プロローグ
瀬崎柊也は疾走っていた。市街地の直線道路上、背後から迫る数体の自動機兵の容赦ない銃撃を不規則に走ることで避けながら。
「フゥ…フゥッ……」
このまま逃げ続けても埒が明かない。
挟み撃ちを警戒して、勢いよく角を曲がる。
その先には見上げる程の高さの塀が聳え立っており、普通の人間には越えられないのは一目で分かる。
(――”普通”の人間には)
柊也は速度を緩めることなく走り続け、塀の数歩手前で一度屈み、足のバネを十分に使って飛び上がった。 その高さは優に塀を越え、長い滞空時間の中で周囲の構造、敵の位置、進行方向、装備等を全て把握しておく。 高さに見合うだけの着地の衝撃は、大きく膝を曲げて軽減、勢いそのままに前転して大分逃がしてやった。
草地を削りながら片膝の体勢で、背中に背負っていた銃を負紐だけ回して即座に構える。間を置かずに遥か前方に向け発射する。
真っ直ぐ進んだ小口径のエネルギー弾は、丁度角を勢いよく曲がってきた機兵の頭部に直撃、行動不能にした。
次に備えて構えを解かずにしばらく待ったが、敵が現れる様子がないので足音を殺しながら慎重に角に近付く。
体を横向きにして平行移動でその角の先を覗こうとして、
グジャシャッ!
不意に足元に転がっていた空き缶を派手な音を立てて踏み潰してしまった。
「――ッ!」
第六感に従い、咄嗟に身をかがめる。すると先ほどまで柊也の頭があった位置を白銀の刃が風切り音を立てながら通り過ぎ、煉瓦造りの壁面を粉々に砕いた。
バクバクと拍動で弾けそうになる心臓をなんとか抑え、片手で銃身だけ角の先に突き出し連射する。確かな手応えを感じて首だけ覗かせると、予想通りにそこには煙を立てて倒れている機兵の姿があった。
追撃を避けるために足音を聞き取ろうと耳を澄ませてみる。そうして初めて周囲が静寂に包まれているこにに気が付いた。
柊也は少し安心しながら、ベルトに装着された通信機を取り出した。