記録29_突如やってくる『彼』
「……いやぁ…軽い………ばくは、つ……だっ、たよ………ふぅ……」
「……いやいやいや。それおかしいって!!」
《女傑》、日宮 美花
そりゃあ、そういう反応にもなるだろう。
杭で貫かれた《引力核》は、吐血しながらも、その胸には杭が爆発した様子はなかった。
何でもかんでも、彼が『軽い』と言えば全てが軽く終わってしまう。
彼に直撃した杭。
彼の胸を貫き、拳一個程度の大穴を開けた。
これはもはや紛れもない事実だ。
これはいい。
だが、爆発の方は、話が違う。
杭による被害はもう出ているが、爆発は明確な被害というのは判別出来ない。
だから、ちゃんとダメージがあるのか、そう言ったものはわからないのだ。
だから、彼が『軽い』と言えば、それは軽くなってしまう。
「化け物が………!!」
「いや、は…や……。効いたよ。こりゃあ……肺が……片方……………潰れ、ちまった…見たいだ、な………」
だが、杭のダメージによりもはや満身創痍。
《スナイパー》も《女傑》のそばに戻ってきた。
これで2対1。
ここで決着がつく………。
そう思っていた瞬間、彼は来る。
「ありゃりゃぁ。《引力核》さん酷いことになってるじゃないですか。大丈夫です?」
「は、はは…。《翔身》。捨てて、なかったんだ……ね。僕、の……こと」
「安易に捨てられるほど、あなたの存在価値って低くないですよ。さー撤退しましょ。俺は残業嫌ですからね」
さも当然のように、彼はそこにいた。
「……あんた、《食龍》とかいう奴に喰われた………」
「あぁ、そういえばあなたにはまだ言ってませんでしたね。僕の《隠し能力》。ま、近いうちにわかるから説明しなくていっか!」
なんとも軽々しい。
ゲームとは言え、ここは戦場だ。
この飄々とした空気………何か裏があるとしか思えない。
「あなた、確かワープが使えるんでしたっけ?」
「敬語とかこわいなぁ〜…って、あぁワープね。うんうん、それっぽいの使えるよね」
「じゃあ、あなたもここで退場してもらった方がいいわね」
神経銃を飛ばす。
《翔身》は避けるが、足首に神経が当たってしまう。
「はい、あんたもこれでおしまい」
「おうおうおう!やっぱすごいなぁ!女傑!だ・け・ど……」
彼が自分の右手で左手首を掴む。
「実験、開始だね!!」
彼は、《パラドックス》を使用した。
右手が左手首に吸い込まれ、背中から飛び出ている。
そして、そのままズブズブと右手から右腕、肩と入っていき………。
そして、『出口』であった背中から、《翔身》はパックリと割れた。
そこには、分裂した2人の《翔身》がいて。
「なるほど、神経は左右どちらかの方しか継承せず、また新しく作られているのか。つまり、さっき神経銃が当たったのは左足だから、左の僕が神経を乗っ取られていっている」
「なぁ、これ、頭は共用なんだろ?脳にたどり着いたら、俺たち終わりじゃないか?」
「そうか。じゃあ、すまんな。左側の僕。頭を狩らせてもらう」
「まぁ、いいってことy“ズパン!!”………」
片方の《翔身》が、もう片方の《翔身》を殺すという、異様な光景が完成した。
「!?え、ええぇ!?ど、どういうこと?2人に増えて、片方がもう1人を殺して……?」
さすがに、これには《女傑》も《スナイパー》も驚きを隠せなかった。
「あ、説明せずに今のはかなり衝撃が強かったかな?まぁ、今のが、僕が《食龍》に喰われても生きている理由ね」
淡々と説明しやがる。
もはや人ならざる身でありながらも、飄々とこれが全人類の常識、と言ったように嘯いている。
「《女傑》!驚いてる、場合じゃ、ない!!」
やはり、数多の死線を潜り抜けてきた歴戦の猛者というべきか、世界ランカーよりも早く、異変に気がついた。
そう、先ほど《翔身》たちの会話ででた、『神経銃の神経は両方に継承されない』。
つまり、今。
彼は《神経階位》の障害を受けない。
「!!まずい!!!!」
呆気に取られていた《女傑》は反応が遅れてしまった。
「いやぁ、じゃあ。またお会いすることを楽しみにしておりますよ。皆々様。それでは、ご機嫌麗しゅうことで」
彼らは、《翔身》を中心にして、全員が『裏返って』消えた。
そして、そこに残った《翔身》の残り。
そいつは、私たちが何かをする前に自害した。
「……おわっ……た?」
「ええ。史上、最悪な、捨て台詞を、残して、ね。」
《引力核》VS《スナイパー》の戦いは、これにて終幕となったのだ。




