記録81_昔話
《風姫》は、床に倒れ伏し、ボロボロになった看守の隣にしゃがんで一息ついた。
「かける情けもないだろう。はじめは俺がお前に攻撃したんだ。俺が殺されても、社会には影響もないし、悲しむ家族もいない。早くやれ」
「そんな悲しいこと、よく自分で言えるな」
呑気に空を眺めながら、看守に問いかける。
「アンタ、ウチに自分の事情話してんだし、ウチもアンタに自分のこと話すかな〜」
「………は?」
「んっとねぇ、うちの場合はぁ、《隼鬼》の弟子として払われる前はねぇ、普通のゲーマーだったんよねぇ」
「………??」
急に、聞いてもいない《風姫》の身内話が始まる。
全力を尽くして倒れ伏している看守には止める術がないため、黙って聞き入れることにした。
「《メビウス》っていう一世一代の激アツなゲームができてぇ、そこにはあらゆるゲームの情報が詰め込まれ、やろうと思えばどんなゲームでもプレイできて、PKとかが許可されてる惑星とかには近づかなかったんだけど、そうやってプレイしてたら全然楽しいゲームでねぇ」
「それで、どうして《隼鬼》と出会った?」
「それがさぁ、一時期他プレイヤーとパーティを組んでPK無しの惑星でモンスター狩りしてたんだけどさぁ、そのパーティ組んでたプレイヤーに騙されてぇ、そのままPKアリの惑星に飛ばされてさぁ………」
「それはまぁ、災難だったな」
「ま、そこで襲われて、もうダメだーってなった時に、助けてくれたのが隼鬼なわけですよ」
その話を聞いた時、看守は驚いた。
なんと言ったって、あの《隼鬼》だ。
手合わせした瞬間にはバラバラになり、最近まで都市伝説であった男だぞ。
PKなどをする事に堕ちていない人間には、こうも優しいのかと驚愕した。
なるほど、元々プレイヤーと望んで戦っているわけではなかったのか。
だから、こんなにも…………。
と、その時、視界の端で捉えたのは、黒い影。
《隠し能力》派閥の次の対戦者だ。
《錬金翁》と戦えるように調整された対戦者であり、今回派遣された《隠し能力》派閥の雑兵の中でも最も強い奴だ。
《風姫》との歓談中、看守と《風姫》の両者ともを屠るために振るわれた、殺意ある一撃。
動けない身体の看守は、大人しく死を待つことしかできなかった。
しかし、《風姫》はその凶刃にも気づいてすらいなかった。
この瞬間、看守は『終わった…….』と思った。
自分の命が?まぁ、それもあるかもしれないが、どちらにせよこの攻撃は成功しない。
奴の攻撃は、《風姫》の完全な虚をつく形の攻撃となった。
なってしまったのだから。
《風姫》が《コロッシウム》で全勝、いや、無敗である理由は、看守が一番よく知っている。
《コロッシウム》に入った剣闘奴隷の、ほぼ全てを監視してきたのだから。
だから分かる。
《風姫》の特大の大きな隙に攻撃をすると、どうなるのか。
黒い影の攻撃が弾かれ、その凶刃には戸惑いが浮かぶ。
次の瞬間に発せられた声に、この場の誰もが戦慄することとなる。
『《隼鬼》 の 加護………』
そう、コレが無敗の理由。
致命傷のことごとくを自動的に防御し、反撃する半チート、『《隼鬼》の加護』である。




