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灰鬼不良巫女





昼は人の世界。

だが夜に鳥居をくぐるな。くぐればそこは妖怪の世界。

ずっとずっと昔から言われてきた当たり前の常識。

だけどたまに、好奇心に負けて外から来た人間が夜に家を出て鳥居をくぐる馬鹿な奴と、子供がいる。

そんな馬鹿を守るのがあたしの仕事だった。

馬鹿にゲンコツ食らわせて、しこたま怒鳴って説教をする。

それで済めばよし。


しかし、もしも妖怪に出会してしまえば、それはほぼ手遅れだ。

妖力も、力も持たない人間は一方的に蹂躙され、無惨に殺される。そんな人間を嫌という程見てきた。

嫌という程知ってしまった。


人間は弱い。

私の様に、殴って、どついき回して、退治できる人間は少ないんだって。

私が守れるのは、妖怪に出くわさなかった運のいい人間だけなんだって。


小さな子供や、赤ん坊と、その母親が目の前で食われる様は何度も目にしてきた。

その度に無力な自分を呪い続けた。


妖怪が鳥居をくぐり、人を食べようと人の世に足を踏み入れよう物なら人間達が総出でその妖怪を蹂躙するだろう。

しかし、ここに人間はほとんど居ない。

そんな世界で誰が人を守れようか。


だからあたしみたいな巫女が夜に出歩き、鳥居をくぐるバカな人間を守らなければならない。

人が人を守るのは道理であり、当然の事だ。


だけど、それでも人を食べることは妖怪達の中でもタブー中のタブー。

何せ妖怪達の中では、こんな噂か掟かも分からない程昔のルールがあった。


───人を喰らうことなかれ。


───灰色の鬼が、刀を携えて首を狩りにやって来るぞ。


カビの生えた噂話。

そんな奴がいるなら、なぜ助けない。

なぜ人を守らない。


私はそんな噂、鼻で笑った。

いつだって守ってくれるのは自分の力だけだ。


そうして私は息を切らしながら、知り合いの妖怪が見たという小さな少女が入ったと思われる禁獄山の目の前まで来た。

ここはあたしがしこたまぶちのめした妖怪達を閉じ込める監獄。

あたしを恨む妖怪が住まう山。

あたしも生きて帰れるかわかない。


それでも、少女を見殺しにするなんて選択肢は私にはなかった。


「お願いだから、死なないでくれ···············!」


そう強く願い、私は禁獄山に足を踏み入れた。


「おいおい、夜は危ねーって駄菓子屋のばーちゃんに襲わんなかったのか?」


「···············はぇ?」


あたしが足に力を込めようとした瞬間、突然横から見慣れない格好をした男と、夜に家を出たと思われる少女が現れた。





〜〜〜〜




「このバカッ!!」


「うええぇぇ〜〜、ごべんなざいっ!」


少女は巫女にゲンコツを食らいながら、泣きべそをかきながら叱られていた。

あの後、とりあえず夜は危ないからと、自分の神社まで連れて行ってくれた。

道中妖怪達に何度も出くわしたが、巫女を恐れてみんなどこかへ去っていく。

妖怪達が祭りで騒いでる中でも、巫女の姿を見たら、妖怪達はそそくさとどこかへ去ってしまった。

一度だけ妖怪が巫女に挑んできたが、持っていた金属バットを使うことなく、ゲンコツ一発で気絶させてしまい、何事も無かったかのようにそのまま神社へ向かった。


そして今に至る。


「侍の人が居なかったらあんたみたいなちんちくりんのガキはとっくに腹ん中だぜ!喰われんだぞ!?わかってんのか!」


「うええぇぇ〜〜んッ!」


男はそんな姿を賽銭入れの前で座りながらその様子を見ていた。

巫女はただ怒り任せに怒っているのではない。その声には今にも泣きそうなほど、怒りと共に不安と悲しみの交じった声が混じっていた。

その声は今にも泣きそうで、辛そうな声だった。


その声は自分のよく知る声。

無力の自分を嘆く声だった。


「···············その辺にしてやれ」


男は巫女の頭にぽんっと手を置いて落ち着かせる。

すると少女はそのまま男の背中に隠れる。


巫女は少しだけ男を睨むと、少しの沈黙を挟み、大きなため息を吐く。


