記録4_試練の読み合い
今、みんなからは馬鹿にされるけど俺を瞬殺できるほどの能力を持っている《霊卓》との勝負が始まろうとしている。
「ねぇ真人、強くなったの?刀なんか使っちゃって。あれ結構使いにくいじゃん。慣れないと無理だよ?戦うの、わかってる?」
「そう思うなら手を抜いてやれ。俺は構わんぞ」
「その脅し方が一番怖ぇよ」
そう言いながら双剣を取り出す。
ダガーのような短いものではなく、片手剣を二つ持っているような感じだ。
「じゃ、始めるよ」
………始まる。
俺の実力を測るための戦いが、始まる。
勝てなかったら、俺はまだまだあいつと一緒に動くことはできない。
…………絶対に、負けることはできない。
「よーい!スタート!」
〉〉〉
始まりの合図がなる。
刹那、目の前に現れたのは早昌くんの顔面。
前までなら、驚いて反応できなかっただろうが、今は違う。
冷静な頭で、的確に行動していく。
相手は突進に加えて左手で払い、右手で突いてくる。
まずは、右から迫ってくる左手の剣の振り。これは避けて流す。
そして、次に来る右の剣の突きは腹を捻って避け、脇で挟み、剣の腹を押さえる。
「!?」
脇で捉えた剣の腹はフェイク。
相手の死角に入り込み、剣を捉えられているから相手はそれを目で追わざるを得ない。
そこで、視線誘導をする。
姿勢を最低限まで低くして相手の視線から自分を通り過ぎさせる。
脇で捉える剣は脇から離して手で押さえる。
そのおかげで、まだ相手は剣の腹を捉えられたままだと思い込んでいる。
そして、ここだ。
相手が気づいていないこの一瞬で、刀の基本的な構えを取る。
基本的であり、それでいて今の俺の中で一番切れる構え!
防御も、他の集中力も全てかなぐり捨てて、今この瞬間にに集中して刀を振り抜く。
と、好機を見出した途端。
早昌くんと目が合った気がした。
一瞬、戸惑った。
この一瞬の間、彼は俺を見失っていて、俺を探すために視線は普通の高さのはずだ。
普通であれば、気がつかない。
何故目が合うのか。
ここで目が合うのは不自然なのだ。
何か、おかしい。
まるで、ここまでやるのがお見通しのような。
「………まだまだ、行けるでしょ?」
振り抜いた刀がいつのまにか弾かれる。
左の剣だ。
彼は右の剣を真上に投げた。
まずい。
今の早昌くんは一つの剣を両手で自由に使える。
両手に一本ずつでも、一本のみでも戦い慣れているのだ。
一本の剣を両手で使うのが慣れていないことを望むが、だとしても、自由度が高くなった剣は危険だ。
「こっちから、行くよ?」
一度引く。
その瞬間、早昌くんは大きく距離を詰めてくる。
大きな袈裟斬り。横振り。突き。蹴り。
全て避けられる範囲で避ける。
しかし投げた剣が右手に戻ってきた。
帰ってくるタイミング、位置、全てわかっていたかのように、当然完璧だ。
まだまだ相手の攻勢は続く。
両手で横振り。左の突き。右の払い。両手で十時斬り。左の袈裟斬り。両手斬り。回転蹴り。
流れるような一連の動作で攻撃してくる早昌に対して、俺はいなすばかり。
刀だったらかなり避けにくい。
弾く。避ける。弾く。弾く。刀で受ける。避ける。避ける。弾く。
「あらあらぁ!ちょっと焦ってきたんじゃなあい!?」
相手はかなり慣れている。
攻勢逆転の隙を与えない。そんな感じだ。
…………だが、残念ながら。
左股関節。
あそこが他の部位より少しだけ緊張が緩んでいる。
あそこに刀を叩き込めば多分形勢は逆転する。
それまでは後退し続けて、ゆっくり、タイミングを狙って、まだ、まだ………。
ここ!!
刀を全力で振り抜いてやる!!!
「………!?なっ!?」
相手は、急な反撃に少し驚いている。
その隙に攻勢を整える。
ガキン!
刀と剣で拮抗する。
片手でしているが、キツくなったのか、2本で対抗し始めた。
「くっ……!急に………」
焦りが見え出した。
今は色々なところがガラ空きだ。
さっきの早昌がしていたような、『流れるような動き』を意識して、刀を動かし始める。
一旦剣を弾き、その隙に懐に飛び込む。
「うおっ」
双剣に防がれるが、今はそんなの思考の範疇。
ちゃんと仕留めるためにどういくかは決めてある。
しかも、隙がありすぎだ。
まず、とりわけ隙のデカイ脇をいく。
脇めがけて、刀を思いっきり上向きに振り上げた。
まぁ、ギリギリで弾かれた。
だが、連続で手首を狙うと、案外あっさり傷を負わせられた。
この調子だ。
手首の次は肘だ。
関節だから切りやすいはずだ。
骨の通り方され考えれば、腕を切り落とせる。
が、それを勘付かれて引かれてしまった。
勘付かれたのは不味かった。かなりの隙が改善された。
が、まだ、最後に残っているものがある。
真人がかなりの確率で狙ってて、人にとって即死の弱点。
首だ。
他に気づいても、ここに気が回されていなかった。
ここを切れれば、勝負は俺の勝、ち………!?
《霊卓》がにやりとした笑みを浮かべる。
その時には止めることもできず、俺は刀を振り下ろすが……。
「やあぁ〜〜〜〜っと餌に捕まったな?ずっと誘ってたのに来ないから勘付かれたのかと思ってたよ」
首に迫っていた刀を衣服の紐で服に縛り付け、俺の右手を抑えながら早昌は言っていた。
〉〉〉
今回の戦いは、読み合いを制するほうに勝つものだった。
二人は似たようなタイプだ。
翔のすごいところは、常人とはかけ離れた集中力や、圧倒的な動体視力。
《霊卓》の利点は人よりも数手先を見通すこと。
翔も、集中力によって相手を先読みした動きをする。
だが、それに関しては専門分野で負ける《霊卓》ではない。
翔は見て、集中して、その場はどのように動いて、どう事態を動かすかを自由自在に支配していた。
対して《霊卓》は、それを踏まえた上で、罠を張った。
それは、わざと隠しているように見える隙を見せ続ける。
という、負傷覚悟の博打だったわけだ。
最初はちゃんと相手の動きを読みながら相手をしていたが、翔が攻勢に出たあたりで、罠を張ってあったのだ。
この時から、左股関節の警戒を緩め、わざとそれに気づくよう仕向けた。
左股関節を狙われ、焦り出したフリをして、隙を絞って言って、首に刀をこさせる。
この時点には、もう準備し終わっていた。
彼の能力、《ポルターガイスト》の準備が。