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For My LOVELINESS  作者: kirara
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episode16 傾いた視座

 荒れた大地と剥き出しの岩肌に囲まれた、旧中華人民共和国のとある山岳地帯。


 険しい山道を装甲車で登り、ある程度開けた場所までやって来たところで、、それらと遭遇した。


 進軍中の大規模な機兵部隊。目分量で見ても、ざっと 300・・・は下らない。後続には、補給用の充電装甲車も見受けられた。中継司令部もあそこにあるのだろう。


 開けた、といってもここは山中。詮ずる所、道幅15メートル程。機兵が詰めて10体並べるかといった広さだ。


 いくら300の兵がいようとも、先頭が10体ではその威力も半減、いや、単純計算で30分の1だ。そう考えるといかにも貧弱に聞こえる。


(それにしても、呆れた数だ)


 これだけの兵力を揃えるのに、どれだけ莫大な軍資金を費やしたのだろうか。統治下に置きたいのならば、無理に武力的制圧に拘る理由はどこにもない。


 寧ろ、それだけの資金があれば、平和的解決によって何倍もの成果を上げることが出来る。これくらいは誰でも分かることだ。


 それでもなお、制圧に固執するのは何故か?


 それは詰まるところ、力の誇示、明確な示威、これ見よがしのデモンストレーション。


 平たく言えば、”格好付け”だ。


「くだらない……」


 荒野の全体を見渡せる位置に付いていた彰文は、思わず呟いた。


 つくづく荒唐無稽である。


 一世紀前は、地球上の資源を巡って戦争。次は宗教。そして今回の……世界征服とでもいったところか。


 思考が腐っているのか。きっと油と酒で心身ともに退廃してしまっているに違いない。


 その観点でいけば、この組織だって大して変わらない。アルファだかアル中だか知らないが、奴もまったくもって同類としか思えない。


 政府を一方的に悪に仕立て上げ、それを成敗する自分たちを美化し、誇る。特撮のヒーローにでもなったつもりか。もはや狂っている。


 その狂乱に乗じている彰文が言うのも何だが、この世の中、まともな奴がいない。彰文自身を含めて、だ。


 あの男――瀬崎柊也といったか――もそうだ。


 妹がアル中に捕まって、その安全と引き換えに組織に入ってきたとか。全く持って、実に馬鹿げた話だ。


(たった一人の妹? 大切な家族? 血の繋がった肉親? 知ったこっちゃ無い)


 あいつには選択肢があったはずだ。黙って妹を受け渡すという道もあったはずだ。それを分かっていてなお、組織に入った。


 誰だって自分自身が可愛い。愛しい。その他は関心のラチ外。


 どんな善人と呼ばれる者であっても、窮地に立たされ、立場による束縛が無ければ、最後は己の為だけに行動するものだ。


 そう、あの男だって、最後は妹を捨てて逃げ出すのがオチだろう。


「所詮は茶番か……」


 先程から彰文の頭の中は、世の中への不平不満でいっぱいになっているように見えるが、自分に課せられた仕事はしっかりとこなしている。


 今だって、考え無しに突っ込んで四方を数体に囲まれた三木原のアホを助け、騒がしいハーフ娘を背後から襲おうとした機兵の急所をぶち抜き、真枝が撃ち漏らした奴らを一掃し終えたところだ。


 どいつもこいつも隙だらけ。目も当てられない


 こんなことなら、彰文一人で遂行したほうが安心して、集中して臨めるだろう。


 胸の内で毒々しい小言を吐きながらも、その手は休むことを知らない。またしても数体を地に沈めてやった。


「ん?」


 ぞろぞろと並んで行進する機兵隊の中に、何故か乱れが生じている一角がある。


 狙撃銃のスコープを覗くと、そこには件の男、瀬崎柊也がいた。


「……どういうことだ?」


 はっきりとは見えないが、すし詰め状態の隊列に忍び込んで、内部撹乱を起こしているらしい。


 事実、その効果は抜群で、敵の捕捉を迷った機兵が、次々と他の強化兵たちに破壊されていった。


 確かに、引っ掻き回すことだけなら誰でも考え付くだろう。彰文が目を見張ったのは、瀬崎のその立ち振る舞いだ。


 彰文の持つ物とは方の違う狙撃銃――おそらく、これよりも射程距離を犠牲にして単発の威力を重視したボルトアクションだろう――を至近の間合いからぶっ放す手法。


 自由に身動きの取れない敵は避けることも叶わず、無残にも散っていく。


 既存の兵法や戦術論を無視した、無謀としか思えない戦い方だ。だが、その姿には危なっかしさの欠片も無く、確固たる意志が、そして決意が、全身から溢れ出ているように映った。


「ハッ……くだらない。

 銃器を冒涜しているとしか思えないな」


 先程までの苦言はどこへやら。慌てて彰文は思考を切り替えて、狙撃に専念することにした。




    †




 体力的には、まだまだ戦闘の続行は可能だ。


 だが、精神的な話になると、そうも言っていられないだろう。


 現に、栞は数分前から苦々しい表情を垣間見せるようになったし、桂汰もこの膠着した戦闘状態に、早くも飽き飽きしているようだ。


 荒野を挟む断崖の片側で狙撃に従事している水野さんを除いた他のメンバーも、そう変わらないだろう。


 柊也は、一番マシな自分がやるしかない、と奮起して、倒れた自動機兵の甲羅を蹴って宙に跳んだ。


 目標は敵後方の司令塔。偽装に偽装に重ねているだろうから、それを探し出すのは結構骨が折れる作業かもしれない。


 綺麗な放物線を描いた後、充電装甲車のボンネットを凹ませながら着地し、辺りを見回した。


 そして気が付いた。周囲の補給車を操っているのは全て生身の人間・・・・・だということに。


 一応、身体を保護するための防御服は着ているものの、柊也の持つ銃からすれば、気休めにもならないだろう。


「――ッ!」


 そして見た。中の人間が割れたフロントガラス越しに柊也に向かって銃を構えている姿を。


 実弾の、しかも携帯式の機関銃など、ナノアーマー相手に大した効果があるとも思えないが、それでも心理的圧迫には十分過ぎる効果を有していたらしい。


 柊也は身の危険に、反射的に拳銃でその男を撃っていた。


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