記録1_《メビウス》と学校
近未来、超高性能VRゲーム《メビウス》。
そのゲームは、物理法則を無視した現実世界と言っても過言ではない。
自分が手を挙げればアバターも手を挙げ、自分が走ればアバターも走る。
アバターは自分で好きに作れるし、言語は設定をすれば瞬時に自動で翻訳してくれる。
そのおかげで、男女の垣根なく、そして人種の垣根なく接することが可能だ。
ゲームによくある、細かいところまでプログラミング出来てないから行けない場所、なんて場所は無く、何から何まで全て自由。
果てには、このゲームには自分だけの惑星を持っている人もいる。
それに、自然現象に縛られず、自分がしたいことをできる。
魔法は当然、スーパーヒーローのチカラを手に入れたり、無重力空間で息がしたいと思えばそれは叶う。
ただし、その権限は全てのプレイヤーに平等だ。
確かに自由に過ごせるが、それを縛るプレイヤーがいると成り立たない。
確かに現実でできないことも出来るかもしれないが、それを不可能にすることができるプレイヤーもまた、存在する。
このゲーム中にも、人殺しは存在し、ただし警察の様な地域の平和を守るような人はいない。この世界ではそのような人達は圧倒的に強くないとすぐに死ぬからだ。
そんな奴を何人も集めるなど、現実的に考えて無理な話だった。
設定をいじればPvPを禁止することはできるのだが、その設定をいじることができるのは運営のみ。プレイヤーは要望を申請できできるだけだ。
できることは違えど、社会性は現実と同じ…いや、それ以下の可能性すらある。
ただし、このゲームのすごいところはビジネスに使われていることだ。
このゲームは、中毒性が高く、ゲームが得意な人からは最高の環境だったため、売れ方は尋常ではなかった。
そして、このゲームは社会現象を巻き起こし、遂にはそのゲーム内で、武器や金貨、特殊アイテムの類を売り捌くところが現れた。
そこからは、なし崩し的にことが進んでいった。
それを真似した企業がどんどんと店をたて、やがて惑星ひとつが店に覆われた。
それに、そのうち運営が正式に許可をだし、惑星を売買する企業も増えていき、そのうち《メビウス》でも仕事ができるようになった。
その後、現実でできることは全て《メビウス》でできるようになった。
仕事はさっき言ったように、加えてスポーツが、洗濯機や掃除機に接続すると家事が、飲食も、特殊デバイスによって味から食感まで再現された。
そして、ゲームスーツを着て、触覚がメビウスに入った。
最終的には、視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。
加えて冷覚、温覚までもゲームの中に入り込み、五感を含めたさまざまな感覚がゲームにのめり込み、一部の人間は、常に現実を意識して一日過ごせることができなくなるほどだった。
魔性のゲーム。と言えるだろう。
このゲームは、日本人、『臣長 英二』が、世界から集めた開発チームと共に作ったゲームだ。
そのゲームのトップランカー。
戦闘最強の男。
それが、《睡魔》と呼ばれる、プロゲーマー、『臣長 真人』の実態である。
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公立メビウス第一高校。304教室。
この高校はゲーム内の高校である。
ゲーム内に高校を作るほど、政府はこのゲームを気に入っていると解釈してもいい。
高校2年の俺、浜崎 翔は、結構な勝ち組の人生を歩んでいると思う。
父はそれなりに金持ち。母からは年がら年中愛を注がれて育ち、努力しなくてもそれなりのことはやればできる。
そんな俺だが、最近ちょっとしたことにハマっている。
ゲームで進んでいくこの社会。そんな中で勝ち組でいるあいつ……。
「おい、臣長。起きろ!寝てばっかだと成績やばいからな」
あいつ、『睡魔』でお馴染みの臣長 真人だ。
ゲームで最強のあいつは、学校ではずっと寝ている。
睡魔のゲーム名は、あいつがゲームを始める際、『お前はずっと寝てるから《睡魔》とかいいんじゃね?カッコよくてwww』という言葉から、ずっとこのゲーム名らしい。
授業には毎回寝坊。
休み時間も授業も必ず寝て、始まりや終わりの挨拶も起きない。
ただし、全員手が出せないのは、ある事件がきっかけだった。
昔、あいつが寝過ぎて教師の一人がガチギレしたらしい。
むかついて真人を殴ろうとするとすぐに起きて、全ていなして反撃した後に、何もなかったかのように寝たのだと聞いた。
それを聞いて『なんでできたか聞いたことある?』と疑問をぶつけてみると、
『なんか…野生の勘?とか言ってたぞ?噂では、ゲームスーツの感度が良すぎて空気の揺れでわかったのでは?って噂があって、確かにあり得そうだなって話を今さっきしてたなぁ』
と聞いた。何それバケモンかよ、とも思った。
しかし、その事件以来、臣長 真人に興味を持った。
同時に、その事件により寝ていることを注意する奴も消えた。
今日も、あいつは熟睡している。
学校ではああやって寝ているが、ゲームでは鬼の形相で敵を狩っていたと聞いたことがある。
何故か、はわからない。
だが、
ちょっと、あいつとゲームしたいな、と思った。
いや、しなければならないと思ったのだった。