脳あるアルファは終始無言を貫く無自覚オメガのウインドブレーカーを隠す〈二次創作〉
しいな ここみ 様 主催の『リライト企画』(企画期間:R5.10.15〜R5.12.31)の参加作品をリライトした作品です。
作者:本羽 香那 様 の現実恋愛作品『秋なんて大嫌い (1234)』 https://ncode.syosetu.com/n8789il/ が未読の方は、先にそちらからお読みください。
本作品はオメガバース設定です。
※本作品はオメガバース設定をご存知無い方には分かりにくい作品だと思います。
※本羽 香那 様 の作品はオメガバース設定ではありません。
兄も弟もいないから、男子は苦手。
どう喋ったら正解なのかが分からない。
緊張して、自然な会話ができなくて、つい、つんけんしてしまう。
それは、はたから見たら過剰反応。
だから、ブリっ子、と言われてしまう。
女子に嫌われてしまうから、嫌われたくないから、私は極力男子を避ける、喋らない。
男子は苦手だがら、ブリっ子と言われたくないから、好きになってしまうことはもっと怖くて、男子はキモい、男子はキモい、と心の中で繰り返す。
そう思うようにしていた、そう思っていた。
「ん。着れば?」
ぴゅーと秋の千の風が吹いて、ブルッと体を震わせた。
寒々しい私の格好とその様子をたまたま見ていたのだろうクラスメイト鈴木は、自身のウインドブレーカーを掴んだ左手を真っ直ぐ私に突き出した。ハンドクリーム添えの右手を添えて。
「ん」
さすが牙突、圧が強い。
「ん!」
先程よりも圧が強い。
こんなシーン、各種アニメで見たことがあるような、と懐かしく思っているうちに、「ん!!」と問答無用で押し付けられた。
そこに鈴木はもういない。眠ってもいない。走り去った鈴木の背中はあっという間に小さくなったけれど、また次第に大きくなって、また次第に小さくなって、グラウンドの内周をかなりのハイペースで何周と走っている。
呆気に取られその姿をぼんやり眺めていると、また秋の千の風がぴゅるりぴゅりゅぴゅりゅーと吹いて、ぼたぼたぼたぼた、藤棚の横のモチモチの木の横のイチョウの木から、橙色の丸い実が降ってアスファルトとぶつかり、万有引力により叩き合い潰し合い、瞬く間に周囲に悪臭を放った。
あまりにも臭く、私は折しも手に持っていた鈴木のジャージを鼻に押し当てた。
すると、男臭い、汗臭いウインドブレーカーのイメージとは真逆の、ふんわりと甘い、地球に優しい柔軟剤の香りがした。
秋の千の風は寒かったけれど、貸してくれたものはそのまま、腕に巻き付ける程度とし、手の暖を取るだけに留めた。
ゼッケンにでかでかと「鈴木」の文字が入っており、周りの目が気になる私にはハードルが高く、とてもじゃないが、着られなかった。
帰り道、店に立ち寄った。
腕には鈴木のウインドブレーカーを巻き付けたまま、返却していない。
着用はしていないものの、一応は借り物であるので、一応の礼儀として洗濯してから返そうと思った。例えそれが、強引に押し付けられただけのものであったとしても。
洗濯用品のコーナーで目当ての商品を探す。
チェーンに繋がれた小さな容器のフタを指で押し上げ、鼻を近付け、匂いを嗅ぐ。
これは、違う……。
同じ匂いが欲しかった。
ふんわりと甘い、地球にも私にも優しい柔軟剤の香り。お財布にも優しいとなお嬉しい。
フタを閉じ、また次の容器のフタを開ける。
香りのサンプルが置いてあるものは順番に匂いを嗅ぎ、根気強く探すけれど求める匂いと同じ匂いには出会えず、歯がゆくてもどかしい。
と、急に背後から腕が伸びてきて、棚ドンをされた。
商品に配慮した絶妙な力加減で、それなりの圧は感じるものの、陳列された商品が揺れたり倒れたりはせず、綺麗に並んだままの状態を保っている。
ふと、香りがした。
ふんわりと甘い、地球に優しい、私にも優しい、財布には優しくあってほしい柔軟剤の香り。
求めていた香りがすぐそばにあることに驚いて、振り返るようにして見上げる。
そこには、捕食者の目をした鈴木いた。
口元に弧を描き、嬉しそうに笑っていた。