記録82_独善的に優しい加護
《隼鬼》の加護。
それは、プレイヤー同士で戦い、傷つけあう世界に半強制的に弟子を放り込んでしまったことに対する、せめてもの贖罪。
弟子の敗北に繋がる要因となる全ての攻撃を防ぎ、その攻撃を放った者を瞬時に切り刻む全自動反撃。
《風姫》が《コロッシウム》で全勝ではなく、無敗であるのは、コレが理由である。
たとえ勝てなかったとしても、最強の加護により防衛され、勝利してしまう。
一つ、難点を挙げるとするならば、全自動であること。
全自動だと、わざとダメージを受けたい時に受けれず、周囲を判別なく切り刻んでしまう。
今回もその例に漏れず、斬りたくないものまで斬れてしまう。
「…………看守?」
気づいた時にはもう遅い。
もはやそこには細く細切れにされ、データとなりかけている肉片しか残らなかった。
その様子を、ただ眺めることしかできない《風姫》。
気がつけば勝負が終わっている時に似た現象だ、と思った。
彼女は気づかないのだ。
自分の不注意によって加護が発動し、何もしていない人間まで巻き込まれていることを、彼女を理解しない。
そこまでが、《隼鬼の加護》。
脳波を使った記憶の改竄をし、加護の存在を彼女の記憶から消すからこそ、彼女は加護の存在を知らないし、《隼鬼》の贖罪も果たせる。
彼女にゲームでのPKをさせず、罪悪感を感じさせずに勝利させる、《風姫》の知らない、独善的に優しい加護。
彼女に罪の意識を持たせないことに徹底した、《隼鬼》なりの気配りなのだ。
「…………《隼鬼》も、酷なことをするな。アイツはまだ20代だろ。俺よりも随分と若いくせして………」
「《隼鬼》くん、僕より年下なんですか。なのに《風姫》へのあの気配りは大人びすぎていると言うか……手慣れてません?」
「そんなことはない…………はずだ」
《風姫》を遠くから見守りながら、《錬金翁》と《カタクリフト》は《隼鬼》の人柄について恐怖を覚え始めていた…………。
〉〉〉
「…………また、《風姫》にかけた加護が発動した……」
周囲が緑に囲まれた、ある花畑の中で、甚平を着た男は悠々と歩いていた。
両脇に咲くキラキラした花を眺めながら、男はある広場に向かう。
「………ふぅ、今日も誰にもバレてなさそうだね」
花畑の中、不自然に突き立てられたバーを中心に、円形に草が刈り取られていて、そのバーの上には、バランスよく甲冑がしゃがんでいた。
漢が広場に入ると、その甲冑はバーから飛び降り、こちらに向き直る。
『花の嘆きが、聞こえぬか?』
少しノイズの入り混じった機械音声で語りかけてきて、腰の鞘からスラリと刀を抜いた。
甚平を着た男は、虚空に浮かぶステータス画面から刀を取り出した。
「このゲーム内で一度しか倒せない、通称『ラスボスへの道』、《真実の敵》。その一体である《フラワー》、お相手願おうか」
仮にも、《メビウス》はゲーム。
コンテニューを許可している惑星で、ワールドボスのような扱いを受けるモンスターも存在する。
その内の一体。
《フラワー》に挑戦する男、《隼鬼》は大仰に名乗りを上げた。




