ。


「頼む。水をくれ……」


 目に涙を溜めながら、柊也の服の裾を力無く引っ張り、もう片方の手で喉元を掻きむしって懇願するその憐れな姿を見ていると、つい水を差し出してやりたくなるが、


「シュウヤだめだからね。これはルールなの。ルールには何人たりとも逆らえないのでーす」


 未沙希の非情なる牽制によって憚られてしまった。


「それはそうだけどさ……さすがにきついんじゃないか?」


 ぐごごご……、と床で縮まって、時折ぴくぴくと痙攣しながら唸り声を上げている全身ジャラジャラ怪獣が一匹。


 未沙希はそれを一瞥し、


「こいつはタフだからいいの」


 あっさり斬り捨てると、千秋と栞の元へ行ってしまった。


「ふう」


 溜め息とともに柊也は台所へ向かい、コップに水を汲んで、桂汰の顔の横に置いてやる。


 桂汰は驚いたように柊也を見上げたが、次の瞬間にはコップを掴んでごくごくと飲み始めた。


 飲み切ると同時に力尽きたのか、ふらふらと立ち上がって、2つあるソファーの1つを独占して寝始めた。


 おいおい、泊まっていくのだけはよしてくれよ。


 と心配していると、


「優しいんだね。瀬崎クンは」


 振り返ると、蒼依がジュースの缶を2つ持って立っていた。


 目で「飲む?」と問い掛けていたので、素直に片方を受け取った。


 柊也がもう1つのソファーに腰掛けると、蒼依は桂汰の方をちらっと見て、柊也の隣に座った。


「何だか、今日初めて会ったとは思えないな」


 自然に視線はテレビのお笑い番組を観ている千秋たちの方へ向かう。


 蒼依もそれを追って、同じところで止まった。


「そうだね。もうずっと一緒にいる友達みたい」


 未沙希が大爆笑し、千秋も楽しそうに目を細め、栞は笑いのポイントが理解できなかったのか不思議そうに首を捻っている。


 三者三様の反応だが、並んで座っているのを見ると、ここまで楽しげな雰囲気が伝わってくるようだ。


「真枝はあいつらのとこには行かないのか? 俺なんか構ってても何も面白く無いだろ」


「んー、騒がしいのはそんなに好きじゃないしね。

 それに、瀬崎クンは面白いというよりも、何て言うんだろ……落ち着く?」


「疑問に疑問で返されてもな……。

 落ち着くなんて言われたのは初めてだぞ」


「えー、わたしだけなのかなぁ……」


 蒼依は首を捻って、うんうんと考え込んでしまった。


 柊也はしばらくそれを眺めていたが、


「なあ、真枝」


 ふと感じたことを聞いてみることにした。


「んー?」


「こんなんで今まで本当に戦争なんてやってこれたのか? にわかには信じ難いんだが」


「あはは。確かにね。

 でも、みんなやるときは真面目にやってるよ。というよりも、やらなきゃ死んじゃうって感じかな」


 笑顔で言うが、実際は死に掛けるような場面も多々経験してきたのだろう。


「そういう世界なんだよなぁ。はあ、もっと普通に生きたかったよ。

 だって、この前までただの高校生やってたガキだったんだぞ。それが今はどうだ。強化兵ソルジャー? 笑えない」


「……そうだね。でもわたしの場合は学校もクラスの友達もみんなバラバラになっちゃったから。あんまり未練は無いかなぁ。

 それにほら。戦争に巻き込まれて無力に逃げ続けるよりはさ、力を手に入れて戦っていた方が生き残れる確立高いって思わない?」


 蒼依は冗談なのか本気なのか判断し難い顔で言う。


「それは自分次第だな。けど俺は死なないよ」


 千秋を見る。


 そう、俺はあの日、千秋が攫われそうになっているのに何も出来なかった時に誓ったんだ。


 ”俺の妹は、もう誰にも傷つけさせない”。


「死ねないよな……」


 柊也はもう一度呟き、蒼依からもらった缶のプルタブを開け、口を付けた。


 ジュースの味はよく分からなかったが、冷えた液体を喉を通っていく感覚がただ心地よかった。


 そうして夜は更けていった。



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