記録40_最強と呼ばれた男の最期
「素晴らしいよ、《錬金翁》。君はよくやった。この私が称賛するほどね」
「それは、誇……れる…も、ん………なの、か?」
《錬金翁》VS《ドクター》。
雌雄は決した、と言ったところだろうか。
そこには、《ドクター》に首根っこを掴まれて持ち上げられる《錬金翁》がいた。
辺りには乾いた血が飛び散り、最初は整理して積み上げられていた資料も、ほとんどが原型を留めないほどボロボロになっていた。
《錬金翁》の首の骨がゴキゴキと嫌な音を立てる。
「まったく、何度死ぬかと思ったか。これでまだ本気でないのだからあなたは本当に恐ろしい」
「嘘だろ。お前、めちゃくちゃ、無傷、じゃねぇか。遠慮なく、完敗、って、言えよ………」
「いえいえ。あなたも知っての通り、私はただただ破壊力が強いだけですからね。HPはカス同然です」
「お前の掌は、流石に強すぎる。流石の俺も、そいつを使われちまえば、普通に倒される」
握られていた首により一層力を加えられ、《錬金翁》も息が苦しくなってきた。
そして、掴まれているところから塵のような何かが舞い上がってきた。
「もう通信は切ってありますか?でなければ、このまま、通信元まで被害が出ますが」
「おっと、それは、まずい。では、これで、俺は、お暇、しようかな」
息も絶え絶えの状態で、《錬金翁》は安らかに目を閉じて、言った。
「それじゃあ、またな」
「ええ。それでは」
そういうと、《ドクター》は首を握りしめ、握りつぶした。
『元』《錬金翁》の首を取った。
頭がゴロゴロと転がってくる。
そして、いつのまにか仕掛けたのか、その頭の後頭部から電子メッセージが浮き出てきた。
そのメッセージは。
【『賢者の石』は、回収させて貰ったヨ☆】
そのメッセージに、《ドクター》はハッとして辺りを見回す。
散乱した書類や資料の中、隠すように置いておいた金庫の中に保管していたはずだったが、いつのまにかその鍵は外れ、空の金庫のみが残されていた。
「………これは、やられました、ね………」
額に手を当てて、仲間の違法プレイヤー達にどう言おうか苦悩する《ドクター》であった。
〉〉〉
とある密室。
誰もいない空部屋の中、ただ一人、長らく座っていた椅子から起き上がった。
久々に開ける目を擦り、辺りを見やる。
川と呼べるほどの大量の、太く、長いケーブルが後室に続いており、周りにはそれと玉座のような椅子以外、何も無かった。
全ての床が、ケーブルで埋まっている。ただそれだけの部屋だ。
「長い夢でも、見ていた気分だな」
ゲーム内で、多くのコンピュータを使うなんて、なんだかおかしな話だ。
そう自嘲しながらもこの部屋を見回し、また玉座のような椅子に座った。
「《翔身》、《引力核》、《鋼鉄魔人》、《食龍》、《スナイパー》、《女傑》、《霊卓》、《睡魔》……………」
ぶつぶつと、今の盤面上にある駒を呟いていく。
そして………
「《集眼》、だな」
まだそこには無い駒の名前を呟き、正面にあった壁にモニターを映し出す。
「やはり、キングは《ドクター》と、《睡魔》……」
モニターに映る戦闘状況の映像を見て、彼は作戦を立てる。
「やはり、切り札としては、《翔身》が一番厄介だ」
ちょっとモニターを眺めたきり、立ち上がって出入り口の方へと出向く。
「ちょっと久々に、頑張るか………」
切り札として、立ち上がり、彼は乱戦と化している《食龍》サイドへと出かけていった。
彼が去った後には、何事もなかったかのように放置されたモニター、玉座にケーブル。
そして……………。
その玉座の裏に嵌め込まれた、《賢者の石》が残っていた。




