記録52_愚かな男
「……ぅ、うぅ、あぁあぅうううううぅああぁぁぁ!!!」
辺りを震わせるほどの自身の絶叫により、目が覚める。
「ここは…………」
辺りを見回す。
愛用のベッド、カップラーメンの空が放置された食卓、脱ぎ捨てた衣服の数々、無駄に多い段ボール。
そして、足元には全方位ランニングマシーン、今さっきまで寝ていたところの、頭にあたる部分には…………。
「バイザー………」
現実に帰ってきた。
帰ってきてしまった。
また、始まってしまうのかもしれない。
あの、地獄のような職場の中に身を置かなければいけないのか!?
〉〉〉
これは、一年前のこと。
俺はキラキラの新入社員として、この会社に就職した。
『今日から貴社で勤めることになりました。西方 上久です。よろしくお願いします!』
パチパチとまばらに拍手が起こる。
『わからないことがあればいつでも聞きなさい。ここにいる人たちはみんな優しいから、なんでも答えてくれるさ』
社員に紹介し終えた社長が声をかけてくれる。
その言葉に、どれほど頼もしさを感じていたろうか。
少なくとも、その言葉が嘘であると俺は見抜かなかった。
今思えば、彼らも疲れていた。
人を騙して自分たちが楽になるなら、騙すことに罪悪感を覚えないほどに疲弊していたのだ。
こうして、俺は抜け出せない沼の中で足掻く奴隷の一人となっていた。
〉〉〉
入社して数ヶ月経った。
この頃になるともう俺の心は限界を迎えていた。
今だからこそ気づいたが、アレが『ブラック企業』と呼ばれるものだったのか。
入社以来、家に帰れたのは片手で数えれるくらいな気もする。
精神的にも肉体的にも、もうやりたくと悲鳴を上げていたが、もっと違う何かによって、この仕事机と向かい合い、ディスプレイと睨み合っていた。
先輩に『休みは取らないんですか?』と聞けば、
『休んでもいいんだけどさ、今でも納期に全く間に合わないから休んでらんないんだよねぇ。時間は有限だって痛感させられる毎日だよ』
とも言うし、
『だって休んだら申し訳ないだろ?上司にも叱られるし、納期には間に合わないし、他のみんなは必死にやってるんだ。そんな中、一人でノコノコと帰れるほど僕は強くないんだよねぇ』
とも言う。
もう俺もやりたくはないけど、何故か楽になってはいけないと思ってしまう。
納期に間に合わずに課長に怒鳴られる。
納期に間に合っても何かと難癖つけられて無理難題を押し付けられ、挙げ句の果てには殴られる。
もう、逃げ出したかった。
たった数ヶ月。
されど数ヶ月である。
だが、そこで希望が見えた。
『来週から《メビウス》での新事業を始める。それにしたがい《メビウス》支社に移るやつを募集中だ。興味があるやつは来い』
チャンスだと思った。
なんてったってゲームだ。
昔からずっと、ゲームだけはできていたが、会社に入った途端できる時間は億分の1にも満たないほどになっていた。
それが、正式に仕事としてできるのであれば願ったり叶ったりだ。
早速、俺はそれに立候補した。
課長からの暴力もあったし、周囲からも冷ややかな目で見られたけど、これからが楽しいんだ。
今までのことなんか忘れて頑張れるんだ。
その時、俺の世界はどことなく輝いていた。
〉〉〉
《メビウス》支社に移り、視野が広がっていた上久だったが、そこでも壁に衝突した。
その《メビウス》支社。
『在宅ワークだから』みたいな理由で、ほぼ24時間労働をさせてきた。
さすがに、それはないと思った。
それは他の人も思ったらしく、次々に抗議の声が広がった。
だが、その声を掻き消すかのように、上司たちは抵抗する者達を全員倒してログアウトさせた。
「いいか。ゲーム内だからって楽できると思うな。機械をつけていると言うことは、監視されているということを覚えておけ!」
上司達からのプレッシャーはやはり変わらなかった。
気が沈んでいた、そんな時に。
彼と出会ったのだ。
『おめでとうございます、あなたは選ばれました。あなたは強力なチカラを欲しますか?』
「………もちろんだよ。あんなクソ上司、全員殺してやるってんだよ………!!!!」
『承諾しました。名前《死神》に変更。隠し言語により、《死神》に隠し能力を授けます』
コレが、西方 上久、および《死神》の生まれた経緯である。