「··········あたしだって好きで怒ってんじゃねぇよ。いいか?私がこの街の巫女である限り、あんた達を護る義務があるんだ」


そう言って巫女は少女に目線を合わせると、優しく抱きしめた。


「死なないでくれて、ありがとう」


少女は少しだけ呆気に取られたが、次第に再び大粒の涙が溢れ、また「うええぇぇ〜〜んッ!!」と泣き出してしまった。

巫女はそんな少女を優しく、だけど力ずよく抱きしめた。


「あんたも、この子を守ってくれてありがとう」


「いいよ、別に。目の前で子供が食われんのは目覚めが悪いからな」


「それにしてよく禁獄山から出られたな。妖怪に襲われなかったのか?」


あそこは荒くれ者の妖怪達を閉じ込める為の山。

中にはその強く濃い妖力に誘われて入る妖怪も居る。

弱い妖怪ならば入った途端そこに閉じ込められた妖怪達の餌になって死んでしまう、無法地帯の山。

そんな中に人間が入って無事なのは奇跡と言って等しい。


「ん?あぁ、そう言えばあそこの鬼殺しちまったけど、大丈夫なのか?」


するととんでもない言葉が飛び出してきた。

鬼と言えば妖怪の中でも随一の怪力を持つ妖怪。

しかも禁獄山に閉じ込められた鬼だ、そこら辺の鬼よりも戦い慣れした猛者だ。

自分も何体か鬼をあの山にぶち込んだが、どの鬼も一筋縄では行かない猛者ばかり。

何度もその怪力に煮え湯を飲まされた。

だと言うのに男は全くの無傷。目立った外傷は見当たらない。

つまり無傷で、しかもほぼ一方的に鬼を蹂躙したのだ。

人間にそんなことが可能なのか?と疑問が浮かぶが、今この少女の無事を喜ぶことにした。


「···············なぁ、この子を助けてくれたお礼がしたい。いい酒があるんだ、この子が寝たら1杯付き合ってくれよ」


「おいおい、お前まだガキだろ?」


「そんな事気にする奴じゃないだろ?」


「まぁな··········」


そう言って男は笑い、少女を連れて社の中に入った。





禁獄山





「な、なぜ··········ッ!?」


黒い看守服に身を包み、自分の体を覆いかぶせる程の大きな黒い鴉のような翼と、腰には刀を携えた妖怪。

この禁獄山の荒くれ者を見張る看守、天狗一門。

若い看守天狗に呼ばれ、来てみれば、ここの住人(囚人)の胴と首が切り離された屍と、目の前に真っ二つに割れた大岩があった。


先程若い看守の報告で、人間の少女がこの禁獄山に入り込んだという話を聞き、駆けつけてみれば転がる屍は鬼の者。

しかも目の前の大岩が割れてるという始末。


若い看守天狗達は、自分達の看守長のただならぬ雰囲気に焦りと不安の声がする。

静かな森にはさざめく木々の音が響き続ける。


有り得ない。

有り得ては行けない事態が目の前で起こっている。


「ここの封印の札はどうしたあぁッ!?」


看守長はこの封印の札の貼られた大岩を見張る看守天狗を睨みつける。

看守天狗はビクリと方を震わせながら、敬礼をした。


「はいっ!私が見た時まで確かに札に異常はありませんでした!」


「ならこれはどういう訳だッ!?」


「わ、分かりません!私はほんの5分周りの偵察に行っていただけで、戻って来らこの始末でして···············」


「───ッ!兎も角急いで大頭様に報告するぞ!」


「はいっ!し、しかしこの鬼の始末はどうすれば···············」


看守長は急いで大頭様と呼ばれる、自分の上司にこのことを報告しようと飛び立とうとするが、一人の若い看守天狗に呼び止められる。


「そんな奴、虫の餌にでもしとけッ!」


看守長はそんなこと知るかと、飛び立とうとした直後


「しかし!この鬼は■■■■ですよ!?」


「〜〜〜ッ!そうだった、こいつは茨城一家の───だったッ!」


おそらく殺されたこの鬼は囚人達の中でも重要人物だったらしく、看守長は頭を抱えた。


「次から次へと···············あああぁぁ〜〜〜〜ッ!!」


看守長は涙を流しながら泣いた。

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